最強の冒険者様方。――どうぞ、わたくしの舞踏に付き合ってくださいます?
王都の空は、薄雲の隙間から月光が差し込み、まるで銀の絹糸を敷いたように輝いておりましたの。
しかし、その静けさを破るかのごとく、街の門を叩く足音――馬の蹄が石畳を揺らす。
王国の“最強”と呼ばれた冒険者パーティが、今宵、裏切りを企てておりますわ。
「お嬢様、王都南門に異変がございます。」
「ふふ、そうですのね。騒がしい夜ほど、舞踏は美しく映えるものですわ。」
昼は王都の薔薇、夜は白薔薇の君。
わたくしは黒のドレスに身を包み、銀の刃を手に静かに歩きます。
目指すは城門、そして裏切り者ども――最強と呼ばれし彼らの面前。
門の前に立つ冒険者たちは、剣や魔法、盾や弓を携えておりますわ。
その自信に満ちた視線、確かに“最強”の名に恥じませんけれど――
「強い」というだけでは、罪を裁くには足りませんの。
リーダー格の男が前に出て、刃を構えましたの。
「王都の薔薇よ、今夜はお前を倒し、我らが王国の未来を創る!」
「ふむ……どうやら貴方たちは、王都に不満を抱いておいでですのね?」
「不満などという生易しいものではない。我らは国王の圧政に苦しめられてきた。
国民のため、王都を変えるのだ!」
なるほど、理由はそれですわ。
王都の“最強”と呼ばれた彼らも、かつては国民を守る者であった――
しかしその力と名声を、怒りと不満が腐らせたのですの。
王国を変えようとすれば、犠牲は避けられない。
だからこそ、わたくしのような“秩序の舞踏者”が介入する必要がございますわ。
「まぁ、口上は詩的ですわね。でも、詩は読んだだけでは死なぬのですの。」
わたくしは銀の刃を振るい、月光の反射で敵の動きを映しますの。
彼らが攻めかかる瞬間――風のように、音もなく動き、先手を取る。
剣が交わる音は、かすかな鈴の音のよう。
血の香と月光の輝きが交錯し、舞踏のような戦場が広がりますわ。
「最強と呼ばれし者たちも、わたくしの手にかかれば――舞踏の伴侶に過ぎませんの?」
「……“白薔薇の君”。我らの力を侮るな!」
そう、わたくしは裏世界では白薔薇の君と呼ばれておりますの。
昼の顔とは違う、夜の街で伝説と化した名ですわ。
魔法が飛び交い、剣が交錯する中、わたくしは静かに、しかし確実に敵を裁いてゆきます。
血は滴りますけれど、わたくしのドレスには一滴も触れません。
すべては舞踏。死もまた、優雅であるべきですの。
最後に残ったリーダー格の男――剣の先が月光に反射し、わたくしに迫る。
「ここまで……か」
「いいえ、ここからですわ。」
銀の刃が月光を切り裂き、静かに、しかし断固たる裁きを下します。
戦いが終わると、王都の門には再び静寂が戻りました。
クラウスがランタンを掲げ、深く一礼。
「お嬢様、今宵も王都を守り抜かれました。」
「ふふ、王都を裂く舞踏も、舞う者がいれば美しくなるのですわ。」
闇の中、白薔薇は再び咲き、静かに王都を包み込む。
王都の石畳に、再び静寂が戻りましたの。
夜風が髪を揺らし、街灯の光が長い影を落とす。
クラウスがランタンを掲げ、そっとわたくしの横に並びます。
「お嬢様、今宵も……その手際には恐れ入ります。」
「ふふ、恐れる必要などございませんわ。ただ、舞踏を踊ったまでですの。」
「舞踏……ですか?」
「えぇ。剣と魔法、怒りと裏切り。すべては舞踏と同じ。動きひとつ、間合いひとつで結末は変わりますの。」
クラウスは微かに笑みを浮かべ、うなずきました。
「しかし……王都の守護者でありながら、最強と呼ばれる者たちに刃を向けるのは、心穏やかではございませんね。」
「そうですわね……でも、力があれば正しいことをするとは限りませんの。最強という称号は、時に最も危ういものなのですわ。」
月明かりがわたくしのドレスを銀糸のように照らす。
「ねぇ、クラウス。力を持つ者は、何のために戦うべきだと思いますの?」
「……お嬢様は、もうご存じでしょう?」
「えぇ、力は秩序のため、そして……舞踏のためにございますの。」
クラウスがランタンを少し高く掲げ、影の中でそっと微笑む。
「お嬢様は、舞踏するたびに世界を少しだけ美しくされますのね。」
「ふふ、困りますわ。そんなことを言われると、また夜風に踊られたくなりますの。」
二人の影が長く伸び、王都の夜に溶けてゆく。
血の匂いも、魔法の残香も、すべては夜の闇に溶け、白薔薇は静かに咲き誇る。
「今宵もまた……罪深い夜でございましたわね。」
「ですが、お嬢様、そのおかげで王都は平穏を取り戻しました。」
「ふふ、クラウス。平穏とは、紅茶と同じですの。温もりを味わう間もなく、次の一杯を淹れる時が来るのですわ。」
夜風が髪を揺らし、銀の月光が二人を優しく包み込む。
そして、白薔薇の君は静かに、次の舞踏の夜を待つのでございましたわ。




