直人は見た!作家澪の執筆現場
一馬のヒアリングのおかげで、僕はテレワークを試験的に認めてもらえることになった。
面談の際に上司は気前よく提案までしてくれた。
「聞いたよ。出張中に奥さんが倒れたんだってね。
真壁くんなら勤務態度も良好だし、むしろ能率上がると思うから期待してるよ」
家庭を大切にする社風の会社で本当にありがたい。
恵まれた環境のおかげで、仕事にも一層身が入るようになった。
一応、澪さんには執筆部屋があり、僕にも自室があるので音漏れは滅多にない。
ただ廊下に出ると、時々、脈絡のない台詞が飛んでくる。
そのうち僕は、通るたびに聞き耳を立てるクセがついてしまった。
これって自分でネタバレ見に行ってる気もするんだけど、どうしても好奇心には抗えない。
「私はあなたを守るために生まれてきた…愛している…うん、ベタだが正統派で良い台詞かも」
お、ラブロマンスか。
「ワレワレハ、ハルカカナタカラチキュウヲシンリャクニ…ちょっと壮大か」
次はSF。続きではなさそうだ。
「この部屋は内鍵でしか施錠できないのに、犯人はどうやって潜入したか…謎に我々は迫る…完っと」
推理モノ。
…いや最後、”完”じゃない。
その打ち切り、ファンが泣く。
編集者さん、しっかり阻止してください!
というか、澪さんはいったい何作品同時に書いてるのか?
執筆でたまに倒れているのも納得だけど、よく数回で済んだな。
意外とタフ…
昼休みでよかった。気になりすぎて、つい覗いてしまった。
わずかな隙間から見えた背中は、まるで悪魔のよう。
必死の形相でキーボードを叩く澪さん。
すごい。これが小説家なのか。
まさに小説の化身・真咲澪(澪さんのペンネーム)が降臨していた。
エンターキーを勢いよく押す音が響く。
「よし!完成!」
僕は思わず腰を抜かした。
昼ご飯のことを思い出し、慌ててキッチンへ向かう。
「直人くん、ありがとう。私も手伝うぞ」
さっきの悪魔の形相が嘘のように、いつものふわっと穏やかな澪さんだ。
「澪さん、お疲れ様。ごめん。ちょっと隙間から見えちゃって…」
気まずく告白すると、澪さんは苦笑した。
「手塚治虫大先生が連載を何本も掛け持ちしていたという動画を観てな。私も感化されてつい集中しすぎちゃった」
憑依型作家って存在するのか。
それもしかして手塚治虫先生憑依しちゃってない?
でも、澪さんは小説が本当に好きなんだな。
僕はあんなふうに全身全霊で仕事したことがあっただろうか。
僕も、負けていられないな。
「よし。午後も頑張ろう」
「なんだなんだ。急にスイッチが入ったな」
澪さんに笑われながら、僕のやる気スイッチは慌ただしく点灯した。
テレワークは気が緩むかもって正直心配だった。
でも、澪さんのような懸命な人がいると僕も影響されてやる気が出たみたいだ。
私が最近手塚治虫先生のMWから色々巡回してできました。
皆様のおすすめの手塚治虫先生の作品は何ですか?




