後編:『王冠の下に眠る薔薇』 ― 夜空の下、薔薇と共に決意を新たにいたしましたわ
夜風が馬車の外套を揺らし、王都の街路樹をかすかにざわめかせます。
静かなる夜に、馬車の車輪が石畳を転がる音だけが響いておりました。
「クラウス……今宵も無事に戻れましたわね。」
わたくしは窓の外を見つめ、淡い月光を指先で撫でるように感じました。
「はい、セシリア様。お子様方も無事に眠られております。」
クラウスの声は、いつも通り穏やかで、しかし確かな安心感を伴っておりますわ。
わたくしは小さく頷き、息をつきました。
「……それにしても、貴族の者たちは何を望むのでしょうか。
権力、金……それだけで、これほど人を狂わせるものですのね。」
「……セシリア様、ご自身の家名をお恨みでございますか?」
クラウスがそっと問います。
「ふふ……いいえ、クラウス。恥じるべきは家名ではなく、それを穢した人々ですわ。」
馬車の揺れが、静かな夜の祈りのように感じられます。
「セシリア様……貴女は本当に、何があっても歩みを止めぬのですね。」
「えぇ、止められませんわ。
あの子、ルカのような子どもたちを、二度と泣かせたくないのですもの。」
クラウスが軽く頭を下げ、静かに頷きます。
「わたくしも、全力でお支えいたします。」
わたくしは微笑み、月明かりに映る自らの影を見つめました。
白薔薇の香りが、馬車の中にそっと漂います。
血筋や家名に縛られることなく、守るべきものを守る――それが、白薔薇の君としての誇りでございますわ。
「クラウス……わたくしは、この夜を、そしてこの街を、
これからも白薔薇の香りで満たしてみせますの。」
「はい、セシリア様。貴女様の誓いを、わたくしも心に留めます。」
馬車は静かに夜道を滑り、遠くで鐘の音が響きました。
その音に合わせるように、白薔薇の花弁がひとひら舞い、
夜の王都に淡く光を落としていきます。
——王冠の下に眠る薔薇。
その花が示すのは、貴族の血ではなく、選ばれた者の誇りでございますわ。
わたくしはそっと瞳を閉じ、祈るように呟きました。
「どうか、この白薔薇が、誰かの未来を照らしますように……。」




