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19 白砂と中庭と第一夫人と

やがてパレードの声援の向こうに、白く輝く聖宮の外観が姿を現した。

高くそびえる塔は砂漠の陽を反射してまばゆく、正面のアーチには精緻な彫刻が刻まれている。

壁面に映える青いタイルはまるで美しい水を表しているかのようだ。



「ユウ、あれがこの国の中枢、白砂の聖宮です」

「白砂の聖宮……」



レオノールが静かに説明を続ける。



「アストリアと違い、この国には王はおりません。神官の頂に立つ大司教が民を導き、政も取り仕切ります。神の御心に従い、この国の道筋が定められてゆくのです」



象が聖宮の正門前で止まると、乗り手が巧みに足元に梯子を差し出した。

象の背から降りると柔らかな砂が足を迎えてくれる。



「ふぅ……」

「初めてだったかい?」

「はい、象を見たのも初めてですね」



トーカとユウがふふっと微笑み合う。

象の背の高さから解放されトーカの穏やかな様子にユウの胸に安心感が広がったが、束の間のことだった。


合流したバシールに促され奥に進むと、白亜のロビーが広がりそこへ神官たちが整列していた。



「リカード・アストリア=エル・ファリド様、おかえりなさいませ。お目にかかれ光栄に存じます」



その声は低く重々しく、しかし柔らかい敬意を帯びていた。

神官たちは一斉に頭を下げ、リカードに"のみ"礼を尽くしていた。

刺繍や装飾が多い高位の神官ほどユウを見る目は冷ややかで――信仰心ゆえ、隣国に現れた「吉兆の証」を疑っているのだ。


アストリアでは感じなかったそれにユウの胸はひやりとした。



(もしかして……歓迎されてない、のかな?)



手に吹き出た汗を拭うように、服を握りしめた。

挨拶をされたリカードは、いつものポーカーフェイスは嘘のように不快感をあらわにしていたが、神官たちは頭を下げており誰一人気づくことはなかった。


そんな中、レオノールが静かに一歩前に出た。



「ご挨拶申し上げます。私はアストリア王国にて神官を務める、レオノール・アナフィエルです。我が国へと招かれしユウ共々、何卒よろしくお願い申し上げます」



レオノールの声は、低くも凛としており、場の空気を詰めさせた。


その証拠に、場にいたアズハルの神官たちの表情がわずかに強張ったのだった。

ひとりが小さく咳払いをすると、半ば引きずられるようにレオノールやユウに向かい頭を下げた。


まるで、ただ、抗えぬ威光に屈したという姿勢だ。


リカードとレオノールは、まるで睨みつけるように神官たちを見据え、より空気が張り詰めた。

その空気の間に、バシールが満面の笑みを浮かべ、すっと割り込む。



「ささ!では、聖宮をご案内いたしましょう!!」



彼の声に従い一行は、広々とした白亜のロビーを抜け、さらに奥へと進んだ。

大理石の床は陽光を反射してきらめき、壁には精緻な幾何学模様の装飾が施されていた。


ロビーが見えなくなったところで、バシールが再び口を開いた。



「……申し訳ございません。神官がたは"何故招かれし者が我が国に現れなかったのか"と少し拗ねておられるのです。そんな折多忙なるスケジュールの合間を縫っていただいたので、きっと気がそぞろだったのかもしれません」



バシールがそう告げると、横で歩いていたリカードが小さくため息をつき、低くつぶやいた。



「……なるほど。大層お忙しいようで、何よりです」



皮肉を含んだ声に、一瞬だけ空気が重くなる。

だが、バシールはすぐさま場を軽く払うように両手を広げ、朗らかに笑った。



「ええ、本当に!寝る間も惜しんで政に信仰に勤しむなんて、このバシールには到底真似できません!ですが、お陰様でユウや皆様にお会いすることができて恐悦至極でございます!


……もっとも、神官方には家族の時間も大切にしてほしいものですがね」





ぽつりと最後にバシールか小さく零す。


その時、廊下の奥にひときわ目を引く扉がユウたちの視界に現れた。

扉と言っても、それは豪奢な文様をあしらった織物の暖簾だ。

バシールは微笑み、そっと暖簾を開いた。

光を受けるたびに金糸と深紅の模様が煌めき、異国の香りがそっと漂うかのようだった。


ユウたちが暖簾をくぐると、中庭が一望できる広々とした空間が広がっていた。

砂漠の国には少し不釣り合いな、緑豊かな木々や整然とした花壇、遠くまでそびえる塔――すべてが整然と、しかし生き生きと息づいている。


建物の日陰になっている白亜の床には絨毯が敷かれ、美しい刺繍のクッションと銀の茶器が並ぶ。

そこに一人の少女が立っていた。


頭には床に届くほどの薄いヴェールをかぶり、光を受けるたびに煌めく水色のワンピースをまとっている。全体に繊細な刺繍が施され、柔らかくも華やかな光沢を放っていた。


中庭からの優しい風で刺繍が光を反射して揺れ、ヴェールの縁もそよいで、少女の佇まいをより際立たせる優雅さがあった。

バシールに促され、ユウたちは自然と少女の方へ歩みを進める。



「日暮れに宴を催します。それまでのひととき、どうなごゆるりとお過ごしくださいませ。お相手には、私の第一夫人を」

「……はじめまして。アネッタ・アル=ナスルです」



幼く見えるが、澄んだ瞳に聡明さが宿り、所作は淀みない。

そんなアネッタの様子に、バシールは誇らしげに続けた。



「彼女は幼き頃より我が家に嫁ぎ、学びと勤めを怠らぬ優秀な伴侶です。齢14になりますが、神官にも負けず劣りません。ユウの良き友になりましょう」

「貴方とお話しできるのを楽しみにしておりました」



にこり、とアネッタが微笑んだ。



次回 10/20㈪朝7時 更新予定!

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