表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡夫ですが、天才小説家の妻に愛されています  作者: 小田原 純


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/18

三が日最終日、母たちの開戦

三が日の最終日。

今日は澪さんと、だらだら過ごす――はずだった。


LINEの通知音が、やたらと鳴る。

しかも、同じ人物からの連投だ。


『タスケテクダサイ』

『スグニキテ』

『ケイサツヨバナイト』

『テジョウハコチラニゴザイマス』


「なんだこの不吉な言葉たちは!?」


澪さんが画面を覗き込み、首を傾げる。


「よく見たら、この文面の頭文字……つなげると『タスケテ』って書いてる。お父さんが危ない!」


真剣な顔で言う澪さんに、僕は即座に返した。


「いやいや、これ絶対遊んでるよ。本当に助けてなら最初の『助けて』でいいじゃん!」


その直後、父から改めてLINEが来た。


『俊彦さん夫妻の家にいるので、スグキテ!』


「調子よかったのに感化されてる!?……とにかく澪さんの家に行こう」


電車で二駅。

玄関を開けた瞬間、泣き顔のおじさんが二人、同時にこちらを見た。


「直人ぉ…やっと来てくれた」

「助けて……」


立派なおじさん二人が、めそめそしながら寄り添ってくる。

この構図は、絵に起こすと地獄絵図だ。


しかしこの状態も居間へ入った瞬間に理解した。


僕の母・春恵と、澪さんの母・美代子さんが、ソーシャルディスタンスを保ったまま睨み合っている。

その間に、薄い本が数冊。


――あ、これ、触っちゃいけないやつだ。


「私は政宗様の一番は、片倉小十郎様だと思ってるの!」


「幸村様こそ、政宗様の一番よ!」


ほぼ同時に炸裂する主張。


青コーナー、母・春恵。


「政宗様の右眼になるなんて、『生涯を共にします』って言ってるようなものよ!史実でも有能な右眼だったに違いない!」


生命保険営業で鍛えた声量が、ここで炸裂している。


赤コーナー、美代子さん。


「幸村様にとって政宗様は生涯のライバルよ!魂をぶつけ合う関係にしか生まれない尊さがあるの!」


「お母さんの〈三倍速まくしたて〉、久々に出たね」


澪さんが目を輝かせる。


「何そのネーミング……ていうか、美代子さん、あんな話し方もするんだ」


「好きなものを語る時に出る」


……推し活、怖い。


止めないと。

そう思って口を開いた、その瞬間。

父が爆弾を投下した。

「2人とも落ち着きなさい。そもそも政宗公の伴侶には愛姫が――」


「清司さん!!」


俊彦さんが全力で口を塞ぐ。


「彼女らにその単語は禁句ですぞ!!」


次の瞬間、能面顔の母ズが、清司さんを見つめた。

一気に父の顔が青ざめた。


「こんな状況でね」

俊彦さんが肩を落とす。

「子どもたちが来たら、落ち着くかと思って」


「俊彦さん、お気持ち察しますが僕は今すぐ逃げたいです」


そのとき、澪さんが薄い本を一冊、手に取った。


……澪さん、ダメだ。そこは戦場だ。


「……同じキャラのはずなのに」


ぱらぱらとページをめくる。


「人の見方で、全然違う人物になるんだ。面白いなあ」


場が、一瞬止まった。


「……そこまで本気で語れるって、すごいよ」


父は一瞬言葉を失い、俊彦さんを見た。

「澪さんは…やはり先生の子ですね」

「すごいでしょ、うちの澪ちゃん。立派な作家です」

俊彦さんも安堵した表情で見守っていた。


その本の下から、ハートのペアストラップが現れた。

母も美代子さんも、それに気づく。


――この子たちが出会って、私たちを見つけてくれた。


言葉にしない記憶が、ふっと戻る。


「……こんなに譲れないとは思わなかったわね」


「ええ」


「……あなたの本、読ませて」


薄い本を交換する二人。


数ページ後。


「素敵ね」

「この世界線、否定しちゃだめね」


――和平成立。


二人は並んでペアストラップを持ち、


「また私たちをつなげてくれて、ありがとう」

「これ、あなたたちへのお土産よ」


「ありがとうございます。大切にします」

「コミケの話、また聞かせてください」


「よかった……」


俊彦さんが床に座り込む。


「安心したらお腹減ったね。母さん、何か食べるものない?」


能面顔で、美代子さんは俊彦さんを淡々と説き伏せた。


「いい大人なんだから、自分で用意しなさい」


俊彦さんは小動物のように縮こまったが、みんなでおせちを用意して囲んだ。


さっきまで戦場だった居間に、箸の音が戻る。


僕は心に誓った。


(来年のお正月、僕は旅行を提案しよう。強く)


できれば、薄い本の持ち込み禁止で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ