第一話
べちゃ
「こんなまずい料理食べれないわ!片づけといて」
母親はそういって鞄を持ち、外に出て行った。
「はぁ、今日ははずれか」
ため息をつく。
そして、慣れた手つきで床にべったりとついたシチューを片付ける。
「...シチュー旨そうだなぁ」
そう呟きながら顔を上げると、部屋の隅にある監視カメラが視界に映った。
食器を洗い、棚の下にしまってあるドックフードをカメラの前で食べる。
はずれの日のルーティンだ。
時計をふと見る。
19時50分
もうこんな時間だ。
三時になる前に、急いで部屋のドアを開け中に入る。
カチリ
ドアが閉まると、いつものようにカギがかかった。
———7年前、両親が離婚した。
妹は父親に、俺は母親へとついてくことになった。
拒否権などなかった。
その後、母親は俺を子供から奴隷のように扱った。
家事がうまくできないと殴られた。
監視カメラにドアロック。
部屋に窓はなく、脱走なんてできそうもない。
いつまでこんな生活が続くんだろう。
ピピピピピピ
聞きなれたアラーム音で目を覚ます。
時刻は4時30分。
床から体を起こし大きく伸びをした後、ドアを開けてリビングに向かった。
7時05分
一通りの家事が終わって、朝ご飯を食卓に並べた。
座ってると殴られるので立って待つ。
8時30分
今日は水曜日だから仕事があるはず。
なぜ起きてこない?
11時40分
食卓の料理はもう冷めてしまった。
いつ帰ってくるかわからない以上、座ってることはできない。
7時10分
まだ帰ってこない。
初めてのことに恐怖を感じながらも本日初めての食事を口にする。
8時00分
母親が家に戻らなくなってから三日が立った。
いつもだったら前日に帰ってこないことは言われるし、そもそも帰ってこなくても一日くらいだ。
いつもと違う異常な出来事に俺の精神はじりじりと削れていった。
———逃げたい。
そう思ったのは久しぶりだった。
何年か前にも逃げようとしたが、そんなことはできなかった。
玄関は内からも外からも指紋認証によって出れなくなっているから。
出ることなんてできない。
おとなしく待っていればいい。
そんなことは分かってるのに....俺は気づいたらドアノブを握っていた。
半ば諦めながら、ゆっくりとドアノブを捻る。
ガチャ
「え?」
開いてしまった。
なんでかは分からないが、あっさりドアは開いた。
久しぶりの光に目が慣れず、瞼が閉じる。
心臓が痛い。
目頭も熱くなってる気がする
————自由だ。
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