第6話 あの日の続きを、社会人になって
第5話からちょっと続いてます。
実はあの後・・・
(昼休憩か。山場も越えたし、たまには外で食べるか──)
「おい、直人じゃん! 大学の一馬だよ!」
不意に後ろから声をかけられ、振り返ると、スーツ姿の見覚えある顔が笑っていた。
「一馬!? うわ、久しぶり!」
連絡はたまにしてたが、結婚報告以来の再会だった。
「やっぱりこの会社、どっかで見たと思ったんだよなー。まさかお前がいるとはな!」
「事前に連絡くれたらよかったのに。……今日は打合せ?」
「ご名答。IT人材のヒアリングでね。お、そろそろ時間ギリだ。でも週末の夜、飲みに行こうぜ。積もる話もあるし」
「うん、澪さんにも聞いてみる!」
「お、皐月も空いてたら来ないかな〜。最近ちょっと話してなくてさ」
「“ちょっと話してない”って……付き合ってるんか?」
「なーに言ってんの、妄想は小説だけにしとけっての」
「怪しいな……まあ、澪さんと皐月さんはそっちで女子会してるかもな」
「いいね、それぞれの会で本音ぶっちゃけようぜ。俺らは男同士、愚痴と酒でも交わしてさ」
「……傷、あるのか?」
「だいたいみんな何かしらあるのよ、大人にはな。じゃ、またLINEするー!」
一馬は軽やかに手を振り、営業らしく颯爽と去っていった。
(……やっぱり“皐月”呼び、あれ怪しいな)
翌日:澪サイド
(お、澪から電話だ)
「皐月ちゃん、久しぶり! 今、運転中じゃない?」
「澪? 久しぶり! 今ちょうど休憩中だから大丈夫」
「よかった! 今週末、飲みに行かない? 結婚も仕事も一段落したし」
「行けるよ。ただ、帰りに迎えに行く人がいるから、私は飲めないかも」
「じゃあご飯メインにしよう。駐車場ある店にするね」
「澪から誘ってくれるなんて嬉しいよ。楽しみにしてる」
週末・男子会サイド
「改めて、おめでとう直人。結婚式、身内だけだったんだよな。澪ちゃんのお父さんって有名人だったっけ?」
「うん、でも……想像以上に濃かったよ。“さすが澪さんの父”って感じ」
「あ〜、小説命って感じだもんな。で、結婚生活は? 週末は何してんの?」
「カフェとか散歩が多いけど、この前は動物園も行ったな。……実は最近また倒れてさ」
「マジか。大学のときも倒れてたって言ってたな……大丈夫か?」
「今は落ち着いてる。でも、今後もあるかもと思うと、家で働けたらって考えることもある」
「だったら、ぜひ俺に相談してよ! 在宅案件もあるし、すぐ転職じゃなくても道はあるぜ?」
「それは頼もしいな。よろしく頼むよ」
「はっはっは、頭が高いぞ、ちこう寄れ!」
「それを言うなら”頭が高いぞ、控えおろう”だろ。変わらないな、ほんと」
女子会サイド
「このポテサラ、めっちゃおいしい!いい店知ってるね、澪」
「でしょ?執筆に詰まるとここに来るんだ。皐月ちゃんと来たいって思ってて」
「ありがとう!ここなら職場からも近いし、今度後輩も連れて来ようかな」
「いいね!男子にも人気だよ」
「いや、女性後輩だよ。今年は女性が多くてさ、人事部には“皐月さんの写真のおかげ”って言われたよ」
「皐月ちゃん、ほんと王子様みたいだもんね。そりゃ人気出るわ!」
「やめてくれよ……。でも最近の子って先輩も誘ってくれるんだな、気を使いすぎない方がいいのかもって思い直した」
「きっと、皐月ちゃんと話したいって気持ちが強いんだよ。私もその一人だけどね」
「……澪は別枠だろ。ところで、結婚式の写真、素敵だったな」
「ありがとう!お互い派手なの苦手だから、身内だけでできてよかった」
「でもお父さん、ちょけてピースしてる写真もあったけど……直人くんとはうまくやれてるの?」
「うん、意外にも。共通の趣味があってさ」
(共通の趣味……? 想像が追いつかん)
男子会の終わり
「もうこんな時間か。そろそろお開きにするか」
「澪もそろそろ帰ってくるころだろ?ちょっと挨拶だけ寄らせてよ!」
「まあ、それはいいけど……飲みすぎてないよな?」
「俺を誰だと思ってる。営業職の鉄肝臓!」
(一馬って、ほんと口もうまいし、成績もいいって言ってたな……天職かもな)
女子会帰り
「ここ段差あるから気をつけ──って、澪!?」
視界から澪が消えた。
「だ、大丈夫!? 足くじいた?」
「す、すまない……ちょっと、捻ったかも」
「車近いから、つかまって。……いや、抱えるよ」
皐月は澪をひょいと抱き上げた。
「皐月ちゃん……!かっこいい!!好き!!!」
周囲の視線が集まる中、澪は全力で叫んだ。
(……王子様かよ)
玄関前
「おーい、さーつきー!」
「……あ、一馬。酔っぱらってるな」
「お前、直人に迷惑かけんなよ。帰るぞ」
その瞬間、直人の中でいくつかの伏線が一気に回収された。
「えっと……つかぬことを伺いますが……付き合ってる?」
皐月は目をそらしたが、耳が真っ赤だった。
「そうそう!あの時の運命の再会は俺たちにもあったのよ! 結婚前提で交際中です!」
澪はうつむいたまま、肩を震わせている。
「皐月ちゃん……よかったな……幸せになってくれよ……!」
「澪さん、泣いてる!?喜んでるよね!?」
直人はそっと頷いた。親友の幸せに涙する澪を、そっと支えるように。
(……一馬も、皐月さんも。なんだかんだで、いいパートナー見つけたんだな)
次はお父さんを出したいかなあ