01 夢と男の子と消えたごみ袋と
気が付けば辺り一面真っ白だった。
あ、これは夢だな、とぼんやりと思った。
少し離れた場所に甥っ子が立っていた。
先日入学式の写真を見せてもらったばかりだった。
声をかけようと近付くと、別の男の子だった。
まだあどけない幼い顔立ちをしていて、耳が隠れる程度の少し長めの黒髪で、見慣れない青い瞳。
日に焼けたような肌に馴染むようなリネンの衣を着ていた。自然派、というより昔の服装だ。
――ガボボッ
話しかけようと口を開くと空気が溢れ出た。
ゴポゴポと空に昇っていく。
まるで水の中のようだ。
不思議と苦しくないけれど、声も出せない。
前にも進めない。
手を伸ばしたが、うまく男の子を触れない。
男の子がこちらを見たけれど、動くことはせずじっと私を見ていた。
どこからか、男の子を探しているような、呼ぶような声が聞こえる。
あの声は、男の子に届いたのだろうか。
「……っわっ……」
ビクリ!と体が飛び跳ねて声が出る。
耳元ではアラームが鳴り響いていて、私は慌ててスマートフォンを探った。
「……変な夢……」
アラームを止めて時計を見れば、7時30分。
仕事に行かなくちゃ、と思ったけど、今日は土曜日。
今のアラームは燃えるゴミを出す為にゴミ収集車が来る30分前にセットしたアラームだ。
私はのそのそと着替えをはじめた。
社会人になり、一人暮らしを始めて早2年。
最初は嫌々やっていたゴミ捨てももうお手の物だ。
着替えて、顔も洗って、スキンケアと日焼け止めを塗って、いつも通りちょっと外に行く準備をする。
そのまま朝ごはんでも買ってこようかな。
玄関の小棚にスマホと鍵を一度置いて、昨晩準備したゴミ袋を横目に、またのそのそと靴を履く。
――履いたらゴミを持って、財布とスマホも持って
そう考えながら顔をあげた瞬間、
空気が変わった。
たくさんの木々の葉がさわさわと風に揺れている。
上には青空が広がっていて、雲がゆっくり流れていて、澄んだ風の、空気の匂いがする。
いつも通り、本当にいつものように、ただ玄関で靴を履いていただけなのに、さっきまで目の前にあったはずの玄関扉がない。
狭いアパートで狭い玄関だから、文字通り目の前にあったはずなのにない。
辺りを見回しても、準備してたゴミ袋やスマホどころか、建物もない。背の高い木々、見たことのない葉の形。鳥の声もどこか違う気がする。
パニックがじわじわと胸にせり上がってくる。
体中から嫌な汗が噴き出てくる。
「なに…ここ……」
私は、ゴクリと固唾を飲んだ。