喜びというのは、必ずしも感じれるものではありませんわ。
夜が深まる王都。月光が屋敷の庭に静かに降り注ぐ。
セシリア・フォン・アルバーンは黒のドレスを脱ぎ、窓辺に座りました。
忠実なる執事クラウスは、静かに後ろに立ち、見守ります。
——今夜は、家族の中の裏切りを未然に防ぐことができましたわ。
しかし、喜びはありません。
誰かを止めるということは、必ず孤独を伴うものですの。
書斎では、次男ルーカスが独り、書簡を握ったまま椅子に座り込んでいます。
——昼には温かい笑顔を見せる兄が、夜には歪んだ決意に取り憑かれていた。
そのギャップは、家族の中に静かに緊張を生む原因となりますわ。
わたくしは深く息をつき、月光に照らされた白薔薇を見つめます。
——誰にも知られぬ夜の顔、白薔薇の君としての責務。
家族も孤児院も、街も、すべてを守るために。
クラウスがそっと紅茶を差し出します。
「お嬢様、今夜も無事に任務を終えられました。
どうか、お体を休めてくださいませ。」
「ありがとう、クラウス。えぇ……でも、休めるのはほんのひと時ですわね。」
わたくしの唇に、微かな微笑みが浮かびます。
窓の外では、銀色の月が揺れ、庭の白薔薇も静かに風に揺れています。
——昼の家族の温もり、夜の決意、そして孤独。
すべてを胸に抱き、わたくしは静かに決意を新たにするのですわ。
——白薔薇の君は、誰にも知られぬまま、夜の影として、守るべきすべてを守り続ける。
それが、私の選んだ道でございますの。




