05 世界とシスターと寝落ちと
そうだ。
テレビを見ている感覚でいてしまったが、私は今まったく知らない場所いるんだ。
しかも、知らない人にホイホイとついてきて、ホイホイとロココ調のテーブルを囲んで座っている。
「わ、私は、」
緊張で言葉が詰まる。
「私は、日本っていう国から来ました。朝起きて今日は会社が、あ、ええと、仕事が休みでとりあえずゴ、ゴミを出そうとしたんです。それで靴を履いたら……
さっきの場所に、いました」
そうとしか言えない。
本当に突然、そうなったんだから。
ふむ、とレオノールさんが考え込む。
「貴方は…ユウは、此処に来る前に誰かに会いませんでしたか?」
「会った人…?…特に…昨日はいつもと同じ人達と仕事をしてまっすぐ家に帰ったので…1人暮しで今朝は誰とも会っていないです…」
そうですか、とまた考えこむレオノールさん。
考えこむレオノールさんのかわりに次はトーカさんが話出した。
「ニホン?初めて聞いたな。どんな国だい?」
「どんな、ええと、その、平和です。宗教は仏教とか神道とか色々あって、食べ物や水が美味しいです」
「そうか…食べ物や水が美味しいっていうのは平和の証拠だな。すごくいいね」
目を細めてトーカさんが微笑んだ。
目尻の皺がきゅっと寄る。
「…アストリア国はね、人間の王族が治めてて、200年ほど前に大きな戦争を終えてから柔軟な考えになってね。僻地で内戦はまだあるものの、今では俺たちみたいな獣人やエルフも普通に暮らしてるんだ。…ユウの国には、獣人やエルフはいる?」
「いえ、私の国には…昔話や御伽噺には出てくるんですが…」
むしろ、世界にはいない、と思ったけれど、トーカさんとレオノールさんの手前、その言葉は飲み込んだ。
「じゃあ、魔法……もしかして、魔法もあるんですか」
「ええ、あります。その様子からだと魔力もないのでしょうか?」
レオノールさんの問いに頷くと、彼はより一層不思議そうな顔をして考えこんだ。
その後、この世界の事を聞き続けた。
魔法の話、エルフや獣人の話、ドラゴンの話、他の国のこと。
この世界には神様がいて、ユリアナとはかつての聖女で、さまざまな国があり、王様がいて、神官もいて、そして民がいる。
異世界とはいいつつ、ここは人々が暮らしている世界だ。
話の途中、さっきのシスターがお茶を持ってきてくれたが、話の腰は折れることなく話題は尽きなかった。
しばらく話した後、お茶を持ってきてそのまま同席していたシスターが窓の外を見ながら口を開いた。
「……レオノール様。そろそろ夕餉の支度をしようかと思います。このままユウ様にはお部屋のご案内をいたしますので、殿方はこのままお待ち下さい」
にこり、と微笑んでそう言った。
「ああ、もうそんな時間でしたか」
「たくさん喋ったな!」
トーカさんがぐぐっと伸びる。
「ユウ、夜ご飯はどうする?なにか食べたいものはある?」
「いや...なんかお腹いっぱいって感じで…」
「では、後ほど軽食をお部屋にお持ちいたします。まずはお部屋の説明から」
そう言って立ち上がり、シスターが部屋の説明をしてくれた。
応接室かな、と思っていた部屋は部屋の一部で奥には寝室やトイレやお風呂があって、まるでお高いホテルのようだった。
「じゃあ、ユウ、また」
トーカさんがそう言って、レオノールさんとシスターが深くお辞儀をして扉が閉められた。
途端に、部屋がシンと静まり返る。
もしかしなくても、私は、異世界に来たんだろうか。
ぼんやり、そう考えるがイマイチわからない。
やっぱりなんだかテレビを観ているような、はたまた夢を見ているような気がする。
奥の部屋のベッドに横になってみる。
ふわふわしていて、疲れた体がほろほろと溶けていくようだ。
やっぱり今日は、なんだ、とても疲れてしまった。
「……きもちぃ」
ふわふわふんわり。
まるで雲の上にいるような、
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