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平凡夫ですが、天才小説家の妻に愛されています  作者: 小田原 純


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忍法・酒影伝――父たちの夜

前半はおじさんズの飲み会です。

歴史好きの人が好きな居酒屋が本当にあるのを調べて私もテンションが上がりました!

歴史好きにはたまらない個室居酒屋・乱世武勇伝。

ひとつの個室に、歴史をこよなく愛する三名の男が集った。


「すばらしい店ですな!まさか織田信長と豊臣秀吉の甲冑が迎えてくれるとは!」

直人の父・真壁清司が、すでにテンションMAXである。


「いやー、是非清司さんはお誘いしなければと思いましてな」

清司の反応に、澪の父・柳川俊彦も満足げにうなずいた。


「そうそう、清司さんに紹介したい方が先にいらっしゃるんですよ」

俊彦はそう言うが、案内された部屋に人影はない。


「おかしいな?確かにこの部屋にいると聞いたのだが……」

障子越しに、わずかな気配だけが走った。


「拙者をお探しでしょうか?」

背後にスッと現れた伊賀流忍者二十七代目・笠井宗玄に、二人は腰を抜かしそうになる。


「し、神出鬼没!?」

「さすが宗玄さん、まさか隠れ身の術ですか!?」


「驚かせてすみません。俊彦殿のご友人とあらば、少々忍びらしく登場したほうがよろしいかと思いまして」


宗玄は礼儀正しく頭を下げ、「防犯アドバイザー/伊賀流忍術二十七代目」と書かれた名刺を清司に差し出した。


「なんと、伊賀流忍者の末裔の方!? まさか“忍法水影伝”のモデルでは」

「あの監修は、私が少々お手伝いさせていただきました」


清司の目が一瞬で潤んだ。

「私は何て幸運なんだ……尊敬する巨匠と、そのモデルの方と酒を酌み交わすとは!」

「私も最初に宗玄さんに会ったときは興奮したよ。まさか伊賀忍者が実在するとはね!」


今夜は直人のようなツッコミ役が不在のため――カオスな飲み会になりそうだった。


「なんと!? 宗玄さんは私たちの子どもたちにお会いしていたのですか!?」

「そうなんです。まさかのご縁で、びっくりしましたよ」


清司は世間の狭さを実感した。

「私に取材して来たのは俊彦さんと澪さんだけです。直人さんも立派ですな、ちゃんと澪さんを守っておりました」


清司は息子を褒められて嬉しそうだが――

「待ってください宗玄さん! 澪ちゃんを危ない目にあわせたのですか!?」

近くの刀を取りそうな勢いの俊彦を、宗玄が慌ててなだめる。


「いえいえ、俊彦さん。私は先ほどのように背後に回っただけですがね。もし怖い思いをさせたなら申し訳ございません」

「いえ、私も想像力が働いてしまいました。すみません」


「俊彦さんは澪さん大好きですからな。初対面のご挨拶でも分かりました」

「いやー、その通りなんですけどね!」と俊彦は豪快に笑った。


宗玄は微笑みながら、ふと何かを思い出していた。

「何だかお二人の話を聞いてると、私もせがれに会いたくなってきましたなあ」


二人は満面の笑みで目を輝かせた。

「せがれということは…もしや忍者の跡継ぎで二十八代目ですか!?」

「いえ、息子は忍者ではないのです。今は歴史小説の編集者をやっております。昔連絡した時は、担当作家を捕まえるのに修行が役に立ったと言っておりました」


「歴史小説」「編集者」「担当作家を捕まえる」――その三つの言葉に俊彦はピンときた。

清司も同じ表情をしている。


「つかぬことをお伺いしますが、宗玄さんの息子さんて、もしやこんな顔ですか?」

俊彦は笠井と撮った写真をスマホ越しに見せた。


宗玄はしばらく言葉を失い――

「そう……息子の真です。まさか担当の歴史小説家が俊彦さんだったとは……」


「いやあ、息子さんにはいつもご迷惑をお掛けしてしまって。有能な私の担当編集者なんです」

「迷惑だなんてとんでもない。息子が忍者を継がない理由に、“担当の作家さんの作品に惚れた”と申しておりました。俊彦さんの作品は、歴史人物の生き様をしっかり伝えてくれていると」


俊彦が感激して泣きそうだったが、代わりに清司がお酒の力も加わり号泣した。

「す、素晴らしすぎる……!先生の作品が忍者の歴史の伝承に貢献しているとは。歴史を伝える責務を、私も教育者として全うする所存でありますー!」

「き、清司さんがそこまで泣かなくても」


宗玄は笑いながら提案をした。

「良ければ皆様で伊賀に遊びに来てください! もしお子様ご夫婦と……できれば真にも声をかけて頂けると嬉しいです」


俊彦は胸を自信満々に叩いた。

「もちろん笠井くんも連れてきます! 親子水入らずで伊賀旅行、楽しみですな!」

「拙者もぜひお供させてください! では、新たな旅の始まりに――乾杯!」


その夜、三人の父は次世代へ続く物語の扉を開けたのであった。


翌日、直人と澪の自宅――


「伊賀忍者ツアーご招待券? 申し込んだ覚えは……あっ!」

僕は封筒の宛名に書かれた「真壁清司・柳川俊彦」の名前に激しく納得した。

しかし、もう一つの名前――「笠井宗玄」とは誰なんだろう?


「笠井さんって、編集者の笠井さんかな? でも宗玄って名前じゃなかった気が……」

澪さんも不思議そうに首をかしげる。


「でも忍者に会えるのは楽しみだな! 取材にもなるぞ!!」

小説家モードで張り切る澪さんを見て、僕は苦笑した。


まあ、とても賑やかな旅行になりそうだ。

「ただこのメンツのツッコミ、僕だけでは荷が重くないだろうか?」

波乱の幕開けも、同時に感じたのであった。


次回は伊賀旅行回を予定しております!

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