02 昼下がりと賑やかな声と女の子と
昼下がりの神殿は子どもたちの笑い声でにぎやかだった。
木陰でかくれんぼ、噴水のまわりで水遊び――穏やかな時間のはずなのに、なぜか落ち着かない。
(なんだ、このそわそわする感じ……)
胸の奥が、うずく。
耳がそこらかしこを気にして動き、尻尾が体にぴったりと寄ってしまう。体もそわそわする。
理由は分からない。ただ、何かが引っかかっている気がした。
「……レオノール」
窓辺から中庭で遊ぶ子供たちを見守っていたレオノールに声をかけると、少し不思議そうな顔をして歩み寄ってくれた。
「何かあったか?」
「いや、そうじゃないんだけど…子どもたちに何かあったら嫌だし、ちょっと見回ってこようかと思ってさ」
「……付き合おう」
俺は安心すると同時に、妙な緊張感を覚えていた。
歩き出す俺にレオノールが言う。
「……ルーガの勘はよく当たる。特に、お前の祖父は凄かった。物事をまるで予言のように言い当て」
俺の爺さんとレオノールは、ルーガの民とエルフで種族は違えど、このアストリア国に移住した年からの昔馴染みで親友だったらしい。
まるで昨日の事のように話すレオノールは無表情だけど、ほんの少しイキイキとしていた。
まあ、エルフの彼に取っては昨日も当然なのかもしれない。
そのまま雑談しながら、神殿の建物周りをぐるりまわり、その後に念の為にと普段人が寄らない庭の奥の方も散策を始めた。
いつも通りの風景だった。
思い過ごしか、と胸をなで下ろしてた。
けれど、それは急に現れた。
女の子だ。
黒髪を肩まで伸ばした20代くらいの普通の女の子。
「……えっ」
あまりの急な出来事に言葉を飲んで、歩みを止める。
レオノールも気づいたのか、俺の視線を追って足を止めた。
信じられなくて、2人で唖然とそちら見る。
女の子もまた、唖然とした表情で空を見上げていた。
「なに…ここ……」
彼女の震えた声が聞こえた。