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平凡夫ですが、天才小説家の妻に愛されています  作者: 小田原 純


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両家の親が冬の戦場に出陣した件

今回の登場人物紹介

・柳川俊彦→澪の父で歴史小説家。

放浪癖と妄想癖が強い小説の化身。

・真壁清司→直人の父で高校の社会科教師。

真面目で柳川俊彦の作品の大ファン。

・柳川美代子→澪の母。

・真壁春恵→直人の母。

冬の戦場と言われる東京コミックマーケット。そこに2組の夫婦が初陣を飾ろうとしていた。

「これが東京ビッグサイト。実物の階段は圧巻ね」

美代子は階段を見上げ、息をのんだ。

「これ、途中で心が折れるタイプのやつね。人の多さもすごい、まるで関ヶ原のようだわ」

春恵も驚き思わず戦国例えで表した。

美代子と春恵は階段を前に怖気づいているように見えた。俊彦と清司は放浪と神社仏閣巡りで鍛えていたが女性2人にこの階段は厳しいのではと心配していた。

「ゆっくりで構わないぞ」

「そうそう、作品は逃げませんから」

そう気遣いながら進むが、予想に反して春恵と美代子は勇ましく登っていった。

特に春恵はフォームも生き生きとしていてまるで普段から登山でもしているかのようだ。

「実は伊達政宗様ゆかりの場所を巡れるようにウォーキングをするようになったの。推し活は健康寿命にも貢献してくれるのね。政宗様ありがとう!」

まさか伊達政宗公が妻を逞しくさせるとは…推し活の無限の可能性を清司は目の当たりにした。

第一関門の階段を突破した4人は開場までの間列の最後尾で待つ。1時間前だが既に長蛇の列でほかの参加者の熱気を感じる。

春恵と美代子は各々の買うものリストを右手に、マップを左手に効率の良いルートのシミュレーションを始めた。

「よし、まずはこの壁サーから回って」

「待って、春ちゃん!回るならまずは誕席よ」

「美代ちゃん、人気のとこから回る方が良いんじゃないの?

美代子は普段のおっとりした喋り方の数倍の早さでまくし立てた。

「壁サーは運営からの信頼も得ているから在庫数に余裕を持っている。それに再販の確率も高い。先に優先して回るのは在庫数を消極的に始める誕席からよ!」

「た、確かに!でも何故そんなに詳しいの?」

「お父さんが行方不明の時笠井さんとお茶するんだけどね。コミケに詳しい作家さんがいるから教えてくれたの」

「美代ちゃん、その情報収集は有意義だけど、あまり柳川さんを甘やかしちゃだめよ」

隣で聞こえた俊彦はさすがに罪悪感を帯びた顔になった。

列が動き合流場所を決めて妻たちは各々の目的を回りに行った。

「私たちは流れに任せて回ってみますか」

「そうですな、あ、あんな所に歴史系のブースが…」

はぐれそうになった俊彦を清司が縄で捕まえた。

「も、申し訳ございません先生!しかしこんな場所ではぐれてしまっては一生探せないのでご勘弁を」

「は、私も申し訳ない。しかし、この縄はまさか…」

「そうなんです!今日こちらに行く事を話したら笠井さんが貸してくれました」

(笠井、あれから清司さんとも打ち解けたんだな。しかし大人の男同士で縄を託すなんて怪しくないか?ビジュアル的にも応えるものが…)俊彦は自分の放浪癖を棚に上げて思った。

「あ、むしろ今のおじさん同士で縄の方がキツイ!?」

しかし俊彦の意に反して周りでは

「すごい、あれ何かの作品のシーンかな?」

「まさか〇〇島!?」

何とか「作品の一部」という解釈に回収され、俊彦は胸をなで下ろした。


一方妻達はそれぞれの目当てを購入し合流した。

「お疲れ様!美代ちゃんの言った通り誕席の政宗様の本が私でラスト2冊だったわ」

「良かったわ春ちゃん!私も幸村様の本が買えたし、あとはのんびり回りましょう」

2人は手作りアクセサリーのコーナーを見つけて美代子は赤、春恵は青のストラップをお揃いで購入した。

「この赤は幸村様の燃える赤ね」

「政宗様の深い青だわ。あら?このストラップ、ペア物になってる」

春恵が手にしたものは2つくっつけると一つのハートになるペアストラップだ。

「これ、息子夫婦のお土産にしましょうか」

「それすごく良いわね!でも私たちここでも母親が抜けないなんてね」

美代子はやれやれと言うがふっと微笑む。

「ほんとね。でもあの子たちが出会ってくれたおかげで私たちが出会えてこんな楽しみができて嬉しいわ。美代子ちゃん、改めて直人を今後ともよろしくね」

「春恵ちゃん、こちらこそよ!直人くんのおかげで澪ちゃんも楽しそうだから本当に出会ってくれて嬉しいわ」

母2人はきっかけをくれた子どもたちに感謝の思いを馳せるのであった。


一方俊彦と清司は色々な創作に触れて楽しんでいった。

しかし清司は見つけてしまった、幻想水魔伝の二次創作のブース。

読んでみたいが隣の俊彦に見つかってしまう恐怖で目線すら動かせない。

(ど、どうか俊彦さん見つけないでくれ…)

しかし清司の願いは俊彦に届かなかった。

「む?これは幻想水魔伝の本ですかな?」と手に取ってしまった。

「良かったら中をここでサラッと見てもらっても構いませんよ」

ブースの男性は感じよく試し読みを勧めてくれた。

清司も気になっていたのと内容を精査しておこうという気持ちでパラっと見てみた。内容は登場人物が幼稚園児になったらというとても微笑ましい内容であった。

こんな世界もあっても良いな…命を落とした人物も楽しそうに生活を満喫していて微笑ましい。と清司は満足したが俊彦は無言で無表情で読んでいた。そして冊子を静かに閉じると

「なるほど、違う世界線なのに登場人物がもしこの世界ならこう動くと思うな。登場人物を深く理解されている。私だけではたどり着けない感情も読み取ってくれるなんて、二次創作も素晴らしい。これ1冊頂けるかね」

清司は俊彦の懐の深さに感動した。

「さ、さすが柳川先生…私もこの作品が気に入った。買わせて頂きます!」

反面、男性は固まってしまった。

「え、あなたまさか本物の柳川俊彦先生!?僕、あなたの作品の大好きで…今日参加できて良かった。完売よりもお会いできたのが嬉しい…」

だんだん本人を実感してきて男性は涙ぐんだ。

「しかし、これは個人の創作。公式の設定とは別物として楽しませてもらうよ」

「もちろん心得ております。お買い上げ、ありがとうございます!」

創作の在り方の一つがここにそっと証明された。


その頃直人は自宅でSNSを見ていると、トレンドに「巨匠作家降臨」という文字を見つけた。

「こ、この『巨匠作家』て、まさかな…。目立つ行動したら笠井さんに絞められるのでは…」

もう既にやらかしている後だった。

「おお、すごいな!お父さんたちも楽しんでるな」

しかしこのコミケをきっかけに新たな戦が起こることはまだ知る由もなかった。

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