やはり、白薔薇の君としてのわたくしの方が気楽ですわ。
夜の王都は、相変わらず宝石箱のように光っておりますわ。
ガス灯のひとつひとつが淡い金色に輝き、石畳に映る影が柔らかく揺れる。
遠くでは、夜の劇場の楽団が軽やかに旋律を奏で、月光が建物の屋根を銀色に染めております。
——ふふ、半年ぶりですわね。家族の嵐も過ぎ去り、今日もまた夜の任務が待っておりますわ。
セシリア・フォン・アルバーン、白薔薇の君としての夜の顔を取り戻す時ですの。
忠実なる執事クラウスがそっと背後に立ち、低く声をかけます。
「お嬢様、今宵の標的は、王都に偽造貨幣を流通させようとする組織でございます」
「ふふ、王都に相応しくない卑しい所業ですわね」
紅茶の香りが残る書斎の窓辺で、わたくしは静かに微笑みを浮かべます。
屋敷を抜け出し、裏通りに降り立つと、影が闇に紛れるように動く。
——街を汚す者たちを、美意識に従って裁く時ですわ。
クラウスが軽く頷き、共に静かに敵の動向を探ります。
組織の拠点は、王都南区の古い倉庫。月光が差し込む窓枠の影に、男たちが偽造コインを袋に詰めておりましたわ。
「ふふ、下品な手つきですこと……」
わたくしは囁き、影の中から歩を進める。
扉を開けると、男たちは驚き、短剣や棍棒を手に構える。
「誰だ……!」
「ごきげんよう、王都の秩序を乱す方々。お久しゅうございますわ」
月光の下、黒のドレスが揺れ、銀の針が静かに走る。
音もなく、男たちの手をすり抜け、首筋や手首を掠めて制圧していく。
クラウスは背後から迅速に援護し、敵を混乱させる。
数分後、倉庫は静寂に包まれる。
袋に詰められた偽造コインは、すべて回収され、男たちは動けぬまま床に倒れておりますわ。
「これで王都に偽りの富は広がりませんわ」
わたくしは、倒れた男たちの前に小さな白薔薇を置き、囁きます。
——美しいものほど、罪を秘めておりますの。
外に出ると、夜風が髪を揺らし、遠くで鐘が鳴る。
クラウスが微笑み、刃を収めながら言います。
「お嬢様、今夜も見事でございます」
「ありがとうございますわ。ですが、街を守る責務は、まだまだ終わりませんもの」
闇の中、白薔薇は静かに咲き、血の匂いもなく、夜の王都は再び穏やかに眠りにつくのでしたわ。




