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中編:『王冠の下に眠る薔薇』 ― 夜の邸宅に忍び入り、白薔薇として歩みましたの

夜の帳が王都を包む頃、わたくしは静かに邸宅の前に佇んでおりました。

 昼の舞踏会で得た情報を胸に、白薔薇の君としての務めを果たす時間ですわ。


 「クラウス、準備は?」

 「はい、セシリア様。屋敷内には数名の警護がおりますが、すべての経路は確認済みにございます。」

 「ふふ……まるで舞踏会の床に描かれた模様を辿るようですわね。」


 黒い夜衣を身にまとい、静かに邸宅の門をくぐる。

 銀色の月光が、瓦屋根や石畳に淡い光の帯を描きます。

 その静けさこそ、白薔薇の君の刃を際立たせる舞台でございますわ。


 「……来るとは、さすがですわね。」

 低く響く声が廊下の奥から届きました。

 黒幕の高位貴族が、扉の陰から姿を現す。

 「貴女が白薔薇の君……いや、セシリア・フォン・アルバーンか。」


 わたくしはゆっくり微笑み、優雅に一礼いたしました。

 「えぇ、白薔薇の君と呼ばれる者でございますわ。

  けれど今宵の目的は、争いではなく――

  誤った理を正すことにございますの。」


 男は冷笑を浮かべ、片手でワイングラスを傾けました。

 「理を正す? ふふ……民を守るつもりで、孤児院を襲撃させたとでも?」

 その言葉に、わたくしの胸はわずかに締め付けられます。

 過去、救えなかったルカの面影が、重く胸に響きましたの。


 「貴方の理は、民を蹂躙する方便に過ぎませんわ。

  本物の貴族とは、誰かの痛みに手を差し伸べる者でございます。」

 その言葉に、男の瞳が一瞬揺れました。

 だが、すぐに冷たい笑みを取り戻し、剣を手にしましたの。


 「では、証明してみせよ……白薔薇の君。」


 瞬間、わたくしの銀の針が宙を裂きました。

 静寂の中で舞う刃は、まるで月光そのもの。

 男の剣先は弾かれ、動揺する彼の手が光に反射します。


 「汚れた手で笑う者に、美しさを語る資格はございませんわ。」

 わたくしの声は静かでありながら、刃の威圧よりも深く、彼の胸に突き刺さります。


 戦いは短く、そして優雅に終わりました。

 男は倒れ、最後の言葉を呟きます。

 「……貴女は……ただの貴族の娘に過ぎぬはずなのに……なぜ、ここまで強い……」


 わたくしは静かに微笑み、白薔薇を彼の手元に置きました。

 「血筋がどうであれ、真の貴族は行いで決まりますのよ。」


 クラウスが背後で静かに頷き、わたくしの外套を整えます。

 「お怪我はございませんか、セシリア様?」

 「えぇ、ありがとう、クラウス。

  胸に小さな痛みはございますが、それもまた……夜の香りの一部ですわ。」


 月明かりの下、白薔薇の香りが風に揺れ、邸宅の闇を洗い流しました。

 夜は深まり、白薔薇の君は再び、静かなる誓いを胸に歩き出すのです。

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