表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

03 神殿と狼男とエルフと

温厚なトーカが険しい顔をするのは、珍しいことだ。

私見立てではあるが、我々エルフや人間より眉間や鼻筋の皺をわずかに多く寄せている気がする。

彼の狼の血がそうしているのかもしれない。


そんなトーカに連れられて神殿を見回る。

何もなければいいと思いながら、進んでいたのだか、それは突然だった。


トーカの胸騒ぎの元凶が忽然と目の前に現れたのだ。


トーカよりも若く、20代くらいだろうか。

黒い髪を肩まで伸ばした普通の女が、本当に忽然と私とトーカの目の前に現れたのだ。


信じられず唖然とするが、トーカも忽然と現れた当の本人である女も唖然としていた。


だが、それだけでは終わらない。

女のその体に纏わりついている魔力に見覚えがあったのだ。


(あの女にまとわりついている魔力は……)


思わずゴクリと喉をならす。

あれは、神殿と同じ魔力だ。


何百年と長い事生きていたが、同じように神殿の魔力を纏わりつかせた人間と会えたのは、今日を合わせても2回しかない。

1回目は、50年ほど前。

その時は年老いた男だったが、やはり神殿と同じ魔力を纏わりつかせて、人々に王のように慕われ崇められていた。



「……招かれし者、だ」



神殿から溢れ出る魔力と同じ魔力を体に纏わりつかせ、人々に幸福を呼ぶ吉兆の証。

このアストリア国を含む周辺の国々の長い歴史の中で、いつからか現れ始め、1日で消える者もいれば50年ほど前の男と同じように生涯を過ごす者もいるらしい。


思わず口をついて出た言葉は、熱を帯びていた。

声に気付いたトーカと女が同時に私を見る。


「貴方の名前は?」


問いかけるが、返事はない。

震える視線の奥に恐れと混乱が渦巻いている。


トーカが小さく、あの歴史の?と聞いてきた。

目が落ちそうなほど見開いている。

私が静かに頷けば、トーカは腹をくくった祖父のトーマのような顔をして一呼吸した後、女に話しかけた。


「…ええと、言葉、わかるかな?俺たちは敵じゃない。少し話を聞かせてくれないか?」

「こ、ここ…どこなの?」


声はかすれていた。

固まってた体で浅く息をしながら、現状を把握しようと目や体を動かし始める。

そわそわとして、まるで朝のトーカのようだ。


「コスプレ会場?それ……狼男?そっちはエルフ?」

「あー、ここはアストリア国の神殿で、俺は、狼の獣人のトーカ。で、こっちはエルフで神官のレオノール」


トーカが一歩進むと女が一歩下がる。

それはそうだな。

例え招かれし者でもそうでなくても、緑深い神殿の影で見知らぬ異性2人と対面は身構えてしまうだろう。


「ここは、椅子もなければ茶もないな」


その方が話しやすかろう。

きょとん、と2人共同じ顔をして私を見る。


「緑深く虫も多い」


女はビクッと体をはねさせた。


「こちらへ」

「レオノール!」


驚いたトーカが私の名前を呼ぶ。

それを横目に私は体をひるがえし、ガサガサと草を踏みながら神殿に向かう。

耳をすませば神殿にいる子供たちの声が聞こえた。


「お前はまた…レオノール……神殿でお話をしましょう。少なくともここよりは、虫もいないし、庭では地域の子どもも遊んでいます」

「は、はあ…」


ガサガサと後ろから音がする。

2人も歩き始めたようだ。


「レオノール!言葉が少なくてあれじゃあ、分からないよ」

「…そうか、すまない」


横に来たトーカが少し呆れた顔をしている。

さっきまで強張っていた表情がほどけたようだ。


今や私の方がそわそわとしている。

トーカが産まれた時以来か、はたまた50年ぶりか、鼓動も足もいつもより速い気がする。


次回【04 知らない世界と信仰と緊張と】

7/7(月)お昼12時に更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ