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平凡夫ですが、天才小説家の妻に愛されています  作者: 小田原 純


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15/17

編集者は忍者!?-深刻なツッコミ役不足ツアー-

お待たせしました!

14話の続きとなりますが、なくても楽しめます!

僕と澪さんは、初めて三重県の伊賀市を訪れた。

招待状をもらった“忍者ツアー”である。


父たちとは現地の最寄り駅で合流の予定だったが……正直、俊彦さんがちゃんと来れるか少し心配だった。


しかし、その心配をよそに――僕の父と俊彦さんは時間ぴったりに現れた。


「清司さん、よくうちの父と合流できましたね」

澪さんが驚いたように言う。


「実は俊彦さんとは先入りしててね。上野城も素敵だったよ。

それに俊彦さんの考察が素晴らしくて、宿泊先でも語り明かしたんだ」


……2人が仲いいのは嬉しいけど、先入りして夜まで語り明かすとか。

体力大丈夫なのかな。


そう思っていると、見覚えのある人物が小走りでやって来た。


「皆様、ようこそお越しくださいました。車でご案内いたします」


僕と澪さんは顔を見合わせ、同時に叫ぶ。


「「伊賀流27代目忍者さん!!」」


「もしかして“笠井宗玄”さんって……」


「はい、私のことです。俊彦さんと清司さんとは飲み友達でして」


飲み友達……。

どうせ父たちが質問攻めにしてたんだろうな。想像できる。


車に乗り込む前、俊彦さんが宗玄さんに何やら耳打ちしていた。


「すまない、宗玄さん。笠井くんには“仕事”って言われちゃって」


「いえいえ、お気遣いありがとうございます。仕事熱心で、誇らしいです」


宗玄さんは笑顔を浮かべたが、少しだけ寂しそうな表情も滲んでいた。


---


車内で宗玄さんの忍者談義を聞いていたら、あっという間に目的地に到着した。

最初は忍者屋敷の見学からだ。


宗玄さんが実演しながら、どんでん返しや刀隠しの仕組みを説明してくれる。

隠し扉から別の忍者が出てきた時は、さすがにびっくりした。

宗玄さんが隠し刀で成敗する演出まで見せてくれて、全員スタンディングオベーションだった。

しかし宗玄さんは人の良さそうな見た目なのにやはり忍者の末裔なんだ。動きが機敏でカッコよかった。


---


続いて資料館へ。

展示の量がとにかく膨大だった。


手裏剣ひとつ取っても形が豊富で、見たこともない忍具がずらり。

忍者の生活を再現した展示もあり、僕みたいな初心者でも楽しめた。


昔のことを知れるのは、本で伝える人や、こうして展示を残す人たちのおかげなんだな。

改めて、俊彦さんたち“伝える職業”の人ってすごいと思う。


そう思っていた矢先――当の本人たちは、すさまじい気迫でメモを取っていた。


「自作の参考になりそうだぞ! 秘技・光速メモ取り!」

「すごい量ですね、お父さん!」


まるで某サイヤ人親子のようにオーラを纏っている。


「メモ取りが限界突破して、もはや忍術みたいだ……」


小説家の化身に再び遭遇した。


---


お土産コーナーでは、僕と澪さんは手裏剣とクナイがデザインされた栞をお揃いで購入した。


「栞っていくつかあるのに、ついつい買ってしまうよな」

「分かる! 本の分だけ買うならいいかなって、つい手が伸びちゃうよね」


本好きあるあるを語り合う僕たちの横で――父は俊彦さんの本を抱えていた。


「と、父さん! 気持ちは分かるけど、持ってるのもあるじゃん!? 失くしたの?」


父はハッとした顔をして、言った。


「しまった! 俊彦さんの書籍を見つけると、つい買ってしまう癖が……」


……パブロフの犬か何かですか。


「しかし、ここで父さんが買うことで店員さんが“良書”だと気づき、再入荷につながる。

様々な課金場所を築くことで、俊彦さんが新たな作品を生み出す。実質本は無料!」


「父さん、それはもはや玄人オタクの発想だよ! 本人の前で買わなくても……」


ふと視線をやると、俊彦さんも資料用にと山ほど本を抱えていた。


「食べ物のおみやげ、持てなくなりますよ……」


ツッコミ疲れた僕を見て、宗玄さんが肩にポンと手を置く。

“お察しします”という表情だ。


宗玄さん、ありがとうございます。

でもこれが、この旅の宿命なんです。


最後に案内されたのはこのツアーの目玉・忍者ショーだ。

笑いありアクションアリで、盛り上がり場面では子供と同じように澪さんと父さんズがハイテンションになるので隣の僕は他人のふりがしたかった。


しかし、 ショーのクライマックスで、事件が起こった。

組手の実演シーンで、ひとりの背の高い忍者が投げたのは手裏剣ではなく、まさかのペンだった。


会場が静まり返る。

だが忍者はすぐに口布をずらし、

「かたじけない。表の姿の道具を投げてしまった。……拙者、表の顔は“作家”でござる!」

と機転の効いたアドリブ。


会場は爆笑と拍手に包まれた。

「忍者ショーってすごいな! 笑いまで計算してる!」

澪さんが目を輝かせる。


でも俊彦さんだけは、どこか考え込んでいた。

「あの投げ方……どこかで見たような……」


観客の人にも投げてもらいますとなり、子どもが小さすぎたため僕が選ばれた。

先程の忍者の投げ方と距離などの空間を認識して投げてみると見事に命中した。

観客からは温かい拍手をもらって嬉しかった。

「直人くんカッコよかったぞ!」と澪さんにも褒められて嬉しさを隠すように照れてしまった。


ショーが終わった後。

俊彦さんは後で向かうと言い、宗玄さんとどこかに向かった。


―――俊彦がショーが終わった背の高い忍者に近づいていった。

「お疲れ様、笠井くんだろ」

忍者はしばらく沈黙を守ったが

「…やはりあなたには分かってしまいましたか」と口布を下げて笠井真は正体を明かした。

宗玄は驚きで言葉を失っていたが

「真…お前来てたのか」

と嬉しさが隠しきれない表情で見つめる。

真はぽつりぽつりと説明した。

「ショーのスタッフさんからヘルプを頼まれたんだ。隠してたのは腕がなまったから父の指導の質を問われるのを恐れて…つまりは恥ずかしかったんです」

まあ動揺して別のものを投げるヘマをしましたがと自嘲気味に微笑む。

「そんなことない!」

宗玄は前のめりに否定した。

「ブランクなんて感じないほどの見事な体裁き。またペン投げは手裏剣より鋭さを増していて…今でもその技を磨いているようだ」

真は褒められて予想外という顔をした。

「まあ、ペン投げは締切を守らない作家を仕留めてると自然と磨かれていました」

俊彦は気まずくなり目を逸らした。

「今のペースでも良いが、忍者業はどうだ?あの感じだと主催からも声がかかりそうだと思うが」

真は少し考えた後に宗玄の目をしっかり見つめて答えた。

「父上。私は忍者の末裔であることに誇りを持っています。しかし柳川先生の作品が忍者の生き様をしっかり伝えてくれています。1忍者の末裔としてここ以外の領域で広められるのが私のやりたい事です」

宗玄は残念さよりも真なりに忍者の伝承を真剣に考えてくれた嬉しさが勝った。

「私は、忍者の子孫ってことが真の人生の足枷になってると思ったよ…。話してくれてありがとう。また仕事の事は気にせず遊びに来なさい」

さらに宗玄は俊彦に向き直り

「俊彦さん、改めて息子の真をよろしくお願いいたします」

「もちろんです!私の優秀な担当編集者ですから」

忍者の親子を夕陽が優しく照らし、俊彦は「インスピレーションだ!」と光速メモ取りを再び発動した。


帰りは行きと同じように宗玄さんが車で駅まで送ってくれた。

「私はまた忍者村に戻ります。皆様また是非遊びに来て下さい」

とても充実した1日だったな。お父さんたちが一緒なのも楽しいけど、ツッコミが大変だからしばらくは澪さんとの旅行がいいかな。


そして駅前には編集者の笠井さんが待っていた。

「あれ?笠井さんが何故ここに?」澪さんと僕は意外な人物の登場に驚いた。

「お待ちしてました、柳川先生。車を用意したので締め切り近いものを道中で仕上げましょう」

「あれ、お前どうやってこっちに先ま…(ドサッ)」

俊彦さんが急に倒れ込み、笠井さんが素早く受け止めた。

「え!?お父さん大丈夫か!?」

僕と澪さんと父さんは狼狽えた。

しかし当の俊彦さんは気持ち良さそうに眠っていた。

「ちょっとはしゃぎすぎちゃったんでしょうね。私が車で彼を送ります。皆様にはタクシーを手配させていただきましたのでゆっくり休んでお帰りください」

澪さんとお父さんは

「さすが笠井さんは仕事ができる人だな!」

と感心しているが僕は見てしまった…

笠井さんがものすごい高速で音を立てずに担当作家を手刀で落とした所を。

まるで本物の忍者のようだった。

…そういえば宗玄さんの苗字が笠井だったからもしかしてと考えていると笠井さんと目が合い手のサインを僕に伝える。

その手の動きはまるで…

「この事は内密にお願いします。さもないとあなたもこうですよ」

最後のサインの指先が俊彦さんを指していて僕は生命の危機に震えた。

僕は(絶対に言いません!!)と首を横に振り敵意がないことを必死に伝えた。

その必死さに安心したのか笠井さんはさっきとは打って変わって穏やかに微笑んだ。

あ、やっぱりこの人はイケメンだなと笑顔に見惚れてしまっていた。


後日

親子揃って出した新刊が大ヒットした。

もちろん忍者がテーマの小説である。

「いやー高速メモ術でもらったアイディアの小説は当たるんだよな」

「お父さん流石だな!忍者アンソロジーとかも楽しいかもしれない!」

(恐ろしいな、この親子…)

「さすがです!!両方とも3冊ずつ買いますね!!」と父はオタク全開で感動していた。

「お父さん1冊ずつにして!本棚が悲鳴を上げてる」

伊賀市の忍者屋敷、行ったことないのですが今回をきっかけに調べてめちゃくちゃ行きたくなりました!

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