表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これだから現実は・・・  作者: スクラップポテト
異世界転移編
2/35

第1話 異世界転移

 現実リアルはクソだ。

 昼の12時を回った6月の土曜日。現在学校からの帰宅途中。

 

(土曜授業? バカ野郎。それは昨日見たアニメの話だ)


「はぁ・・・」


(妄想から現実に戻ったこの瞬間が一番嫌いだ。これからまた生きるのがしんどくなる)


 高校に入れば何か変わると思っていた。ありきたりだが期待していた。今までの人生が一瞬でひっくり返るような、何かそんなことが起きると思っていた。けど、それ自体が既に妄想だった。

 高校自体至って普通の公立校だし、生徒会が権力を握っているわけでもなく、変な部活もない。屋上も開いてなければ、やたらと転校生も来ない。


(アニメだったら入学から二ヶ月も経ってるんだから一人は来てたっておかしくないだろ・・・)


 先輩も後輩も幼なじみも、ギャルもツンデレも色んな髪色もツインテもいない。辛うじてポニテは存在するが、その髪はあまりにも短い。せめて腰まで伸ばしてほしいものだ。


(あとは・・・えっと・・・・・・あっそうそう)

 

 理事長の娘もいない。外国人美少女もいない。


(てか美少女って存在するのか? 画面以外じゃ見たことないぞ? ・・・っじゃなくて、あと)


 女友達もいない。もちろん男友達もいない。運命の出会いなんてのも今までなかった。というか出会う場所も時もない。うちの学校バイト禁止だし。それに放課後はすぐ帰るし。委員会も何か曖昧だし。部活なんて入ってるわけないし。

 でも、それでもきっとどこかで運命はあって、俺が気づいてないだけだと思ってる。そう未だに期待している。


「ふっ・・・」


 けど俺は主人公とはほど遠い。顔はまぁそこそこだとは思っている。しかし、この前ネットの記事で見た。鏡に映った自分と他人から見た自分は違うという。真偽はわからないが、俺が一度も告白イベントを経験していない時点で結果は明らかかもしれない。


(ほんと、読まなきゃ良かった)

 

 それに身長だって高くない。この間の身体測定でようやっと150cmを・・・


(あれ? 越えたんだっけ? えーっと・・・ま、まぁきっと越えたんだ)


 そう。150cmを越えた程だ。

 加えて特段勉強が出来るわけでも運動が出来るわけでもない。嫌いな教科は国語の現代文以外だ。

 家庭事情も全くもって普通で、親が単身赴任とかも一切なく両親と一緒に実家で暮らしている。妹もおらず一人っ子。最近はマジで妹がほしいと思っている。いやガチで。


(でも今の年齢的には結婚できる妹(義理の妹)が無難か。帰ったらいないかな? なーんて。マジでいてくれ)


 と、まぁ結局これだけ聞いても全く面白くもなく何でもない俺。かといってアニメの主人公のように普通すぎでもない。そこにあえて属性を付けるならば、それは「どこにでもいがちな妄想少年」、世にいう「厨二野郎」だ。

 

 突然だが、この世界の裏側では熾烈な銃撃戦が繰り広げられ、そこに特殊な能力をもった子ども達が投入される。その実験体の0号機が俺なのである。失敗作として普通の社会に捨てられた俺は何気ない毎日を過ごしていたが、ある少女との出会いで無理矢理裏の戦争に巻き込まれる。そして普通の人間として生きてきた結果、実験時には現れなかったとある能力が開花する。その力を使って俺は世界を今まで生きてきたような平和なものへと変えていく――

 

 なんて妄想が秒で出てくる。ていうか暇さえあれば勝手に出てくる。


 (うむ。我ながら中々の妄想力だ)


 まぁそんな事思いついたとて、学校じゃ完全にモブなわけだが。いや、もっとそれ以下の「空気」だ。高校に入ってまだ誰とも話していない気がする。最近学校サボってたし。それ故さっきまで補修だったわけだし。

 

(ま、来てたのは俺一人だったけど)


 ブォーーーブォーーーブーーーン


 そんな俺に気がつかなかったのか、カブがすぐ横を通り抜ける。


「あぶねっ」


(マジか。俺ってそんなに空気なのか)

 

 車体に見合わない耳障りな音。普通に近隣の迷惑だと思う。折角人が主人公っぽく自己紹介していたというのに。


(空気に向かって自己紹介って単純に恥ずいな。・・・とりあえず、死なない程度に事故ってくれ)


 そんな他人の不幸を願う俺を見て怒ったのか、太陽が地球の温度を1℃くらい上げた気がする。


「はぁ・・・・・・暑い」


(地球温暖化に貢献しやがってちくしょう)

 

 俺は日差しを避けるようにフード被る。次は半袖パーカー着ていくことに決めた。私服登校は補修の特権だが、長袖は流石に暑かった。

 

(というかまだ6月だぞ? これで大丈夫なのか日本?)


 服探しは面倒くさいので今すぐ地球寒冷化を所望する。


 グ~ギュルルル~


 すかさず腹の虫が鳴く。


(そういや朝飯食べてなかったな。あぁでも帰ったらアイス食べたいな。アニメもみたいし。・・・じゃあ、いっか)


 自動的に昼飯が消えた。

 

(あ、そういえば何か国語の宿題も出てたな。作文だったか? これまた面倒くさいものを寄越しやがってあの教師。ま、飯食ったらやるか)


 つまりやらない。


 「ははは・・・なーんつって。うーんっと・・・」


(作文のお題なんだっけか・・・・・・なんだか妙に気を惹かれたんだよな・・・)


 普段は授業中、外界との通信をシャットダウンしているというのに、今日のこの作文のテーマは不思議と耳に残っていた。


「あ、そうそう」


(「もし才能が個人の能力として定義されたら、あなたの才能は何だと思いますか?」・・・的な感じだったか?)


「ふっ」


(マジ何だよそれ。厨二病かよ。でもま、そだな。書くとすれば・・・・・・)


 俺は既にピンときている。テーマを聞いたときから、頭上にある電球には電流が流れていたのだ。


(俺の才能はずばり! ・・・・・・「魔法の才能」!)


 なーんてことを自分で言葉にはしなくとも、心に思っているだけで恥ずかしい。これが、自覚している系厨二病だ。


「まったく・・・厨二乙だな」


 なんてそれっぽく呟くのも恥を恥で隠しているだけなのだが、これ以上は考えないことにする。今の問題は作文だ。なんとかして今日明日の休みで終わらせないといけない。


(といってもまぁ、適当に教科書からそれっぽい文章抜き出して適当に組み合わせてそれなりのこと書いて終了だな)


 ちなみに提出するとは言っていない。学校に行くとも言ってない。

 

(というかそんなことよりもアニメの続き見たい。昨日は寝る前に1話見ただけだったからな。俺の妄想の限りじゃかなり王道風に仕上げたけど、どうなるかな。俺的には最後まで変にシリアスにならずにこのまま王道突き進んでほしいけど)


 昨日見たアニメ。「俺がニートになった理由ワケ」。前期のアニメの中でもネットの評価が中の下だったやつだ。でも正直これくらいが脳死で見れて丁度良い。王道万歳だ。


「おっ」


 なんてことを考えていると、どこにでもある人通りの少ない曲がり角に差し掛かる。


(そうそう。こんなところを曲がった瞬間にパンを銜えた美少女とぶつかる、もしくはただいるだけでも可!)


 そしてそこから新たな出会いが始まる。ありきたりでも、今までの現実とはまるで違う新たな物語が幕を開けるのだ。

 

(さぁ、待ってろヒロイン!! なーんつって――)


 


 「っ!!??」



 ――それはそこに現れた。




 キキーッ!!

 

 


「うっ!!」



 

 ドンッ!!



 

「ぐぁっ!!」



 

 ガンッ!!



 

 グチャッ!!



 

 ・・・バタンッ!!



 


「・・・・・・あ・・・くっ・・・」



 え。

 何が起こった。

 やばい。

 意識が朦朧とする。

 なんで。

 車。

 力入らない。

 痛い。

 視界ぼやけてる。

 抜けていく。

 何。

 聞こえない。

 誰か。

 轢かれた。

 なぜ。

 マジか。

 急すぎ。

 人。

 出てきた。

 髪長い。

 女性。

 若い。

 驚いてる。

 痛い。

 手。

 濡れてる。

 もう一人。

 何。

 男性。

 カップル。

 爆発しろ。

 痛い。

 霞む。

 車戻った。

 二人とも。

 血。

 冷たい。

 臭い。

 逃げた。

 マジか。

 広がる。

 赤い。

 痛い。

 誰もいない。

 暑い。

 苦しい。

 熱い。

 意識。

 嫌だ。

 寒い。

 恐い。

 寂しい。

 死にたくない。

 意識。

 わからない。

 見えない。

 痛くない。

 怖い。

 孤独。

 嫌だ。

 まだ。

 寂しい。

 一人。

 なんで。

 息。

 感覚。

 真っ黒。

 何も。


 グ~ギュルルル~


「・・・・・・」



 ――――――――



「・・・・・・んっ・・・んん」


(眩・・・しい・・・・・・あれ・・・意識が・・・ある。まだぼーっとするけど・・・息もちゃんと出来てる)


「ん~・・・」


(感覚もある。久々に感じる。・・・気がする。今俺は・・・倒れている? 横になっている感覚・・・)


「ん?」


(草? 芝生? そんな感触・・・柔らかい。何?)


 体が重い。力も上手く伝わらない。


「んんっ? なん・・・だ?」


 ようやっと目も開いた。なんだかよく寝た感覚。


(てか日差し眩しい。あ、これ慣れるのに時間が掛るやつだ)


「ん~・・・」


 (でもこれ一旦立たないと話にならないな)


「よい・・・しょっと」


 立った瞬間に少し蹌踉ける。


(あぶね。まだフラフラするな。脳と神経が上手く噛み合っていないってか?)


 「ふー・・・」


 少し落ち着いたところで正面、視界に移る景色を目の当たりにする。


「で、ここは?」


 見たこともない場所。それもそのはず。


 バシャーン!


 なんせ、目の前に海が見えるのだから。水平線が視界いっぱいに広がっている。


 バシャーン!


(東○か!)


 そんな水しぶきも、ここまでは届かない。


(ますますわけがわからん。なんだよこれ・・・)


 でも場所だけなら知っている。そう。ここは、俗に言うサスペンスドラマの十八番。崖手前30メートルである。ちな名前はまだ無い。


「・・・・・・?」


 と、そこで気がついてしまう。自分で言っておきながら意味が分らないことに。自分自身の発言にではない。重要な方に気がついたのである。それは、何故自分がここにいるのか。


(何? 俺今から飛び降りるの? それとも誰かに押されるの?)


 怖いので振り向きはしない。それでも焦りは徐々にやってくる。これは、何かやらかしたときにやらかした時よりもやらかした後に全部の焦りがくるアレだ。


(監督さん、こういうときは人形使わないと)


 なんて自分の中でどうにか軽く考えても、焦りはくる。まったく見覚えがない場所に動揺している。ただ、唯一の助けは海から吹いてくる潮風。それのおかげで何とか精神が安定している。

 脳は興奮しても、心は至って冷静だ。


「・・・まずは、状況の整理だな。一体・・・何が起こった?」


 なんてことがわかれば焦る必要も無い。故にまずは記憶を探ることにする。

 

(起きる前、確か俺は・・・轢かれたんだっけ)


 それも結構な勢いで。それはもう豪快に。多分10メートル以上は飛んだ。走り幅跳びで記録を狙えるほどに。

 それで当然のように意識がなくなった。100%、確実に死んだ。周りには誰もいなかった。助けなんてなかった。というか逃げられた。今でもムカつく。相手がカップルということで尚更ムカつく。

 ここで出た一つの可能性として、ここまで吹っ飛ばされたなんてバカな考えは放っておく。空でキランッという効果音と共に星になったのなら、今立てているのはおかしい。


(それに地面もこんな芝生じゃなくて明らかにコンクリだったし、割と血も――)


「そうだっ! 血! ・・・って、ない?」


 体にもパーカーにも、血の痕跡らしきものは見当たらない。当然地面も赤く染まっていない。

 ついでに匂いを嗅いみるが、特に変な匂いはしない。


「・・・は? 体も・・・全然痛くない」


 ますますわけがわからない。展開が急すぎる。


「あーやばいやばい。これやばい」


 脳が処理しきれていない感覚。もうすぐ通信制限だ。


「あっスマホ」


 そういえばとポケットを探るが、中身は空。


(あっそういや昨日寝落ちして朝充電しっぱなしだった)

 

 つまり、ますますやばい。やはり携帯は携帯するべきだ。全くもってスマートじゃない。


「どうするよ・・・」


 急に怖くなってきた。不安だ。潮風のバフ効果も切れ、今まで落ち着いていた鼓動が徐々にペースを上げる。


「はぁー・・・・・・一旦。一旦落ち着こう・・・大丈夫だ。大丈夫・・・一旦、落ち着け・・・」


 とりあえず何かを口に出さないと冷静になれない。

 知らない場所で一人きり。何が起こってこうなったのかもまったくわからない。

 わけのわからない状況。謎に謎が重なりすぎているこの現状。

 現実とは到底思えない。まるで、アニメのようなこの・・・・・・


「ん・・・・・・?」


(アニ・・・メの・・・・・・ような?)


「んんっ??」


 思考が段々と広がっていく。記憶の引き出しを開けては閉めて。たまに取り出して組み立てて。崩れたら一旦捨ててまた取ってきて組み立てて。

 巡り巡る。脳すらも越えて全身を駆け巡る。


 「・・・・・・はっ!!!!!!」

 

 そして最終的にそれは、完全かつ完璧な一つの答えを導き出す!


 「こ、こ、こ、こ、こ、こここここここここ、これはーーーーーーーーー!!!!!!」

 

(これはこれはこれはーーー!!!)


 この状況を表すに相応しいにも程がありすぎる単語が一つ。

 

「いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいせ、いせ・・・・・・異世界転生なのではーーー!!!???」


 ザパーンッ!


 悲しいかな。そんな大声も波音に消えていく。


(・・・な、なーんてな~)


「は・・・は・・・・・・ははっ」


(な、なーにを言ってるんだ俺。お、落ち着け。そ、そう興奮するな。・・・な? よーーーく考えてみろ。お前なら分るはずだ。俺の服装は変わってない)


 つまり、そう。これは異世界転生ではない。これは。


(異世界・・・・・・)


「転移だっ!!!!!! どっちにしろきたーーーーーー!!!!!!」


 ドパーンッ!


 やはり波がかっ攫う。


(まさかまさかまさかまさかまさかまさかのまさか!!!!!! ついにきたぜっ!!! 俺の時代がーーー!!!

 これは異世界転移に間違いない!!! だって? 車に轢かれて? あんな絶対に助からない状況で? かっこよくはなかったけど死んで? とりあえず死んだことはどうでもよくて? 目が覚めたら知らない場所で?

 こーーーりゃもう異世界転移しかないね!!! 条件が揃いすぎてる!!! なんだよー簡単な事じゃんかーーー)


「ふへっ・・・ふひひひひ」


(きたきたきたきたきたきたきたきた!!! そうだよ! これだよ求めてたのは!!! やべーめっちゃドキドキするーーー!!!)


「ふひひひひひひひ」


(やばい。笑いが止まらない。ひひひ。なんだよ。少しはやるじゃないか、現実よぉ。

 今まで何もなかったのはこのためだったのか。まったく。サプライズにゃ驚いたが、確かにこれなら今までのことはチャラでもアドだな)


「にひひひ」


(いや~マジ嬉しい。ありがとね。ほんと。現実マジ大好き。マジやるじゃん)


「ほひひ」


(神様も見てますか。ほんとありがとね。もうこれ以上は何も望まないことするですよ。そんで俺これから頑張ります。いや、ほんとほんと。これ以上ないくらい嬉しいよですぜ)


「いひひ」


(あ、そだ。さっき俺を轢いた人はどうか捕まらないようにしてあげてくれー。その人にも感謝感激唐辛子だから。マジで轢いてくれてありがとって伝えてくれるとなおありがてぇです。曲がり角に美少女じゃなくて車がいたのは絶望したけどま、結果良ければすべて良し! だーよね)


「・・・・・・うしっ!」


 ついに。とうとう。ようやく。十五年の月日を経てやってきた。この時が。もう今までのクソみたいな日々とは別れを告げる。


(俺はこれから、剣と魔法のファンタジー世界で戦う!!! 俺が主人公だ!!!)


 世界が若干明るくなった。


(ふふふ。とにかく魔法を使ってみたいな。魔王ってどんな感じなんだろ。俺が授かったギフトは? 使命とかは? てかエルフっていんの? 国王の娘やら、貴族令嬢やらも見てみたいな。というかまずはヒロインだろ。基本的に転移直後に出会うはずだし。・・・ま、考えながら行動するか。ひひっ。これからが楽しみだ!)


 人生で一番のワクワク。この気持ちを越えることが出来るのはきっと、男として卒業するときくらいだろう。


「ふひ」


 俺を祝福するように海猫たちも唄いながら海へと翼をはためかせる。


(えっと、まず最初にするべきことは・・・うん。もちろん! 情報収集だ!)


 異世界初歩の定番であり基本。もし近くに冒険者ギルドなるものがあるなら、100%そこを目指すべきだ。


「ふーー」


 一度大きく深呼吸。肺に吸い込まれる空気が清々しい。海猫たちに続き、風や海など自然全体が俺の旅立ちの瞬間を祝ってくれている。

 それではこちらもそれらに応えるとしよう。


(ふふ。ああ、ぽい。ぽいよこれ。これめちゃくちゃアニメっぽいよ!)


 今までのことなど全部忘れて、踏み出す一歩。

 そこから先は今までに無いようなことばかりであふれる世界。

 今まで褪せていたものたちが、輝きを取り戻す。

 今までとは違う色になったり、混ざり合ったり。

 全てが、何もかもが新しい場所。

 それ故に第二と呼ばれる道。

 これから始まる新しい人生。

 

 新しく始まる―


 俺の―


 ものがた――


 グォーーーーーー


「は?」


 他人の新たなる門出など露知らず、世界に響く大きな音。


(マジなんだよー! すっげぇ悪いタイミングで! 空気が読めないのはどこのどいつだ!!)


 グォーーーーーー


「・・・ん? 上?」


 つられて空を見上げる。そこにある、一つの大きな影。


「・・・あ~」


 それにはちゃんと見覚え(・・・)があった。


「なんだ。飛行機・・・か」


(なんだよ。まったく)


 割と近くを飛んでいるようだ。うるさいのも納得である。

 

(でも珍しいな。近くに空港なんてあったっけか?)


「・・・って、ふふ。おいおい」


(ここは異世界だろ? 空港なんてあるはずないって)


 どうやらまだ地球の感覚が抜けていないらしい。


(ふふ。しょうがないよな。俺だって転移した直後なんだ。地球との区別が付かないのも無理ないぜ。まったく。俺としたことが。まだまだだね)


「はっ・・・」


(もう一度言うが、ここは地球じゃない。異世界だ。剣と魔法の世界なんだ。時代的には中世ヨーロッパくらいなんだから空港なんてあるはずないじゃん)


「はっはっはっ」


 俺はわざと高笑いしながら、改めて空を見上げつつ思う。


(そ・れ・に。ましてや、飛行機なんて・・・)


 突然だが、人間はある時、あるタイミングでとある条件が重なった場合、自身の見ている世界がスローモーションになることがある。


 

 グォーーーーーー


 

「・・・・・・」


 

 グォーーーーーー


 

「・・・・・・」


 

 グォーーーーーー


 

「・・・・・・え?」


 

 グォーーーーーー


 

「・・・・・・」


 

 グォーーーーーー


 

「ひ・・・こう・・・・・・き?」


 

 グォーーーーーー


 

「・・・・・・」


 脳が逆回転を開始する。

 チックタックチックタック。


「い、いやいやいやいやいやいや。まっさかーーー」


(ないないないないないない。だってここは異世界だ! 飛行機なんてあるはずない!)


「は・・・ははは・・・」


 脳は各パーツが故障してでも回転を止めない。


(きっと俺は疲れてるんだ。だって事故に遭ったばっかりだし? もしかすると転移して酔ったのかもしれないし? そもそも違う世界で体がまだ馴染んでないのかもしんないし??)


「はははははー・・・ないないなーい」


 脳は粉々になりながらも初めのスタート位置を捉える。


(えっと、だからそう。つまり・・・えっとー・・・あのー・・・・・・あれは・・・そう! ただの鉄の塊だ! そりゃあんなに大きな鉄の塊が空を飛ぶんならあんな音も出さざるを得ないって!)


 再び空を見上げると、その鉄の塊はいつの間にか彼方へと消えていた。


(うん。そうだ! きっととんでもない強者があの鉄を投げたんだ。鉄いらないからって海に投げ捨てたんだ。間違いない! あーきっと強いやつなんだろうなー。俺も早く強くなって戦ってみたいなー。あーそう思うとこれからが楽しみだなー)


「あはははははは~」


 ちなみに、脳はゴールを過ぎても余力でまだ回っている。


(あーそうだー。折角だし一回そいつ見に行くかー。後ろから飛んできたからきっとそっちに進めば会えるはずだー。ポイ捨ては行けませんよって一言言ってやるか~)


 そして俺は、中学一年最初の体育で習った回れ右を初めてリアルで実行する。


(俺、回れー右! ピーピッ――)


「なっ!!!???」


 目に映る景色。先程の海とは打って変わるそれら。一言で言うなら、それは「圧倒」。

 振り向いた先には芝生の上から生えたたくさんの木々。三本以上あるのでこの時点で森が確定した。


「は・・・・・・はは・・・」


 だが違う。

 森なんて神秘的なもの、インドアの俺からしたら歴代俺的写真集にも掲載されてもおかしくはないのは明白だ。


「・・・・・・」


 つまり、おかしいのである。この光景が。

 願わくば、初手魔王と鉢合わせでも良かったのかもしれない。例えそこで死んだとしてもギリ許せた。それもまた一興であった。

 しかし、目の前の光景はそれ以上に悲惨なものである。


「なんで・・・」


 芝生から生えているのは木々だけではない。それよか木々よりも数十倍の高さをそれらは誇る。

 そのおかげか、太陽が放つ光を自慢の表面積で各方面に反射させる。その中に見えるそれらの色は空の色を輝かせている。流れる雲までもはっきり写す。

 もしかすると、「森」というのは言い得て妙だったのかもしれない。


 そう。それらというのは、所謂「コンクリートジャングル」。つまり都会である。

 中世ヨーロッパ風? 剣と魔法? ファンタジー?

 そんなもの、ここにはあるのだろうか。だってここは。ここは――


 「地球じゃねぇか!!!!!!」


 全てはただの妄想に過ぎなかった――


 現実というのは常に平凡である。マイナスが起きればプラスが起き、プラスが起きればマイナスが起きるゼロサムゲーム。

 理想は理想であり、妄想は妄想である。故に期待も期待のまま終わる。結局何も変わらないず、夢にまで見たそれはすぐに覚め、夢のまま終わる。

 それは例え、異世界に転移したとしても同じ事である。


(やっぱクソだ。違いねぇ。一瞬でも信じた俺がバカだった。あーあ。マジうぜぇ。上げて落とすとかマジでないわ。マジでイライラする。さっさとくたばれよ)


「・・・・・・はぁ」


(ああ、でもそうか。そうだったな。こんなこと言ってたって何にもなんねぇよなぁ。どうにかなってたらこうはならねぇもんなぁ)


 最終的には、全てを許容しなければならない。そうでしか生きていけない。それが例え悪いことであっても、良いことであっても。


「はは・・・」


(・・・ああ・・・くそ・・・・・・ホントに・・・マジで・・・これ以上ないくらい・・・・・・)


 少年は天を仰ぐ。


(まったく・・・)


「これだから現実リアルは・・・」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ