17 お色直しと青とアズハルと
「こちらが本日のお召し物です」
リカードとユウが部屋に入るなり、部屋の中で待ち構えていたメイドがそう言った。
それを皮切りに奥から現れたメイドたちが着々と服やアクセサリーを出して並べだす。
想像していた準備や着替えの様子とは少し違い、ユウは思わず体を強張らせた。
メイドたちはそんなユウの気持ちを知ってか知らずか、目の前に色とりどりの布地を整然と並べていく。
まるで小さな百貨店が目の前で店開きをしているようだ。
「……そちらよりこちらのほうが良いかと。淡い色は暑さを吸うので、現地では好まれない」
ユウが固まってメイドたちの仕事ぶりを眺めていると、リカードがそう言いった。
そして、ユウが見ていた方向とは少し離れた場所にあった紺色の服を指す。
メイドがすぐにそれ引き出すと、リカードは装飾品へと視線を移した。
金や銀、それに宝石を使ったブレスレットやリングなどの様々なアクセサリーが並べられていた。
「アズハルでは男性も装飾品を身につけます。アクセサリーというよりお守りや階級、家柄、信仰を示すものとして日常に溶け込んでいます。
……特に、この青い石は『神の瞳』と呼ばれ、女神ユリアスの加護を授かるとされます。神官は必ず身につけるものです」
「女神の、瞳ですか......」
テーブルに置かれたそれを覗き込む。
透明感のある青い石だった。
それは、角度によって水色に見えたり、濃紺や緑が瞬いたりして、まるで水の中のように感じられた。
(最近、どこかで......見たような......)
ユウは首を傾げた。
「......これと、それから、ヴェールと、それと鈴の腕輪を」
「かしこまりました」
メイドが一礼すると、ユウを部屋に置かれたついたての奥の方に連れ、流れるように手際よくユウの服に手をかけた。
「わ!わたし!!1人でできます!!!」
「遠慮なさらず、さあ、お静かに」
朗らかにメイドが微笑む。
それからは言われるまま、流れるままに、身支度が始まった。
リカードが選んだそれらは、先日ユウが着ていた白地に金の刺繍が入った服とは、まったく雰囲気が違う服だった。
肌触りも違い、ざっくりとしたリネンのような生地は肌に涼しく、まるで風を纏ったようだ。
布がさらりと擦れる音がする。
「アズハルの伝統衣装を模したものです。砂漠の暑さに負けぬよう風を味方につけ、ヴェールは魔除けの意味や照りつける太陽から肌を守るような作りとなっております」
それからメイドは、ユウの耳にイヤリングをつけ、首元に青い石のネックレスをかけた。
細い鈴のついたブレスレットをユウの手首に留めると、控えめにシャン、と涼やかな音が鳴った。
最後に服と同じ色合いのヴェールを頭につけた。
透け感のある素材が腕や背中を覆い隠す。
揺れるとキラキラと布が輝き、まるで夜空のようだ。
「お似合いです」
「あ、ありがとうございます」
そう、メイドがユウに柔らかく微笑んだ。
ユウは改めて鏡に向き直る。
鏡の中で見慣れない自分がこちらを見返していた。
「宜しいかと」
いつの間にか側にいたリカードが鏡越しにユウを見ていた。
着飾った同年代のユウに対し、照れるわけでもなく、微笑むこともなく、ただそう告げた。
その様子にメイドたちがほんの少しだけ面白くなさそうに静かに目を交じり合わせた。
「あ、そう。この青!」
不意にユウが声を上げた。
ネックレスの青い石とリカードの顔を交互に見た。
「見覚えがあると思ったら、リカード様の瞳みたいですね。角度で緑に見えたり、伏せ目だと紺色になったり……そっくりで、とても綺麗です」
「......そう、ですか」
ユウは青い石を目線に上げ、キラキラと色をや光を楽しんだ。
「......貴方もき「失礼しまあす!」
バン!と扉が開き、ミナミの声が響く。
ユウがそちらを覗くと、目が合ったミナミがぱっと目を輝かせる。
「とてもいい……!本当に似合ってます。すごく綺麗です!!!」
きゃあきゃあとミナミが褒めちぎる。
続いてメイドたちも口々にユウを褒めた。
「とても素敵です」
「黒い髪に馴染んでとてもよくお似合いです」
「まるで夜の女神のようですわ」
うんうんと頷くミナミに、ユウも笑みを返し、「ありがとう」と礼を言った。
次いで、アルミンとザイード、レオノールとトーカも部屋に入ってきた。
「着替えを終えたのですね。とてもよくお似合いです、ユウ」
「あ、ありがとうございます」
「ね!すごく似合うんだから自信持って!ニコッとして、ユウさん」
アルミンが褒めると、ミナミが続けてそう言う。
あはは、と照れくさそうにユウが笑う。
「連日慣れないことばかりで、お疲れですよね。リカード殿、アズハルに着いたら休息をお願いします」
「はい、調整いたします」
「ユウ一行の方が先に出立すると聞いて、もう一度挨拶をと。どうか、女神の加護がありますように」
「ユウさん、気を付けて行ってらっしゃい!」
「うん。ミナミちゃんも気を付けて」
ぎゅっとミナミの温かい手がユウの手を握った。
少しそのまま談笑した後、ミナミ達はその部屋で一足早く出発するユウ達を見送った。
先日の転移装置がある地下神殿に向かい、転移装置の上にユウとリカードとレオノール、トーカが立った。
「着いたら少し休息を取りましょうね。お手をどうぞ、レディ」
「こちらの手は、私に」
「ふふ、ありがとうございます」
トーカがユウの手を取り、また反対側はレオノールの腕に回された。
背の高い2人に挟まれ、ユウは思わず笑みをこぼした。
魔法陣が光り、ユウは目を閉じた。
きっとレオノールとトーカは前回のようにユウが自分たちと違う場所に行かないよう、手を取ったのだろう。
実際のところ、魔法相手にそれは気休めでしかなかったが、ユウにはお守りのように穏やかな安心感をもたらした。
今度は耳鳴りがしない。
かわりにゴボゴボと水の音が響いた。
まるで水の中にいるような浮遊感があった。
小学校のプールに浮かんだ、あの時のようだ。
(......セオくん?)
また夢を見ているのかな、と思い目を開けると、セオの姿はなく夢の中でもなかった。
ギラリと強い日差しが降り注いでいた。
乾いた熱気が肺へと押し寄せる。
吹き抜けの天井から見える空は果てしなく高い。
「――ようこそ、アズハルへっ!!」
喜びに溢れた青年の声が響いた。
ドンドンドンドン、とまるで花火のような太鼓の音が鳴り始める。
次回 10/6㈪朝7時 更新予定!




