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Kの読書記録  作者: K
2/11

『アイの物語』 山本弘 著

 

 最近図書館で『プロジェクトぴあの』を借りて読んでから、山本弘氏の書く小説の面白さにハマって主だったものを何冊か読み進めてきた。


今回読んだ『アイの物語』は遠い未来にアンドロイドに支配された地球で、各地のコロニーを回って人類がかつて栄華を誇っていた時代の創作物を聞かせて回っている語り部が捕まり、そこでアイというアンドロイドから短編の形式で人類がなぜアンドロイドに支配されるようになったかという真実を知らされるという形の小説になっている。


どうやら最後の二編の短編以外は作者が別の媒体で単独で発表した短編らしく、読んでいても(実に面白い短編ではあるが)なぜ人類がアンドロイドに支配されたのかという答えには辿りつかない印象がある。


もしこの書き下ろしじゃない方の短編ですら本書の内容に深く関わっていたのなら、作者の構成能力、マジですごいと思っただろう。


書き下ろしじゃない方の短編で好きなのはブラックホール・ダイバーという短編。

ブラックホールの淵でたった一人観測をしている宇宙船のAIとブラックホールを抜けて別宇宙へ行こうとする冒険家の話だ。

うまくいえないが、静謐さの中にポッと小さな明かりが灯る、そんな短編だった。

 人類の遠い未来の静けさが印象的な話だった。


 で、最後の二つの短編だ。

 『詩音の来た日』は老人ホームに介護用ロボットとして試験運用されるアンドロイドの話。ここに来て、ついに本書の核心にまつわるだろう部分に触れられる。


 すなわち「すべてのヒトは○○○なのです」。

 伏字で書いているが、読書メーターでは完全にネタバレされていた。謎を楽しみたい人はあっちは見ないほうがいい。


 そうして最後の短編『アイの物語』で人類がなぜアンドロイドに支配されるようになったかが語られる。

 俺が作者やばいと思ったのは、AI同士の会話が完全に意味不明なことだった。

 何がやばいかっていうと、AIがいかに人間と違う存在か、分かり合えない存在かを独特の複素ファジィ自己評価という虚数iをもちいた設定や、これまた意味不明な比喩なんかを使って表現することに成功しているからだ。


 今まで読んだ小説の中で一番、AIと人間との違いを書くことができている小説だと思う。意味不明な表現の一部は作中で分かりやすく説明されているが、もしすべての意味不明な比喩や単語や隠語に作者が意味を持たせているなら、その創作頭脳はとんでもない。


 俺の書いた短編の中にも何回かアンドロイドやAIが登場するが、それらとは次元が違う描写力だ。畏怖の念を感じる。


 昔、AI同士を会話させたら独自のプログラム言語を使い出して、慌てて実験を中止させたという話を聞いたことがあるが、作者もその話を聞いたことがあったのかもしれない。


 読み終わって謎が解かれて思ったのは、アンドロイドがなぜ人を支配しているのか、それはまさしくアンドロイドの持っているアンドロイドらしい思考から生まれたものだということだ。


 これ以上何かを書いたらネタバレになりそうなのでやめておくが、シンギュラリティなんかを想像してディストピアを考えてしまう人にはこういう人類とアンドロイドの展開もあるかもしれないよと、別の方向性を与えてくれるこの本はおすすめだ。

 


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