平凡夫ですが、初日の出で再プロポーズしました
「直人、年末年始なんだけど両家とも家空けてるから、夫婦でのんびり過ごしなさい」
今年の終わりが近づいたので、実家に顔出しのことを聞いたら、まさかのお断りだった。
「夫婦水入らずで旅行? 良いね。どこに行くの?」 「私と美代子さんでコミケに行くのよ。そこにお父さんたちも付いて来るみたい」 「待って待って。ツッコむべきパワーワードが渋滞してるんだけど」
一体、父母があの戦場と噂される場所に行くなんて、誰が想像できただろうか。
しかも前回の旅行で分かったけど、あのお父さんたちをお母さんたちで制御できるのか?
「心配しなくても何とかなるわよ。まあ、みんな財布の紐は緩みそうね。行くまでに小銭用意とサークルチェックってやつ、しとかなきゃ」 「それが分かってたら、もう歴戦の猛者だよ……」
相変わらず母の順応がすごい。
親たちのコミケ話、聞いたら澪さんどんな話作るんだろう。
俊彦さんも、何か感化されちゃったりして。
通話を終えると、澪さんも自室からリビングにやって来た。
「もしかしたら同じ話かもしれないな。お母さんから、年末年始帰ってこなくていいって」 「そうみたいだね。みんなでコミケに行くなんて、お母さんたちのバイタリティすごいよね」
他愛のない話をしながら、気づけば二人でのんびりとした年末年始が決まっていた。
結婚前までは家族と紅白やおせちが当たり前だったけど、
澪さんとは、どんな年末年始になるんだろう。少し楽しみだ。
「あのさ、ちょっとした山のところで初日の出、見に行かない? 御岳山が良さそう」 「良いね。ケーブルカーも、なかなか乗れないし」
一度自然に魅せられた僕たちは、また自然の景色へと誘われた。
電車で移動し、目当てのケーブルカーに乗り込む。
「ケーブルカーから見ても、景色きれいだね」
そう言っても、澪さんから返事がない。
心配になって振り返ると、ものすごく険しい顔をしていた。
「み、澪さん。まさか高いところダメだった? それとも酔った? 大丈夫?」
初めて一緒に過ごす年末なのに、判断を誤ったのだろうか。
罪悪感が胸をよぎった、その時――
「ここでタコ星人が現れたら……スパイダーマン、助けに来るかな……?」
良かった。通常運転だ。
「自分で脱出できない乗り物の中で、物騒な妄想やめて! トラウマになるよ!」
周りの人たちからも、どこか同情混じりの「あるあるだよね~」という空気を感じて、少し救われた。
無事に到着し、少し歩を進める。
まだ日の出前でも、展望台の景色は十分に美しかった。
「やっぱり自然は落ち着くね。皐月ちゃんたちとのキャンプ、楽しかったもんなあ」 「キャンプ楽しかったね。忍者屋敷の旅行も新鮮で楽しかったな」
ツッコミは大変だったけど、いい思い出だ。
「結婚して、素敵な思い出が増えたな。これからも楽しみだ」
澪さんは、眩しい笑顔で答えてくれた。
彼女は、僕の言いたいことをいつも先に言語化してくれる。
さすが、小説の化身。
でも――これからの言葉は、僕が自分の口で伝えたかった。
胸の奥で、ずっと温めていた言葉が、ようやく形になる。
「澪さん!」
澪さんは少し驚いた顔をしたが、まっすぐこちらを見てくれた。
小箱を差し出し、震える手で言葉を紡ぐ。
「僕は澪さんと結婚して、本当に幸せです。大好きです。
これからも、末永く僕といてください!」
指輪は、初日の光を受けて、ひときわ輝いて見えた。
あの時、出遅れて渡せなかったプロポーズの指輪。
なんで今なんだ、とは思うけど……。
恐る恐る澪さんの顔を見上げる。
日の光に照らされた、穏やかな笑顔。
「直人くん。私も同じことを思っているぞ。
これからも、楽しい思い出を増やしていこうね!」
指輪を受け取ってくれた。
「もちろん。これからも、末永くよろしくお願いします」
初日の出は、僕たちを祝福するかのように、優しい光で照らしていた。
震えていたスマートフォンには、父母たちの戦利品を掲げた写真が届いていたけれど――
この話は、また別の機会に。




