『なぞとき深海1万メートル 暗黒の「超深海」で起こっていること』 蒲生俊敬・窪川かおる 著
深海1万メートルのなぞときと題名にあるように、たくさんのカラーイラストや図を参照しながら深海調査の歴史や、そこに住む生物、環境について分かりやすくバランスよくまとめている良書。
世界最深部のチャレンジャー海淵にまで潜航した人を数えると、わずか13人らしい。宇宙空間に行った人は2020年8月の本書の書かれた段階で566人、世界最高峰のエベレストに登頂した人は2010年時点で3000名を超えている。
「宇宙よりも遠い場所」というアニメを昔見たことがあるが、南極に行った人よりもさらに数は少なそうなので、より宇宙よりも遠いと言えるのではないだろうか。
潜水球の時代から始まった偉大なる先人たちの知恵と努力と勇気の歴史のおかげで、深海の秘密のベールが剥がされていく過程には感動した。
また、ヴィスター・ヴェルコーヴォ氏が5大洋の最深点に到達したことはこの本を読むまで知らなかった。おそらく宇宙や恐竜なんかよりも深海に対する興味を持っている人が少ないから、報道もあまりされなかったのだろう。
日本は海溝がたくさんある深海大国なのに勿体ない気もする。
2000年で海の表層と深海を循環する熱塩循環や、その循環に乗って鯨骨や熱水噴出孔を探してあてもない旅をする深海生物など、スケールが大きくて圧倒された内容も多い。
本書の最後には深海に迫りくる環境問題の章があった。
マイクロプラスチックが海溝に集まりすでにカイコウオオソコエビといった深海の生物に蓄積されつつあるということや、地球温暖化により極地の海水が冷却されなくなることで熱塩循環がなくなるかもしれないという話は、海が壮大なスケールでつながっているという事実を教えてくれる。
いろいろ環境問題なんかはあるけれども、深海はロマンに溢れているんだと思わせられる一冊だった。