夜の静寂に白薔薇の影を揺らし、わたくしは守るべきものを見守りますわ。
夜の王都は、昼の華やかさをすべて隠し、銀色の静寂に包まれておりました。
セシリア・フォン・アルバーンは黒のドレスに身を包み、屋敷を静かに抜け出します。
窓から射す月光は、まるで白薔薇の影を映す鏡のように揺れ、夜の街に淡い輝きを落としておりますわ。
「お嬢様、夜の巡回の準備は整いました。」
執事クラウスが背後から静かに声をかけます。
「ありがとう、クラウス。今宵もよろしくお願いいたしますわ。」
クラウスは、わたくしの後を音もなく従い、闇の中でもその存在は揺るがぬ安心感をもたらします。
今夜は、孤児院の子どもたちを守るための巡回と、街で起こりうる不審な動きを監視する任務ですわ。
屋敷を出ると、月光に照らされた石畳が静かに響き、わたくしの足音だけが闇に溶けてゆきます。
「お嬢様、前回の襲撃の後、孤児院の警備はさらに強化されております。
しかし、裏通りの気配は依然として不穏です。」
クラウスが低く囁く声に、わたくしは頷きました。
——そう、白薔薇の君として、すべてを守る覚悟は揺るぎませんわ。
静かな闇の中、遠くで聞こえる酒場の喧騒や足音を、一つ残らず心に刻みます。
孤児院の前に立つと、わたくしは細心の注意で建物を巡ります。
塀の強化、窓の施錠、裏門の警備……すべてが夜の安全を支える小さな策ですわ。
「これで、少なくとも夜の脅威からは守れるでしょう。」
クラウスはそっと頷き、わたくしの肩に軽く手を置きました。
「お嬢様、夜の薔薇としての働きぶり、さすがでございます。」
「ありがとう、クラウス。あなたがいてくださるから、心強いのですわ。」
その後、街の闇を見渡しながら、わたくしは静かに月を仰ぎます。
——昼の家族の温もりと、夜の冷たい決意。
二つの世界を行き来しながら、わたくしは守るべきものすべてを胸に抱くのですわ。
「お嬢様、昨夜の街の異変は確認できました。
しかし、微細な兆候が気になります。」
クラウスが低く囁きます。
「えぇ、クラウス。何か、背後に気配を感じますの……」
わたくしは眉をひそめ、夜の風に揺れる白薔薇を見上げました。
屋敷に戻ると、昼の顔に戻った家族の様子が目に入ります。
父は書簡に目を通し、長男エドワードは書斎の隅で深く考え込んでいる。
次男ルーカスは、まだ昨夜の議論の熱を残したまま、何やら独り言を呟く。
弟アレクサンドルは、無邪気な笑顔を浮かべつつも、どこか不安げに視線を泳がせている。
——ふふ、誰が裏切るか、今の時点では誰も気づきませんのよね。
昼の顔の穏やかさと、夜の影の冷たさ。
その狭間で、わたくしは微かに漂う不協和音を感じ取りますわ。
書斎で父と長男が相談する間、次男ルーカスの瞳が一瞬鋭く光りました。
「……誰も私の正義を止められぬ。」
その独り言は小さな風にかき消されるように聞こえますが、わたくしの耳は逃さず捉えました。
——そう、家族の中にも、夜に眠る白薔薇の君の目に映る、誰にも言えぬ秘密が潜んでいるのですわ。
その影はまだ小さく、微かに揺れるだけ。
しかし、やがて大きな波となって、館に響くことになるでしょう。
クラウスがそっと肩に手を置きます。
「お嬢様、何かお気づきになったのですか?」
「えぇ、クラウス。昼の家族の間にも、静かに揺れるものがありますの。」
わたくしは微笑みながらも、鋭い目で家族を見つめました。
——すべてを、守り抜かねばなりませんわ。
夜風に揺れる白薔薇は、決意と覚悟の象徴。
そして、忠実なる執事クラウスの存在が、揺れる館の中でわたくしの唯一の支えとなっておりますわ。




