第2話 ヒロイン? 登場イベント
「なんでだよっ!」
(地球じゃねぇか馬鹿野郎! 都会あんじゃん馬鹿野郎! 異世界とか言ったのどこのどいつだ馬鹿野郎!)
絶賛膝から崩れ落ちた後地面に拳を叩き付けている。
「ああ・・・もうやだ。まじでしょうもない」
人間。上げられてから落とされる方が断然辛い。
人生一の希望が、絶望に変わった。こんなことなら妄想のままで良かった。
(なんだよ。じゃあ本当にここまで吹っ飛んだってのか? てかそれにしてもここどこだよ! 俺は死んだのか? どうなんだ神様ー!!!)
少しでも発散しようと髪をぐしゃぐしゃにする。
「あーもうやってらんねぇ!」
(こんな仕打ちあるかよ!? 車に轢かれたんだぞ!? 滅茶苦茶痛かったんだぞ!? いいじゃん異世界くらい飛ばしてくれたって!)
草をむしっては投げ捨て、またむしる。
(走馬灯すら流れなかったんだぞ!? しょうもない人生だってか!? だったら手が滑ってでも送るべきだろ!!!)
「うえっ」
あの時の事を思い出すと少し気分が悪くなる。自分の体から色々なものが出ていく感覚。
「くっそ・・・」
すぐさま愚痴に集中することにする。吐き気なんかに今の気持ちは止められない。
(あ~っと・・・あとは・・・なんだ? ・・・あ、そうそう)
「真っ昼間に事故するのもないわ。雰囲気でねぇよ」
(しかも相手カップルだったし。どんだけ運命は残酷なんだよ。幸せ者が不幸者を殺すなよ。貴族か! ・・・まぁ死んではないらしいけど)
「あーマジで。ホント気分悪い」
グ~ギュルルル~
「・・・・・・」
(・・・おい腹の虫。そういやお前、意識なくなる瞬間も鳴いてたな)
「・・・・・・」
正直、あの時回りに誰もいなくて良かったのではないかと思ってしまった。あの展開は所謂「ダサいの究極系」なのではなかろうか。
(死にそうになった時すら上手くいかないって何なんだよ・・・あぁもういっそのことあの崖から飛び降りたい)
などと思ってはいても、実際は怖くて出来ないのは明白である。
(はぁ・・・ったく。なんでこんなことになるんだよ・・・)
「これだから・・・」
ムキュッムキュッムキュッ
「っ?」
(この音は・・・)
聞き慣れないがすぐにわかった。これは芝生を歩く音である。そして正面から聞こえるそれに、顔を向ける。
そして衝撃が走った。雷に打たれたなんてもんじゃない。アニメ冒頭でヒロインが死ぬくらいの衝撃だ。
「・・・だ、大丈夫? 危ないよ、そこ」
7月の蝉の大合唱の最中、一人奏でる風鈴のように澄んだ声。それは耳から伝わり、脳で何度も木霊する。
そんな中、俺は彼女をじっと見つめる。
「・・・・・・」
「あの・・・」
「はっ!」
少しして止まっていた世界は再び動き出し、握っていた草が風に舞って海へと走る。
「大丈夫?」
「えっ! ・・・あ、はい!」
「あ、ならよかった。ははは」
「あはは・・・」
己の口が勝手に発する無意識下の会話。俺に言葉を選んでいる暇はない。何故なら――
(めっちゃ可愛いーーー!!! 美少女キターーー!!!)
思考がこの言葉で埋め尽くされているのだから。
年齢・身長共に俺と同程度かそれ以下。オーバーサイズのパーカーを着ており、顔はフードでよく見えないが、100%可愛いのはわかる。声でわかる。絶対めっちゃかわいい女の子だ。
そしてそんな女の子が俺に話しかけてくれている。ドキドキせずにはいられない。いさせない。
ただ一つ問題点があるとすれば、それはこのシチュエーションである。俺がorz状態で彼女を見上げているこのシチュエーションには多少の問題が窺える。
が、今はそんなことどうでも良い。俺は今この瞬間を最大限に生かさなければならない。こんなチャンス、俺には二度とあるはずないのだから。
(男なら・やらねばならん・今ここで)
俺はさっと立ち上がる。やはり身長は同じくらいだった。少し服をはたいてから会話を始める。
人との会話は苦手ではない。自分から話すのは得意ではないが、人から話しかけられれば話せる。
「えっと・・・あの・・・その・・・」
「ん?」
「あ・・・えと・・・その・・・・・・なんかごめんなさい」
「え?」
(って、いきなり何謝ってんだ俺ー!)
急展開故の空回り。プラス同年代女子との会話は実に数年ぶりであることを思い出す。
「えっと・・・何が?」
「あ、あのー・・・ほら。なんか俺みたいなゴミに声かけさせてしまって申し訳ないというか・・・」
「ゴミ・・・なの?」
ゴミである。
わかりやすく一歩引かれた。
「ほ、ほら。真っ昼間からorzで草むしって独り言言ってるようなやつだし・・・」
「確かに・・・」
(納得されちゃったー! まずい! イメージアップに努めろ俺!)
しかしそれでも先程の姿を見られてはゴミ以外に言い様がない。
故にいくら考えても出てくるのはゴミ以外の何物でもなかった。
「ゴミ・・・です。俺は・・・ははは」
「そ、それは・・・」
「・・・・・・」
「あはは・・・」
頑張って否定しようとしてくれてはいるのだろうが、待っていても言葉は出てこない。わかるのは、影から少しだけ見える苦笑いも可愛いというということだ。
(でも、そうか。俺が人と会話をしない理由がわかった。変な空気になるからだ。そんでもってその空気を変えようと相手に気を遣わせてしまうからだ。あぁもう完全に思い出した)
「ま、まぁここであったのも何かの縁だし、名前聞いても良い?」
(おぉ・・・何たる慈悲深さ・・・ユーアーゴットだ)
「お、俺の名前は・・・リンタ。リンタだ」
名字は個人的に嫌いなので言わないでおく。
「そっか。リンタか。よろしくね!」
男とは、異性に名前を呼ばれるだけで生を満足してしまう。何と素晴らしい生き物なのだろうか。
「え、えと・・・君の名前は?」
「僕? 僕の名前は・・・」
(え、唐突にボクっ娘キター!)
なんて感想も気にせずに目の前の女の子はフードを取る。
「僕の名前はフューレオ。フューレオ・ファクト・エイストーナー。よろしくね」
「・・・oh・・・my・・・god」
その言葉を最後に、ここで思考は一時停止。再起動までは数分かかる。
フードを取りふわっと現れた長い髪から覗くその顔は、今まで画面上でも見たことのない程の美しい。全てのパーツがこれでもかと言うほどに整っており、どんな女優もアイドルも言葉通り顔負けする。彼女が笑えば、きっと世界は平和になる。皆を照らす元気な笑顔。
そんな彼女をあえて言葉に置き換えるなら、それは「二次元からやってきた美少女」である。
「あれ、また止まっちゃった。大丈夫?」
そう。今の思考停止はこれが原因である。この症状は俺の辞書に先程追加された。それつまり、「何コレ二次元」状態である。
あまりにも二次元を求めてしまうが故、いざ二次元っぽいことが起きると思考が回りに回り続け、ある一定を越えてしまうと制御できなくなり完全に停止してしまう現象だ。
「おーい」
俺はここに二次元を感じている。
上げられて落とされるのはかなりきつい。だがしかし、その逆はどうだろうか。実際に俺も感じている。下げられてから上げられるのは最高に良い。
「ねぇてっば」
「はっ」
肩にふわりと美少女の手の感覚。彼女は故障すら一瞬で直してしまう女神でもあるのか。
「本当に大丈夫?」
「あ、あぁ・・・大丈夫だ。問題ない」
「ならいいんだけど・・・」
目を覚ませと風で髪が靡く。それは彼女も同様で、その空と同じ色をしている美しく長い髪を風の吹くままに遊ばせている。そして、その中でも微笑みながら向けてくる瞳もまた空と同じ色をしている。
そう。腰まで伸びている空色の髪に、丸くて輝く空色の瞳。それに加えて先程彼女が口にした自身の名前。もうこれ以上はいらないであろう。
つまりここは、異世界である。
(ビル? 都会? 知らない。地球? 知らない。ここは異世界だ。ここが異世界だ。彼女がいるこの世界こそが、二次元なんだ!)
気分は高揚する。しかし何故だろう。先程より実感が湧かない。また「もしも」のことがあるとでもどこか、脳内のゴキブリが住んでいそうな暗闇ででも思っているのだろうか。
どちらにせよこれ以上深いことは考えず、不要な思考は捨てることにする。だって、目の前の少女が可愛いことには変わりはないのだから。
「ありがとう」
出会えたことに感謝感謝。
「? なに? また唐突に」
「ふっ・・・なんでもないさ」
「は?」
(あ、やべ。恥ずい。調子乗った)
「な、なんでもない・・・忘れてくれ」
「う、うん・・・」
(と、ここで異世界が確定したわけだが、如何せん情報が少ない。彼女からもっと色んな事を聞き出さないと)
「そういえば・・・なんて呼んだらいいのかな? フューレオさん・・・だっけ?」
「そうだよ~。う~んっと・・・皆からはフューちゃんだったりレオくんだったり呼ばれてるよ?」
(「くん」呼び!? キャー素敵!!)
「コホンッ! えっとそうだな・・・なるほどね。だったらレオ・・・」
(「ちゃん」か? 「ちゃん」なのか?? そんないきなり親しくして良いのか??)
「リンの好きなように呼んで良いよ~」
(「リン」だとー! 初めて言われたよその呼び方ー! めっちゃいいじゃん!! マジ天使!!)
「じゃ、じゃあ! レオ・・・」
「ん?」
「レオ・・・・・・さん、で」
「いいよ~ん」
(くそっ! 俺の意気地なしっ!)
「そういやリンっていくつ?」
「え? えっと・・・今年で16になるけど」
「えー! 同い年だったんだ! 僕より下だと思ってたー!」
「うぐっ」
俺に会心のダメージ。
(それは身長的な話ですよね。そうですよね。俺でもそう思うからレオさんは悪くないですよ。ははは・・・)
それでも何とか耐えて、早速情報収集に移る。
「そ、それでさ」
「なに?」
「ここってどこだかわかる?」
「ここ?」
場所の把握。知っている地名が出てこないことを祈る。
「ここは普通に第四公園の裏だよ?」
(・・・そりゃまたどこにでもありそうな名前だな)
次の質問。
「えっと・・・じゃあ今日って何年何月何日かわかる?」
「えっとね・・・今日は確か・・・ちょっと待ってね」
そういうと彼女はポケットからスマホを取り出す。
(くそ・・・ここは異世界だ。異世界・・・ここは異世界だ・・・)
「カレンダーカレンダー。・・・えっと、あ。もう7日だったんだ」
「ん?」
「あ、ごめんね。こっちの話。・・・で、今日は283年の6月7日だね」
「キターーー!!!」
「うわっ! 何!?」
「ご、ごめん・・・」
「びっくりしたー。急に大声出さないでよ・・・」
6月7日。これ自体は地球と同じだ。昨日は6日で誕生日のアニメキャラを祝った記憶がある。ただ、その前に出てきた283年。俺の記憶にそんな数字の羅列はない。
(ぐへへ・・・)
「?」
おっと。これ以上キモチわるくならないように次の質問――
「ねぇ」
「えっ! なに?」
「さっきからその質問何? 何かおかしいよ?」
「おかしい・・・ですかね?」
確かに質問がストレートすぎたことは認める。
(でも、あれ・・・主人公達どうやって情報集めてたっけ・・・?)
「どうしたの?」
「いや~・・・」
(あれ、これやばいな。素直に異世界から来たっぽいので色々と教えてくれませんか、とかこの命がある限り言わないし・・・一体どうすれば・・・)
「あ、もしかして・・・」
「え?」
(まさかバレたか!?)
可能性はある。異世界といえど、スマホのある世界。アニメ文化があってもおかしくはない!
(非常にまずい! まずいぞ! 初日にバレるなんて恥ずかしすぎるぞ!)
「もしかしてリンって・・・」
(言葉放たれた瞬間全力否定だ! 一切思い込ませるな!)
「所謂・・・」
「・・・・・・」
「記憶喪失ってやつ?」
「いやちがう! 俺は! ・・・は?」
「え? 違うの?」
(そっちパターンかーーー)
「だってテレビとかでよくあるじゃん。ここはどこ? 私は誰? ってやつ。あ、でもリンは自分の事わかってるもんね。じゃあ違うのか・・・」
「お、おう・・・」
(あ、危ねぇ・・・)
ある意味普通の子でよかった。
(けど、それならそれで記憶喪失設定のままでいけばよかったな・・・こりゃ下手こいた)
しかし、俺の知識ボックスの中にはもう一つの言い訳パターンが存在している。
それに、俺自身演じるのは得意な部類だ。なぜなら、そこらにいる人々の数千倍イメージトレーニングを積んでいるからだ。よって冷静に設定を作り上げつつ、そんな俺を彼女に伝える。
「えっと・・・記憶喪失じゃないんだけど、その・・・俺今まで遠くに住んでて、ここらへんには最近来てさ。あんまり詳しくないんだ」
異世界辻褄合わせテンプレ語録2p4行目。通称「遠くから来た」。
「へ~そうだったんだ。納得納得~」
(ってあれ? これじゃあ日付聞いたこと誤魔化せてなくね?)
「変なこと言ってごめんね?」
「と、とんでもない・・・」
(ま、まぁ気づいてないしいっか)
「あれ? それじゃあスマホとかはもってないの?」
「え~っと、忘れてきちゃって・・・」
「そうなんだ。携帯は常に携帯しておくべきだよ?」
「ごもっともで・・・」
「でも珍しいね。今の時期に来るなんて。旅行? それとも引っ越してきたの?」
「う~んっと・・・」
(どう答えるべきか・・・う~む。でも今後のことも考えると、多少変でもこういうべきだな)
「非常に言い辛いんだけど・・・その・・・家出・・・的な?」
「お~自分探しだ」
「ま、まぁね・・・」
意外となんてことなかった。
「へ~そっか~そうだったんだ。なんか色々と大変そうだね~」
完璧な他人事。ありがたいが、ちょっと寂しい。
(これが害悪かまってちゃんってやつか)
「それじゃあリンはどこから来たの? もしかしてルオンからだったりして」
「る、るおん? え、えっと・・・そ、そう! ルオンから来たんだ!」
聞き慣れない地名。テンションだけが上がり、一体全体どこだか全く見当も付かない状態。であるが、とりあえずそういうことにしておく。
「え!? そうなの!? すごーい! 海を渡った家出なんて聞いたことないよー!」
「え? だ、だろ?」
(ルオンって別の大陸なのかよ! 家出で海外へなんて俺だって聞いたことねぇよ!)
「へ~でもそうなんだー。でもそれだと本当に大変だね。ルオンの街はロメントとは大分違うって聞くし」
「ははは・・・確かに~」
(地球とは酷似してるけどな。てか「ろめんと」? ってどこ?)
「じゃあ今はどこに住んでるの?」
「え~っと・・・」
ボロは必ず出る。だからこそ言葉を慎重に選ぶ。
「それが・・・ここには今日来たばっかでさ。泊まる場所なくて・・・」
(あわよくば、美少女のお家に・・・)
「あれ? じゃあスマホ実家に忘れてきたってこと?」
「えっ! ああ! うん!」
咄嗟に肯定。俺に国を跨ぐドジっ子属性が追加された。
「ははは。何それ~」
(あ、危ねぇー・・・)
「じゃあ近くのホテル調べてみるね。できるだけ安いとこの方がいいよね?」
(そうだな。ポケットは空だし出来れば無一文で泊まれるとこがいい)
「あ、ああうん。・・・それで頼むよ。ありがとう」
「いえいえ~」
(てか女の子にホテル調べてもらうって何か興奮するな)
これが童貞思考。
(って、そうじゃなくて)
「あ、あの・・・俺も地図見てみていいかな?」
「ん? いいよー・・・あっちょいまち」
レオさんは少しスマホを弄ってから渡してくる。
(できるなら一緒に近くで見たかった・・・)
俺は若干悲しくなりつつスマホを手に取る。
美少女使用中のスマホ。俺は決してこの経験を忘れない。
「って、軽」
(スマホ軽すぎね? てか薄い。穴も少ない。・・・何だコレ。IP○neでもなれけばAndr○idでもない・・・これが異世界か・・・)
思ってたのとは違った感動に浸りつつ、地図を見てみる。
見た感じは本当にGo○leM○pそのものだった。操作感も全く同じ。というか若干こちらの方が使いやすいまである。
地図を最大限最小化すると上に大きな大陸、下にそれの半分にギリギリ満たない程度の大陸が出てくる。
(小陸か)
そしてピンはその小陸に突き刺さっており、ピンを拡大すると「スリース」というこの街の名前らしきものがでてきて、さらに拡大すると第四公園とでてきた。実際にピンが刺さっている場所は少し違うが、ここが第四公園の敷地内であることは間違いないのであろう。
(てか、本当に地球じゃないんだな・・・)
今更ながら実感が湧いてくる。明らかに地球には存在しない場所。小学校の頃、地図帳が愛読書だった俺にとってはすぐにわかった。
(だったら・・・俺は本当に転移したんだ・・・)
先程までとは全く違う感じたことのない気持ち。あの事故をきっかけにこの世界に転移した。でも、だとするならば俺は一度死んだことになる。
「う~ん・・・」
(ま、それはどうでもいっか。死んで異世界に行けるなら命なんて惜しくないし)
徐々に最後まで残ってしまっていた不安が消え去っていく。暗闇は晴れ、心は明かりを取り戻す。
(あと、一つ問題があるとすれば普通に日本語で話してることだけど・・・まぁそれは考えない方向で)
ご都合主義万歳。
「どう? どっか良い場所あった?」
(げっまずい!)
咄嗟に検索バーに「ホテル」と打ち込み、検索する。その後すぐにスマホを返す。
「と、特になかったかなー・・・」
「そっか~。まぁ僕もこの街に来て長いけどホテルはそんなに知らないからね~」
そんな彼女は頬に手を当てスマホを眺める。さっきから一つ一つの仕草がマジで可愛い。何なんだこの生物は。と、そこで気がつく。
(てかこれが異世界転移なら始めに出会った子はヒロインになるって話だけど・・・マジで? この子が俺のヒロインになるの!?・・・え!? マジで!? いいの!? いいのか!?)
「うへへっ」
「ん? どしたの?」
「い、いや・・・何も?」
咄嗟に顔を背け、ニヤついた口元を手で隠す。
(いかんいかん。俺は普通にしているだけでいい。あとは時間が勝手にやってくれるさ。・・・へへっ)
自分からはいかない。世の主人公達も自分からはいっていない。ただ存在しているだけでモテているのだから、俺もそれを見習うべきだ。
「ふっ」
地球と酷似した異世界。果たしてこんな世界に魔法やファンタジーがあるのだろうか。
それらはまだわからないが、正直そこまでは望まない。俺はただ、ヒロインがいるだけでも満足してしまうから。
俺のリアルは変わった。彼女が変えてくれた。きっとこの先は今までの分を取り戻すほど濃い時間がやってくるのであろう。
(ならば! 俺は全力で楽しもうではないか! この先の人生を!)
そう意気込んで、海に向かって叫ぶ。
「やってやるーーー!!!」
「ちょいちょいどしたん!?」
「はっ」
またやってしまった。
(おい俺よ。心に刻め、「厨二乙」)
「リンって急に大声出す人?」
「いや~ちょっと気持ちが爆発しちゃって・・・」
「そう・・・なんだ・・・」
明らかに引かれた。車にもひかれ、彼女にも三回もひかれた俺。
「ははは・・・」
わざとらしく頭を掻きつつ苦笑い。と、ここで手の感触で気づく。
(あ、タグ。これバレたらシャレにならんな。後で処分処分。覚えとけよ未来の俺)
危ない。こういった細かいところを気を付けなければならない。どうせ後で色んな問題に発展する。主人公の自覚を持つのだよ俺。
(っと、そういや序盤のヒロインってよく問題抱えてるよな。もしかしてレオさんも何か・・・)
「ん? どしたの?」
「ああ・・・いや・・・」
(問題・・・抱えてるようには見えないな。ずっと元気だし。ここは何かバシッと解決したかったけど・・・ま、何もないなら何もないのが一番だし。ならそれなりに会話を広げるしかないか)
「ねぇレオさん」
「ん?」
「レオさんはなんで声かけてくれたの?」
「ははは。そりゃあこんなところであんな感じだったら心配にもなるでしょ~」
「あ~確かにね。ははは・・・」
俺だったら無視してた。誰だって見て見ぬ振りが妥当だろう。
「まぁ元々ここには来るつもりだったし。まさか最後に先客がいるとは思わなかったけどね」
「え? ここに? そりゃまたなんで?」
(散歩とか? 確かに潮風気持ちいいし、気分転換とかには丁度良いかも)
「ん? そりゃあもちろん」
そういってレオさんはスマホをポケットにしまい、俺の横を通り過ぎるつつ、崖の方に歩き出す。
向かい風に吹かれ暴れる髪が見せるその背中を、俺は頭にクエスチョンマークを浮かべながら見つめる。
レオさんは崖の手前1メートル程でその歩みを止め、振り返る。そしてこちらにニコリと、いたずらっぽい笑みを向ける。
一撃必殺。
(え? 何? マジで好きなんですけど)
少ししてから、潮風に乗ったその言葉が俺の耳に届く。
「飛び降りようと思って」
「へ~・・・・・・え?・・・・・・・・・は?」