第7話 命より大事なもの
(え、今のカードだったよな・・・この世界じゃ未成年でもカード使えるのか??)
レオさんは注文を済ませると一度こちらに帰ってくる。
「はいこれ。音が鳴ったら取りに行けるよ」
「お、おお・・・ありがとうございます・・・」
レオさんは呼出機を渡すとオムライス屋の列に並びに行く。そしてまた注文の際にカードを機械に翳し呼出機をもらうと、こちらに戻ってくる。
「僕オムライス久々に食べるな~」
(カードねぇ・・・妙に発展しやがって・・・)
と、視線は自然とレオさんのカードが眠るポケットへ。
「あ、そういやリンはカードのこと知らないよね?」
「へ? ああ、うん。知りませんね」
(察しがいいな・・・アニメっぽい)
すると、レオさんは財布からカードを取り出す。
「見てみる?」
「じゃ、じゃあ拝見させて頂きます・・・」
カードを受け取る。こういう時に指が触れたりしないのも、現実という場所のクソな点だ。
(は? ・・・何だコレ・・・)
そのカードは言うなれば、「何の変哲もないカード」。色は少し銀っぽい。けど、普通に軽いし薄い。地球にあったクレジットカードみたいな大きさ。しかし、文字や柄は一切ない。少し輝いているように見えるだけである。
(ただの反射か)
もし、先程言ったクレジットカード的なものとすれば、何も書かれていないなんておかしいし変だ。本当になんだコレカードである。
ここは異世界なのだから多少変でもいいとは思う。実際変なものはあったりしたし。スマホとか地球とは違かった。だが、何故か気になる。先程からこのカードを知りたいと本能が叫んでいる。
(なーんてな・・・ただの興味か)
「結局何なんですかこのカード?」
そう聞きつつカードを返す。今回も指は触れない。
「う~ん・・・まぁ僕もよくわからないんだけどね?」
「え~」
(何だそれ可愛いな)
ピピッ
「おっ鳴ったじゃん。お先どうぞー」
「あ、じゃあ行ってきます」
呼出機を持ちラーメン屋へ向かう。
(でもこういうのが異世界の常識を知るっていうことなのか? ・・・やべぇわくわくしてきた)
「こちら醤油ラーメン並みです。そちらお預かりします」
「あ、はい・・・」
ラーメン。本当に地球のラーメンだ。醤油の香りが鼻に広がる。
店員に呼出機を渡し、ラーメンを受け取る。ふと隣を見てみると、客のお姉さんがカードで支払いをしていた。
(可愛いな・・・)
クレジットカード的なものだとして、それが15歳で作ることが可能だとすれば俺も是非欲しい。帰ってレオさんに再度詳しく聞いてみることにする。
(まぁ金ないけど・・・)
席に着くと、丁度レオさんもオムライスをもってきたところだった。
「ナイスタイミングだね」
オムライス。本当に地球のオムライスだ。
(おいしそうだけど・・・なんか萎える)
食べたくはないが、「魔物の肉ソテー」的な食べ物が見てみたかった。
「じゃあ早速食べようか。いただきます!」
(礼儀正しくて良い子だ・・・)
当然のように「いただきます」も存在する。
「いただきます・・・ってあれ」
お盆の上に箸がない。唯一レンゲのみが存在する。
(どうやって食べろと?)
「あの、レオさ――」
(はっ!)
俺は気づく。
(まさか!)
目がかっぴらく。
(これが異世界の常識というやつなのかっ!!)
ラーメンを見て、右手を見つめる。
(手で・・・食べる・・・)
流石に緊張する。箸のありがたみを知る。
(でも・・・これがこの世界の普通・・・)
手をラーメンのスープの水面ギリギリに走らせる。
「あれ、どうしたの?」
「え、いえ。あのっ――」
「食べないの? ってお箸ないじゃん! 取ってきてあげる!」
「あっ、ちょっ」
レオさんはそういってスプーンですくったオムライスを置き、行ってしまう。
(あ・・・)
掛けていくレオさんの後ろ姿を見つめる。するとそこに先程ラーメンを頼んでいたお姉さんが麺を啜っている姿が映る。
(箸・・・ありますよね-)
お箸を付け忘れられるのも、いかにも現実って感じがする。この異世界が異世界じゃなさ過ぎて、俺の異世界が壊れていく。
その後、レオさんが取ってきてくれた割り箸をお礼を言いつつ割り、いよいよ麺を掴む。
「ふーふー」
麺を一口分すくい、充分に冷ます。
そしてレオさんの可愛い一口目を眺めつつ、面を口に運ぶ。
(うおっ・・・うまい)
決して「人の金で食う飯」だからではないことを先に言っておく。
すぐさまもう一すくいを口に運ぶ。
(やっぱうめぇ・・・)
フードコートだというのに、しっかりした麺。これが「コシ」かとわからせられる。とてもカップラーメンのレベルじゃない。月とニッポンくらい違う。そしてその麺に絡まったスープにより、醤油の香りが喉を通って体全身に染み渡る。
(異世界っぽくないけど。まぁ・・・飯が美味けりゃいいか)
それからも箸が止まらない。カードのことも聞きたかったが、この食欲には勝てない。ふと正面を見てみると、レオさんが一生懸命口に、とてもおいしそうにオムライスを口に運んでいる。一口食べた後毎回見せる笑顔が可愛い。わかった。美味さの秘訣は女の子だ。
それからは二人とも食事に集中し、会話のないまま二人同時に食べ終える。
「あー食べたー!」
「腹いっぱい・・・」
器などをお店に返却し、席に戻る。
「この後どうする? 早速服見に行く?」
「うーん・・・そうですね・・・」
正直、今はお腹がいっぱいすぎて何も考えられない。
「とりあえずもうちょっと休憩しません?」
「おっけ~」
(スープまで完飲するのはやりすぎた・・・)
多少の後悔をしつつ、とあることを思い出す。
「あっ、そういえばレオさん。あのカードって・・・」
「ん~? ああ、これのこと?」
ポケットから出てきたクレジットカード擬き。反射で銀に輝く真っ白ならぬ真っ銀のカード。白紙ならぬ銀紙。
「それってお金が入ってるんですか?」
「うん。そうだね~まぁお金も入ってるよ」
「お金”も”?」
(やっぱり普通のクレジットカードじゃないのか?)
「うん。正式名称は確か・・・「リブカード」だったっけ?」
「リブカード・・・」
「やっぱりルオンじゃ聞かないよね~。まぁ・・・簡単に言えばロメント大陸に住む人っていう証明書みたいなものだね」
「なるほど・・・」
(さすればロメントってこの大陸の名前だったのね。そしたらもう一つのルオン? ってやつはでかい方の名前か・・・)
あと、リブカードの「リブ」はきっと「live」なのだろう。つまり英語もちゃっかり存在しちゃってるってこと。カタカナがある時点で明白ではあるが。
「でね、これすごいんだよ」
「何がですか?」
「なんかね。僕もよくわからないんだけど、色んな事に使えるの!」
「色んなこと?」
「うん。なんか学生割引するときとか~病院行ったときとか~年齢確認するときとか~あと・・・契約するときとか!」
「魔法少女に?」
「は?」
「いえ・・・何でも・・・」
(何言ってんだ・・・)
返答で「は?」は一番キツい。
「で、え~っと契約って例えば・・・?」
「僕はあんまりしたことないんだけど、普通あのアパートとかに引っ越すときとかはほぼカード一枚でいいらしいよ? 僕は何だか紙を色々書かされたけど・・・」
(カード一枚? そりゃすごいけど・・・)
「つまり・・・身分証明書的な?」
「まぁそうだね」
「ほえ~・・・」
「実は車乗ったときにも使ってたんだよ?」
「え!? 気づかなかった・・・」
(でも証明書か・・・にしては情報量すくなくね? てかなくね?)
先程も言ったとおり、カードには何も書かれていない。もしかするとあのカードには電子的な情報が書き込まれていてそれを機械で読み取ったりしているのかもしれない。
(マジか。本当にクレジットカードと身分証明書が合体してんじゃん・・・)
地球では最近スマホでお金を払うことが珍しくない。でも、この年でカードが作れればそもそもスマホ払いは流行らないのかもしれない。実際にはあるかは知らないが、カード一枚で解決できるのならそれに越したことはない。
「あ、でも残高とかどうやって見るんですか?」
「ああ、それならスマホのアプリで翳せば見れるよ」
(わーお・・・)
クレジットカードとはまたちょっと違うが、キャッシュレスという観点で見ればすごく優秀。そしてよく考えてみればこの世界には自家用車はないわけで、故に運転免許書もきっと存在しない。ということは身分証明書としてもこのカードはすごく優秀。よって、本当にこのカード一枚あればある程度のことは出来る万能カードだということが確定した。必需品度でいえばスマホとタメを張る。いや、それ以上。ほぼ命。
(でもこれ・・・)
「なくなったり盗まれたりしたらヤバくないですか?」
命の危機。ある程度の事が出来なくなる。
「う~ん・・・そこらへんは多分上手く出来てるらしいよ?」
(まぁ・・・そうか・・・)
で、そこまで聞いて、めちゃめちゃ欲しくなった。しかし、証明書ということは発行の際に今現在の情報が必要なわけで・・・。
「そのカードって作るの面倒くさかったりします?」
「う~ん難しいのかな・・・? 僕もあんまり覚えてないや。面倒くさいと言ったら年に一回役所に行って更新しなきゃだからそれがめんどくさいかな?」
「へ~なるほど。じゃあレオさんはいつくらいに作ったんですか?」
「二ヶ月くらいだったかな?」
「へ?」
(二ヶ月前ってこと?)
「ん? ああ、ロメントに生まれた人はね、全員生まれて一年以内に創らないといけないんだよ。だから僕が作ったのは生後二ヶ月くらいの時ね」
「あ~あ・・・えっ!?」
(早すぎでは?)
「まぁ赤ん坊で作れるくらいだし簡単なんじゃない?」
「それは・・・確かに・・・」
(しかしだな・・・)
「この大陸に生まれた人は本当に全員持ってるんですか?」
「そうだと思うよ。まぁこの大陸で生まれたとしてもルオンに行く人とかは持たなくてもいいけどね。というか回収されたはずだよ?」
(そこまでするのか? ・・・まぁ個人情報だしな)
「後は・・・この大陸に引っ越してきた人とかは逆にすぐ発行しないといけなかった気がするよ? 旅行とか観光の人達は作らなくてもいいはずだけど・・・」
「え・・・じゃあ俺は一体・・・」
「う~んと・・・ここに来たのは飛行機? 船?」
「えっ!? ええっと・・・」
(まずい!)
「ええ~・・・飛行機・・・・・・だったかな~・・・?」
転移直後に見た飛行機が脳裏に浮かぶ。
「僕も詳しくは知らないんだけど・・・空港に着いたとき何か案内されなかった?」
「され・・・なかったかな~・・・?」
「そっか・・・」
(うぐっ)
やはり騙しているみたいで胸が痛い。
「だったら僕もよくわかんないや。ごめんね」
「い、いえいえ・・・そりゃあねー」
これ以上この会話を続けるのは俺がもたない。それにリブカードは無理して取る物でもない。ここはカードしか使えないわけじゃない。現金だってあるし、契約等の時も紙が使えるらしいし。
「あ、そうだ。あとね・・・」
「?」
「何か犯罪犯した時とかも履歴残るんだって」
「え、マジか・・・」
するつもりはないが。
「うん。この前テレビで万引きしてカードにその履歴を追加された男の人いたんだけど、更正してから数年後だったかな? 高級なレストランに入れなくて泣いてた」
「え、それってどうしても消えないんですか?」
「一生消えないらしいよ」
「おお、それは・・・」
俺の頭に入っている数少ない諺。「覆水盆に返らず」ではないか。
(気を付けるに越したことはないな)
と、話しているところで満腹感も徐々に消えてきた。
「そろそろ行きます?」
「そうだね。行こっか」
席を立ち、ちゃんとイスを直してから歩き出す。紙コップをゴミ箱に捨てつつ、案内されるしかない俺は一歩後ろを歩く。
「じゃあどのお店から回ろっか?」
レオさんが振り向いて聞いてくる。
「可愛い・・・」
「え?」
純粋な疑問顔。
「あ! いえ! その・・・パーカー! そのパーカー可愛いなって! ほら、僕パーカー好きなんで!」
「へーそうなんだ。僕もパーカー好きだよ~」
咄嗟の誤魔化し。実際上手くいったかどうかはわからないが、この微妙な感じがアニメっぽい・・・。
「あ、じゃあ良いお店知ってるから行こっか!」
「ふー・・・」
(とりあえずは上手くいっ――)
と、レオさんは突然右手を握ってくる。
「えっ!?」
「着いてきてっ!」
わけもわからず着いて歩く。相変わらず後ろを歩くのは変わりない。
(でも・・・)
二人してショッピングモールの通路を手を繋いで歩く。
(これは・・・)
妄想ではなく、現実。
(まさに・・・)
アニメ等のイベントには必須。
(デ、デデデデデ、デデデデデデデデデ、デェェェェェェェェエエエエエエェェェェエェェェェエェェーーーーーーーーーーートオオオオオオオオオオオォォォォォオォォオオォオォ!!!!!!)