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書斎の議論にて、わたくしは静かなる決意を抱きますの。

王都の朝はいつもより重苦しい空気に包まれておりました。

 書簡が山のように積まれ、屋敷の執事たちは慌ただしく動き回る。


 「セシリア、今日の予定はすべて変更ですわ。」

 アメリア姉様が朝の光を背に、静かに声をかけました。

 「どうしたのですか、姉様?」

 「領地の管理に大きな問題が起きたの。父上が緊急家族会議を開くとおっしゃっておりますわ。」


 書斎に集まった家族たちの顔は、普段の誇り高い雰囲気とは違い、緊張で少し硬くなっております。

 父は書簡を手に、眉をひそめている。

 「報告書によれば、領地内の商人や農民の間で大規模な混乱が生じている。これにどう対処するかが我々上級貴族の責務だ。」


 次男ルーカスは冷静に意見を述べる。

 「強硬手段で取り締まるのが妥当かと存じます。民が混乱する前に、秩序を回復すべきです。」


 長男エドワードは少し異なる意見を述べます。

 「しかし、過剰な圧力は、長期的には不信を招きかねない。柔軟に民心を掌握する方策も必要だ。」


 弟アレクサンドルは、まだ幼さの残る口調で言います。

 「でも……困っている人々を助けるのが、一番大切じゃないでしょうか……?」


 その言葉に、書斎の空気が一瞬和らぎました。

 昼のセシリアは微笑みを浮かべつつも、心の奥では夜の白薔薇の君としての決意が静かに揺れております。


 「……兄上たち、そしてアレクサンドルも、それぞれに正しいと思うことがあるのですわね。」

 わたくしは穏やかに言葉を置き、全員の視線を受け止めます。

 「家族としての誇り、上級貴族としての責任、そして人としての慈悲……

  この三つをどう調和させるかが、我々の課題でございますの。」


 父は静かに頷き、アメリア姉様はセシリアの手にそっと触れる。

 「あなたの言う通りですわ、セシリア。家族であっても、意見の違いは生じるもの。」


 しかし、緊急家族会議は決して穏やかに終わるわけではございません。

 意見の違いは徐々に明確になり、兄たちの間に微かな緊張が漂い始めます。

 「我々の方針は一つでなければならぬ!」と次男ルーカス。

 「しかし、柔軟さもまた、上級貴族の知恵だ!」と長男エドワード。


書斎の空気は、朝の光が差し込むとは思えぬほど重く、息をするたびに緊張が胸を圧しました。

 父は書簡を握りしめ、エドワードは冷静に眉をひそめ、アレクサンドルは戸惑いながらも真剣な眼差しで兄たちを見つめます。


 「ルーカス、落ち着きなさい。」

 長兄が穏やかに声をかけますが、ルーカスは微かに顔を紅潮させ、指先で机を叩きました。

 「冷静になど……いられません、兄上!

  民が困窮し、傷つくのを見過ごすわけにはいかぬのです!」


 その言葉に、書斎に静かなざわめきが走りました。

 弟アレクサンドルも目を大きく見開き、次兄の情熱に飲み込まれそうになっています。


 ルーカスは深く息を吸い、声を震わせながら言いました。

 「柔らかい言葉だけでは、人は動かぬのです!

  時には力で示さねば、正義は成立しない!」


 エドワードは静かに視線をルーカスに向けます。

 「正義と過激は紙一重だ、ルーカス。誇りある上級貴族としての判断を忘れるな。」


 しかし、ルーカスの手は止まらず、机の上の書簡を握りしめたまま強く叩きます。

 「それでも、民を守るのが我々の務めではありませんのか!

  父上、貴方の決断が遅すぎるのです!」


 アレクサンドルは目を見開き、兄の激情に押されながらも心のどこかで尊敬を覚えます。


 その様子を見守る昼のセシリアは、静かに指を揃えて書斎のテーブルに置きました。

 「ルーカス、あなたの正義感は素晴らしいですわ。

  ですが、暴走してはかえって守るべきものを傷つけますのよ。」


 ルーカスは一瞬、姉や兄の視線に迷いを見せる。

 しかし、その迷いはわずかに過ぎず、再び拳を握り直します。

 「迷ってなどいられぬ!

  我々の家名と民の未来、どちらも背負っている以上、手は緩められぬのです!」


 書斎の中に、沈黙が落ちる。

 父は深く息をつき、長兄は眼差しを鋭くする。

 アレクサンドルは胸の高鳴りを抑えきれず、ただ静かに見守るのみです。


 昼の議論は、やがて夜の空気のように重く、切迫したものになってゆく。

 しかし、白薔薇の君としてのセシリアは、誰にも知られぬまま、静かに心の中で誓います。


 ——兄弟たちの正義も、激情も、すべてを見守る。

  それでも、守るべきものは決して揺らがぬ――孤児院の子も、家族も、夜の街も。


 窓の外に月光が差し込み、書斎の薔薇の紋章に淡く影を落とします。

 静かなる決意と、迫りくる嵐の予感が、白薔薇の君の胸に重くのしかかるのですわ。

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