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お嬢はクラス会に参加する


「和華〜今日の放課後ひま?」


 学校が始まって1週間がようやく終わろうとしていた金曜日のお昼。いつものようにチャイムと同時に教室を飛び出して行った大河内さん――麗奈が戦利品のパンとパックジュース片手に机を寄せながら聞いてきた。


「放課後? 特に予定はないわよ」


「じゃあさ、遊びに行こうよ! クラスの交流を深めるためにボーリング行こって斎藤が言っててさ」


 斎藤くんはクラスの中心的な男子だ。いわゆる陽キャ。髪も明るい色に染めていて制服も着崩してるし、確か部活もサッカー部に入るって自己紹介の時に言ってたっけ。彼の周りにいるのもキラキラした男子とキャピキャピした女子。ちょっとだけ苦手な部類。


 麗奈も斎藤くんがいるグループにいても不思議じゃない感じだけど「あそこまで派手なのは嫌」なんて言ってる。でも普通に話す分には問題はないらしい。私以外とも話してるところを見るし、誰とでも分け隔てなく仲良くできるのは純粋にすごいと思う。私は未だに麗奈以外とは挨拶くらいしかできてないから。


 だから、他の人たちとも話す機会があるクラスでの遊びには絶対、ぜぇったい!!行きたい!


「行く」


「おっけー、じゃあ斎藤に言っておくね」


 左手をぐっと握りしめる。友だちを増やすチャンスだ!



 ◇   ◇   ◇   ◇



 那知と買い物に行ったあのショッピングモールに那知以外と一緒に来ている今の状況が私の心を沸き立たせていた。

 平日の放課後、休日に比べれば人の数は少ないけれど私たちと同じように遊びに来ている学生はたくさんいた。

 

「和華、こっちだよ」


 初めての友だちと来たボーリング場。きょろきょろと周りを見ていたら麗奈に手を引かれた。ここまで来るのにも緊張で押し黙っていた私を麗奈は自然に引っ張ってくれていた。電車の中では私を守るように立っていたし。出会ってからお世話になりっぱなしだ。


「ほら、こっちで靴を選ぶんだよ。和華、足のサイズいくつ?」


「えっと……23cmかな」


「え、ちっさ。かわいい」


 そうかな? 私の身長だったらそれくらいだと思うけど……麗奈とはそんなに身長が変わらないし、同じくらいじゃないのかな。


「うち、足だけでかいんだよねぇ。もうちょっと身長伸びてもいいと思うんだけどさ。去年から全然変わってなかった」


 言いながら24.5cmの自販機?のボタンを押す麗奈。ガコン、と音がしながらボーリング用の靴が出てきた。私も同じように23cmのボタンを押す。


「最低でも160cmは超えたいんだけどなぁ」


「麗奈、身長いくつ?」


「159」


「ほぼ160じゃない」


「いやいや、そのほぼってのがでかいんだよ。1cmの差が憎い」


 麗奈の視線がちらりと後方へと向く。その先には金色が見えた。


「小森さん、いいよねぇ。あれ、165はあるでしょ。羨ましいなぁ」


 確かに那知は167cmある。入学早々行われた身体測定の結果を嬉しそうに家で報告してきた時に思わず鼻を摘んでやった。麗奈と同じく私は去年から1cmも伸びていなかったから。昔は私よりも小さくて華奢だったのに、いつの間にか10cmも身長差が開いてたし、なのに体重はあまり変わらない。理不尽だ。


 相変わらずの無表情でスマホをいじるでもなくぼんやりと地面を見つめている那知。……やっぱり絵になる。伏せられた目元は物憂げに見えるし、スカートの裾から伸びた足はスラリと長い。でも細すぎず筋肉はしっかりとついてる。顔は整ってるし、近くで見なくても睫毛も長くて瞳もキラキラしてる。

 でも私はいつものへにゃっとした笑顔のほうが――


 ぱちり、と私と那知の間で電気が走った気がした。

 いつの間にか上がっていた那知の視線が私のものと交差する。一瞬だけ那知が微笑んだように見えた。見えたけど、すぐに視線を外してしまったから本当に笑っていたかわからない。


「和華? どした?」


「……ううん、なんでもない」


 学校に通い始めてから初めて目が合ったから。だからちょっとびっくりしただけだ。那知は私の言ったことをどんなに小さなことでも守っている。ふわふわ漂いながら寄ってくるくせに、決してすぐ隣までは来ない。1日目に「近づくな!」なんて言ったからだ。そうであることが当然のように私から距離を取ってる。買い物に行った時だって私が手を掴むまでは絶妙な距離にいたし。


「おーい、2組こっち集合ー」


 同じ制服を着た男子が大きく手を上げながら合図をしている。私は麗奈とふたりでそちらへ向かった。



 ボーリングをするのは初めて……というわけではない。昔、喜助兄ちゃんに連れて行ってもらったことがある。でもその時はまだ自分一人でボールを投げ込めなくて滑り台みたいな補助具を使って球を転がしただけだ。それ以来、連れて行ってもらうこともなくなってしまったし成長してからは初めて。


「すげぇ、小森さんまたストライクだ」


 誰かが呟く声が聞こえた。ガコーン!と大きな音を立てながらピンが全て倒れ、奥の回収スペースへと押し流されていく。

 球を投げた張本人は結果に興味もないらしく、スタスタと待機スペースへと戻ってきて一番端っこの席に座っている。もうちょっと喜べばいいのに。


 クラスの大半が参加していたため、数人ずつで班分けされた結果私は麗奈と同じグループにはなれたけど那知とは分かれた。ふたつ隣の、那知がいるグループをちらちら見てしまうのは仕方ないことだと思う。あまりにもあいつが周りに溶け込まず、一匹狼を気取ってるから幼馴染としては気にかけてしまうだけだ。別に他意はない。


「ほら、和華。次和華の番だよ」


 気付けば私の順番が巡ってきていた。いつまでも那知のことばかり見てないで、私も周りと交流しないと。

 頬を小さく叩いてから気合いを入れ、自分用に持ってきた球に指を入れる。そのまま那知がしていたように構えて振りかぶり――


「あ」


 見事、ガターに吸い込まれていった。

 でもチャンスはもう一度ある。回収され、戻ってきたボールを同じ手順で振りかぶり――


「…………」


 またもガターへ。

 落ち込みながらもちらっと那知のほうを見るとダボついた袖を口元に当てていた。視線は明後日を向いているけど、絶対笑ってるでしょ。あれ。くそぅ。

 

「和華って球技苦手?」


「…………ノーコンってよく言われた」


「ガターなしにしてもらえばよかったね」


 麗奈の励ましが心にクる……他のみんなはそれなりにピンを倒せてるのに、私だけガターなしはそれはそれで辛い。

 いっそ笑ってくれたほうがまだマシかも。


 その後も、私は投げる度にガター。何本かに1回はピンを倒せたけどそれでもせいぜい半分くらい。ゲームも終盤になってきたのに私のスコアだけは序盤かというくらい低い。

 

「…………和華、どんまい」


 椅子に座ってしょんぼりする私に麗奈の励ましが刺さる。それ以外の言葉をかけられないほどひどいのは自分でも自覚してる。

 同じグループになった子たちも口々に励ましの言葉を投げかけてくれた。雰囲気悪くしちゃってるみたいで申し訳ない。

 


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