連携魔術試験
学院の教室は、生徒たちの期待と緊張でざわついていた。教師が講壇に立ち、手を挙げると教室内は静寂に包まれた。
「いよいよ年に一度の『連携魔術試験』だ。今年は例年以上に難易度を上げている。この試験では、君たちの実践力、理論知識、そして連携能力が試される。」
教師の言葉に、生徒たちの間でざわつきが起こる。試験の成績が学院での評価に直結することは誰もが知っていた。
「今回の試験では三つの課題を課す。それぞれで成果を上げ、総合得点を競う形だ。ペアで挑む以上、個人の実力だけではなく、相手との連携が重要になるだろう。」
•第一課題:複雑な魔法陣の設計とその正確な運用。
•第二課題:模擬戦闘でのチームワーク評価。
•第三課題:トラブルシューティングを伴う問題解決能力の実践。
生徒たちが内容に耳を傾ける中、教師はさらに重要な情報を告げた。
「ペアリングは教師の意見で決定されている。リストを発表するので、各自確認するように。」
教師がリストを読み上げる中、アーノルド・グラントは自分の名前を見つけ、その隣に記された文字に視線を止めた。
「……イングリット・ハーロウ。」
その瞬間、彼の胸にわだかまった感情が湧き上がる。悔しさ、苛立ち、そして僅かな焦燥感――すべてが一気に渦巻いていた。
(またあいつとか……どうしてなんだ。)
かつて自分を破り、学年トップの地位を奪ったイングリットとの再会。彼女に対する嫉妬と敵意が胸を刺すように蘇る。
一方、リストを確認したイングリットは、静かに顔を上げてアーノルドの方を見つめた。冷静な態度を崩さない彼女は、穏やかな笑みを浮かべながら近づいてきた。
「グラントさん、またご一緒ですね。今回もよろしくお願いします。」
彼女の落ち着いた態度に、アーノルドは内心の苛立ちを隠せなかった。
「……お前が足を引っ張らないことを祈るよ。」
皮肉交じりに言い放つアーノルド。しかし、イングリットは全く動じない。
「それはご心配なく。お互い、最善を尽くしましょう。」
その余裕ある返答に、アーノルドはさらに苛立ちを募らせた。
試験場に足を踏み入れると、巨大な魔法陣の設計図が空間に投影されていた。これは第一課題の内容だ。
「設計図を基に魔法陣を構築し、指定された魔法を発動させなさい。」教師の声が響き渡る。
「俺がやる。お前は何もするな。」
自信満々に作業を進めるアーノルドだったが、設計図の複雑さに徐々に苦戦し始めた。魔法陣を完成させようとするたびに、魔力の流れが乱れ、エラーが発生する。
「くそっ……なんでだ!」
苛立ちを隠せないアーノルドに、イングリットが冷静な声で指摘する。
「グラントさん、魔力の流れが逆転しています。この接続部分を修正しないと機能しません。」
「うるさい!俺に指図するな!」
アーノルドの怒声にも、イングリットは冷静に応じる。
「では、そのまま続けますか? 時間が限られていますので、判断はお任せします。」
その一言に、アーノルドは渋々彼女の指摘を受け入れた。
イングリットの指示に従い、二人で魔法陣の設計を進めることになった。彼女は的確にエラーを指摘し、アーノルドの作業を効率化させた。
「ここをこう繋げれば、魔力が均一に流れます。」
「……わかったよ。」
イングリットの助言に従って調整を重ねると、魔法陣は完璧に完成した。そして、アーノルドが魔力を注ぎ込むと、指定された魔法が見事に発動した。
「……やった。」
「お疲れ様です。グラントさんの魔法制御が素晴らしかったですね。」
イングリットの穏やかな言葉に、アーノルドは複雑な表情を浮かべた。
第一課題をクリアしたものの、アーノルドは完全に満足しているわけではなかった。彼の中には、いまだイングリットに対する敵意と悔しさが燻っていた。
(彼女に頼らないとクリアできないなんて……でも、確かに彼女の言う通りにしたら上手くいった。)
一方、イングリットは変わらぬ落ち着きを見せながらも、アーノルドの潜在能力を冷静に評価していた。
「グラントさん、あなたにはもっと伸びしろがありますね。」
彼女のその一言が、アーノルドの心をさらに揺さぶった。自分が成長しなければならないと痛感しながら、次の課題に向けて心を整える。
次の課題が待つ中、二人の連携はまだぎこちなかった。しかし、試験を通じて二人の関係が変化する兆しが見え始めていた。
(次こそは……俺が主導権を握る。)
アーノルドの内心の誓いと、イングリットの冷静な観察――二人の試練は、これからさらに深まっていく。