第七話
「ただいまー」
外も薄暗くなってきたころ、もう聞きなれた声が玄関から聞こえてきた。
その声に反応し、振り返る。
「おかえりなさい。今日もお疲れ様です」
「この匂いは...もしかしてカレー?」
「そうです。紬さんの好きな辛口カレーです」
「やった!早く食べよ!」
玄関から一緒に歩いてテーブルへと向かう。
紬さんが鞄や服などを置きに行ってる間に夕飯の支度を進める。
俺が紬さんにお世話になり始めてから一か月がたった。
尽くす対象が紬さんになり、毎日幸せだ。
「ごちそうさまでした」
なんてことない会話をしていると、あっという間に食事も終わってしまう。
食べ終わったお皿を洗ってると紬さんがこっちに来て、横から俺の髪の毛をじっと見る。
「ど、どうしたんですか?」
無言で変な行動をする紬さんに少し戸惑いながらも皿洗いを終わらせる。
「一緒にお風呂入んない?」
「え?」
唐突なお誘いに思考が止まった。
「やだ?体洗いっこしたいなぁ」
「い、いやではないですけど———今は女の子ですけど元男ですよ?」
今は午後だから女の子だけど俺はもともと男だ。
いくらなんでも一緒にお風呂は.....
「でも今は女の子じゃん。いいじゃん一緒に入ろうよ!」
結局俺のことなんか関係なく、風呂へと手を引かれていった。
「本当髪の毛綺麗だよね」
そういいながら、紬さんは水滴る俺の髪を手で触った。
銀色に輝く髪はあの日から少し伸びて腰のところまで来ている。
「うらやましいなぁ。ちゃんと髪の毛ケアしてる?」
「してますよ。紬さんにいっぱい教えてもらいましたから」
女の子になってから、いろいろと知らないことを教えてもらった。
まだ普通の女の子とまではいかないけどいい感じに過ごせている。
「私も紬さんの髪洗いますよ」
「じゃあお願いしようかな」
一通り洗ってもらったあと、位置を後退して紬さんの髪を洗い始めた。
「私ってのももう言い慣れた?」
「さすがにもう一か月経ちましたし結構慣れましたね」
最初は少し抵抗があったけどもう慣れた。
午後だけは俺も立派な女の子だ。
紬さんの綺麗な茶髪も洗い終わり、一緒に湯船に浸かる。
あんまり広くないせいで湯船の中でお互いの体が触れる。
「おりゃ!」
突然、紬さんにお湯をかけられた。
以外に紬さんは無邪気なところがある。
俺もやり返すと、お湯の掛け合いが始まった。
「そういえば一か月ずっと午前中しかダンジョン行ってないけど午後にはいかないの?」
お湯の中で俺の足をもみもみしながら紬さんが言った。
初めてダンジョンに行った時から一か月間、俺は午前中しかダンジョンに潜ってない。
だからもう一つ準備してもらったライセンスと、ユニークスキルの能力の半分はいまだに使ったことがない。
「女の子の時のユニークスキルも試してみたいんですけど、周りの視線が.....」
「あー...凛かわいいもんね」
銀髪に青いバラの髪留め、あまりにも目を引く容姿は俺の悩みの一つだった。
「スーパー行く時でもじろじろ見られたり話しかけられたりするんですよ」
「うーん。じゃあさ、逆に目立っちゃうのは?」
「っていうと———」
「配信。ダンジョン配信やってみようよ!」
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