第8話 逃走ちう ~お買い物デート編~
(デ、デデデデデ、デデデデデデデデデ、デェェェェェェェェエエエエエエェェェェエェェェェエェェーーーーーーーーーーートオオオオオオオオオオオォォォォォオォォオオォオォ!!!!!!)
今をもって、デートイベントが始まった。脳が混乱している内も、鼓動は高鳴る。女の子と手を繋ぐなんて今まであっただろうか。手に触れたのでさえこの世界に来てからだ。もし、俺が転移せずにあのままの日々を過ごしていれば、こんなイベントを体験するのに何十年掛っただろうか。いや、死んだのは事実だから一生なかったままで終わっていた。
俺は今、ここに生きていると実感する。前を歩く彼女に握られている左手が温かい。そのせいで手汗が出ないように必死に心を落ち着かせるが、集中できるはずもない。
(なんか恥ずい・・・)
顔も熱くなる。少し目線を逸らしつつ周りを見渡す。ここはザ・ショッピングモール。故にデートという意識が高まる。これはこの世界ならでは、地球と似ているからこその感覚なのだろう。ちゃんと冷房は効いているはずなのに、体温は上昇を続ける。
「着いたよ!」
「えっ」
途端に左手が冷える。温もりがどこかへ行ってしまった。
「ほら、良いお店でしょ?」
少し寂しくなりつつも、視線を左手からレオさんが指差すお店に移す。
「これ・・・は?」
そこにはこのお店の名前か、「park-A」という文字。ちゃんと英語が存在している点も、筆記体で現代風にかっこよく書いてあることも無視する。
「パークエー?」
「パークエースだよ。ロメント1のパーカーブランド!」
「パーカーブランド?」
俺はファッションには微塵も興味を持てないが、有名どころのブランドを常識程度には知っている。まぁ身につけているのは実際ほとんど1000円程度のパーカーなのだが。というか自分自身で服を買ったことないかもしれん。いつも知らぬ間にタンスに服が入っている。たまにくるパーカー専用サンタクロース。多分ほとんどがどこかからのもらいものなのだろうが・・・。
(にしてもパーカーにそんなブランドがあるとは・・・)
ここは地球ではないのであってもおかしくないのだが、パーカーのみで独立しているブランドは地球でも聞いたことがない。俺が知らないだけかもしれないが。
「パーカーのこういったブランドって珍しいよね~」
「あ、やっぱりそうなんですね」
俺の感覚は間違っていなかったようだ。これでいいのか転移人。
疑問を持ちつつもぱっと見た感じ、見える範囲だが店内には本当にパーカーしか置いていないようだ。
「さ、いこ!」
「は、はい」
お店に入り、店内を見渡す。本当にどこもかしこもパーカーしか置いていない。全てのマネキンがパーカーを着ている。ファッションに疎い俺のテンションが、少し上がっている。ここはパーカー好きの天国かもしれない。まぁ、パーカーが好きな理由はただ単に「なんかかっこいいから」という理由であるが。
「リンはなんでパーカー好きなの?」
「え、それはその・・・」
他の理由を考える。そして言葉の変換も忘れずに。
「ほら・・・パーカーって一枚で完結するじゃないですか? 楽だからいいなーって」
「確かにねー。僕もお金かけないでいいから助かってる」
転移・転生主人公ムーブにも慣れてきた。
「逆にレオさんはなんで好きなんですか?」
「それはあれだよ」
そういってパーカーのフードを被る。オーバーサイズ+小顔ということもあって顔がほとんど隠れてしまう。
「逃げるのにもってこいでしょ?」
「確かに・・・」
(可愛いな!)
レオさんの「どう?」というポーズ。両手が袖に隠れてすごく愛らしい。でも確かに逃走中のレオさんにとってはパーカーは最適な服装なのかもしれない。それでもデメリットはある。
「でもそれ暑くないんですか?」
「ふふっ。ちっちっちっリンくん」
出した人差し指が横に揺れている。すごく可愛い。
「この際暑さなんて考えてる場合じゃないでしょ?」
「た・・・確かに・・・」
ごもっともであった。
「でも何回も着てたらバレるんじゃないですか?」
「え・・・う、うーんと・・・な、なんか案外いけるっぽいよ?」
「なんじゃそりゃ」
まぁ大丈夫なのなら言うことはない。それにしても可愛い。
「あ、あと今買うのは一着だけね。荷物増えるだけだから。あいつらに見つかったらまた買えば良いし」
「あ、了解です」
「じゃあ僕あっち見てくるね~。う~ん。どれにしようかな~?」
そう言いつつレオさんはひとりでに店内を回リ始める。パーカーの性質上か、どうやらレディース・メンズと種類は分かれていないらしい。いや、細くいえばは分かれているところもあるが、ほとんどがどちらとも着れるものが多い。
(彼氏のパーカー着て丈余ってる女の子っていいよな・・・)
なんてことを考えつつ、店内を回る。なんだか見ているだけで楽しい。最近買い物はネットばかりだったので久々ということもあるのだろう。プラスこの服を見て回るという行動もそれなりに一興なのかもしれない。と、数分経ち気づく。
(あれ、もう一周したくね?)
現在地が先程と同じ。今まで見てきた中で良かったと思ったパーカーは・・・ない。それもそのはず。ここは異世界なのだからセンスも柄も、書かれているキャラクターすらも何がなんだかわかっていないのだから。
(え、マジでどうしよ・・・)
悩んでいると、そこにレオさんがやってくる。
「決まった~?」
「いやー・・・それが中々・・・」
「そっかー・・・」
優柔不断クソ野郎。主人公っぽいから許す。
「レオさんは?」
「僕はもう決まったよ」
ぱっと商品の入ったカゴを見せてくる。
「おお~流石ですね」
「へへへ・・・いいのがあったんだ~」
そう言いつつ、どんなパーカーなのかは見せてくれない。
(可愛いなこんちきしょう・・・)
「あ、そうだ。じゃあリンのパーカー僕が選んであげる!」
「え!? マジすか!?」
(すげぇ! デートっぽい!)
それから二人で店内を回りつつ、たまにレオさんが取ったパーカーを実際に俺の体に当ててもらい似合うかどうかを見てもらう。このシチュエーションが中々にやばかった。悩んでいるレオさんも可愛いし、正直ニヤけ面を晒さないことに必死だった。そして最終的に一つのパーカーに決まった。表には何か英語の筆記体。裏にはよくわからないキャラクター。それはデフォルメされた翼の生えた天使のようなもので、そのキャラ自体が中々に可愛い。そして、全体的なデザインとしてはかっこいい。という意見でまとまった。
そのキャラ自体はレオさんも知らないようで、俺としてもはこのキャラがこの世界のアニメ文化に関わるものならのならあとで調べてみたいと思った。というか主にそれが理由で選んだ。
そしてそのパーカーを手に取り、またもや悩みの種が生まれる。
(サイズ・・・どうしよ? Sでも充分入るとは思うけど・・・)
店内を見渡す。
(え、試着ってして良いの? 俺この下裸だけどそれってよかったけ? 上から着るんだっけ?)
「どうしたの?」
「ああ、いえっ」
俺は結局「M」と書かれたそれを取り出しカゴに入れる。そしてそのまま会計スペースへ。後で変なことになる可能性を全て潰すには、何もしないことが一番だ。
二人してお会計に進む。そこでまたあの展開。
(あ、金・・・)
俺は立ち止まる。すぐにレオさんも気づき、すっと空いている手を出してくる。
「カゴもらうよ」
「す、すいません・・・」
「いいよ~仕方ないんだから」
俺はカゴを渡すと店員の視線に気づく。あからさまに「お前マジか!?」という表情をしている。俺は目を逸らし会計出口で待つことにする。
「買ってきたよ~」
「ありがとうございます」
レオさんの背後に店員の顔が見える。未だに「お前マジか!?」という表情をしている。
(すいません、マジなんです・・・これが現実なんです・・・)
心の中で理由もなく謝りつつも、自身のパーカーが入った方の袋を受け取り店を出る。見ていたがどうやら袋は有料化されていないらしい。
店を出て店員の視線が消える。
「あ、トイレあっちにあるしそこで着替えよ!」
「あ、はい」
レオさんの提案で店のすぐ近くにあるトイレに向かう。
「あ、そうだ。折角だし見せ合いっこしない?」
「え、見せ合いっこ?」
(なんだその可愛い単語は!?)
「うん! リン先に着替えてきて!」
俺は背中を押されトイレに向かう。ちなみにこのトイレはショッピングモールによくある、ひとつの通路を真っ直ぐ進んで奥で男・女に分かれているパターンだ。
俺は男子トイレの大部屋に入り着替える。今まで着ていたパーカーも本当は捨てたいが今は袋にしまっておく。
そして、そのままトイレから出て行き、一応手を洗う。その時に自分の姿をチェック。
(やっぱ俺ってかっこよくね?)
一瞬の決め顔。後ろに人がいることに気づきさっとどく。羞恥に犯されながらもレオさんの元へ向かう
「おお! 良いじゃん!」
「そ、そうすか・・・? はは・・・」
「うん! 良い感じ! 似合ってる! かっこいいよ!」
「お・・・おぅ・・・」
(何コレ。めっちゃ嬉しいんだが!? 照れる! これは照れますぞ!)
「じゃあ次は僕が着替えてくるね! リンはここで待っててー」
そういうとレオさんはトイレの通路に入っていく。俺は言われたまますぐに外の壁にもたれつつレオさんを待つ。そういえばレオさんがどんなパーカーを買ったのか見ていない。ドキドキする。期待に胸が阿波踊りだ。
そして想像にニヤけつつ、ボーッと待つ。
(てか俺今デートしてんのか・・・)
先程と違って実感が湧かない。慣れてしまったのか、俺の気持ちが限界を超えてしまったのか。賢者タイムに似た虚無の時間。
「お待たせ!」
ぱっと声のした方向を見る。するとそこには天使がいた。白いパーカーを着た天使が。
「どう?」
「あっそのっ似合ってます!」
見惚れた。
「ふふふっ。これでお揃いだね!」
「えっ?」
と、そのパーカーをよく見てみる。正面には見たことのある筆記体英語。そしてレオさんがくるりと回って見えたのはこれまた見たことあるデフォルメキャラ。
(まさか・・・)
「お揃ろっち・・・」
「あれ、嫌だった・・・?」
「い、いえいえ! とんでもない!」
「ふふっ。なら良かった!」
(おいおいマジか! お揃ろっちだと!? カップルかよ!!!)
レオさんは相変わらずのオーバーサイズだが、やはりそれが至高の極みだ。
「あ、折角だし写真取ろ!」
「えっ」
そしてレオさんはこちらに寄ってきてスマホを構える。内向きカメラ。
(近い近い近い!)
俺は目線を頑張ってスマホに固定する。しかし鼻を支配するのは流れてくる良い香り。新品の服ならではの香りにも合っている。そして顔全体を緩ませるのは頬に当たっている綺麗な水色の髪。体を硬直させるのは少し当たっているレオさんのピース。
「笑って~はい、チーズ!」
パシャッ
俺も一応のピースを添えて。
「いいね! ほら見て!」
「こ、これは・・・」
俺の顔がまぁ何ともいえない表情に。ブレているわけでもなく、不細工に移っているわけでもなくかっこよくもない。
(笑いものにすらならない俺はなんなんだ・・・)
そして流石と言えば良いのか、レオさんは元の可愛さを120%引き出している。この画像で俺は一生飯を食えるかもしれない。
「これトプ画にしていい?」
「え、まぁいいですけど・・・」
この世界にも当たり前のように「LI○E」のようなものが存在しているのか。だが今更驚かない。もうここはほぼ地球だと思ってしまっているから。
(え、てか)
「今変えちゃって良いんですか?」
「ん?」
「ほら・・・友達とかとも連絡取ってないって・・・」
「あ、そうだった! 危ない危ない・・・」
レオさんは凄まじい速度の指操作でスマホを操る。
(流石・・・JK・・・)
忘れてはいけない。彼女もまた俺と同じ年だということを。
(あれ?)
気づいた。最初は年下だと思っていたが、今は明らかにレオさんの方が年上だと錯覚していることを。
(え、俺の存在って何なんだ・・・)
自分に悲しくなる。
「で、リン~」
「は、はい?」
「この後どうする~?」
(この・・・後・・・)
そうだ。こんなこと考えてる場合じゃない。今俺達は追われる身なんだ。
と、わりかし重要なことを今更思い出す。デートに夢中になり過ぎていた。
「と、とりあえず今って何時くらいですか?」
「今はね・・・」
スマホを見る。
「5時12分だね。そろそろ泊まるところ探す?」
「う~ん・・・」
(確かにその方が安全かもな・・・)
ぶっちゃけホテル行きたい。・・・ちな下心はない。決して。
「まぁどっちにしろ車には乗らないといけないし、一旦ここでよっか」
「そうですね」
二人で出口に向かい歩き出す。今度は柔らかい手でなく、パーカーが入った袋がぶら下がっている。俺には彼女の空いている手を埋める覚悟も勇気もない。結構使い古した枕くらい凹む。
そして先程の会話に俺は必要なかったと、さらに自分の存在価値に悲しくなりながら下りのエスカレーターを降りる俺。バキバキに割れたスマホの画面くらい凹む。
(てか荷物片方持つとか良かったじゃん・・・俺の馬鹿野郎・・・)
俺にデートは早すぎた。空気の抜けたビーチボールくらい凹む。