第6話 霧
「さ、授業始めよか」
空揚げに脳が溶かされた後、少し急ぎ気味で数千人が住む基地を一周した。
会議室、講堂だけで大小数十あり正直怪しい部分もあるが、そのうち慣れるだろう。
そして今、濃い一日が明けて到着三日目。
息をつく時間は終わったとばかりに今日から講習が始まる。
1週間後には前日までに叩き込まれた内容を元にした実力テストが行われる。
落第すれば、配属取り消しだ。
講師は、例の大尉。非常に気まずい。
しかし当の講師は気にする素振りもなく、授業を始めた。
講義のタイトルはグリフォン関連でもARMAのことでもない。
霧に関することだった。
「みんなーしってのとおり、西暦3188年、いきなり土星州の人工衛星都市と港湾をぶっ壊して、各衛星の採掘施設が攻撃し占領した謎の攻撃文明、これが『霧』や。これの対応策として地球連邦政府は、地球連邦防衛海軍を主戦力として反抗を開始した」
独特のイントネーションで語る講師が一つ、息をつく。
「そんなかでARMAの主任務となっていったんが、敵残党をアステロイド内で殲滅し、絶対防衛圏を死守することや。なぜかは未だわからんのやけど霧の連中は撤退っちゅう言葉をしらない。そうなると海軍が戦闘中どうしても取り逃がしてしまったり、防衛網を抜けてくる小規模な部隊があったりする。そういうんを仕留めるのが今のところワイらARMAの仕事や」
そこまで話して講師は水を取り、口に含んだ。
「さて、こっからが本題や。さっきも言ったけど、ワイらが霧の連中を取り逃すことは絶対に許されん。将来鷹になってもらう君たちにゃ効率的な狩りをしてもらう。そのために必要なんが……敵をよく知ることや」
そういうと大尉殿はニカリと笑い、教卓の下から分厚い冊子をその上へ放り投げた。重量級の物体が、大きな音とともに机を揺らす。
どうやら、この講義で我々が覚えなければならない内容らしい。
霧に関する講義、第1章は用いる兵器の特徴から始まった。
霧の全艦艇に共通する点として、恒星間航行をする文明の割には薄い物理装甲しか保有していない。さらに地球側艦艇に標準装備されているシールド装甲がないため、地球の現有火力を用いれば十分に貫徹、撃破できる。
火力もそう高いわけではなく、戦艦クラスの砲撃でも当たりどころにもよるが一撃程度なら駆逐艦でも耐えられる。
まあ、グリフォンは流石に無理だが……対空砲火くらいなら数発程度は無傷だ。
ここまでなら、霧はさほど脅威ではない。
そんな霧を本気の地球が未だ押し返せていない所以、それは……数の暴力である。
恒星間文明というは伊達ではないらしく、毎度毎度こちらの総兵力の数倍の規模で侵攻をかけてきており、スパンも月に1回以上と短い。
敵司令部の頭がおつむなのかはわからないが戦力を逐次投入してくれているから戦線が保っているようなもの。もし霧が半年分以上の兵力を以て一気に攻めてくれば地球は落ちる。そんな戦争を15年も続けているのだから霧の生産力は計り知れない。
そんな霧が現在生産し、前線で戦闘していることが確認されている兵器は主に9つ。
NT級戦艦
NV級航空母艦
NB級重巡洋艦
NC級軽巡洋艦
ND級防空駆逐艦
NM級艦隊駆逐艦
NP級フリゲート
AF型艦上戦闘機
AG型艦上攻撃機
NTからNCクラスは確実に聯合艦隊が仕留めているらしく、ARMAが交戦する機会は殆どない。
主に相手取るのはAF,AG,NPの3クラス。
まず前者2つ。NV級から発艦した艦上機たちは、前線に航空機を展開していない聯合艦隊にとって最も取り逃がしやすい機種。
しかし聯合艦隊は空母を保有していない。数で圧倒してくる霧に対して無防備になりやすい航空母艦が展開するのは自殺行為に近いのだ。
両者の違いとしてAF型は非常に高機動であり戦闘機としては火力も十分、先代のAA07ヘラクレスをもってしても、1vs1のドックファイトでは苦戦することが多かった。
しかし、海軍の前線に航空戦力がいないからかAG型に比べて数は少ないというところが、唯一我々にとっての救いだ。
そして、ARMAが最も交戦するの敵、それがAG型。
25m程度の比較的中型機に155mmの無反動重力子砲とも言うべき使い捨て対艦兵器を搭載しており、これは一個小隊分の門数があれば駆逐艦程度は容易に仕留められる。
AG型はそんな代物を地球や衛星に叩き込もうと最低大隊単位で突っ込んでくるからたまったものではない。
機動力が低く多連装ミサイルで仕留められるから戦線が維持できているようなものだ。
また、最近ARMA内で交戦回数の激増が確認されているのがNP型フリゲート。100メートル弱の船体に6門の90ミリ陽電子砲を備え、多数の対空火器と4門の重力子魚雷を備える高火力な艦艇。装甲こそ薄いものの対艦ミサイルが容易に迎撃されてしまうため今も対応に苦戦しているという。今回、AA08グリフォンに固定火砲が装備されたのには、迎撃されず、一撃で対空火器を粉砕できる兵装がほしいという背景があったということだろう。
こうして、これらの他に我々の対応することがほとんどない敵艦に対しても兵装、機動性、戦術、弱点など様々な点から説明を受けたところで1コマ目は終わった。休憩は15分、対する授業時間は140分にも及んでいた。