なぜか高校の同期が夢に出てきて、そいつと前の席に座ってた女とパチンコに行く流れになる話
なぜか高校の同期が夢に出てきて、そいつと前の席に座ってた女とパチンコに行く話1
「え~、それでは配っていくので後ろの人に流していってくださ~い」
目の前に流れてきたのはありきたりな茶封筒。既に送り先までご丁寧に書かれている。
俺は『行』の文字にバツを加え、
「どーせ俺らが老人なる頃には無くなってるのにな」
と言いながら『御中』を書き足す。
うちの高校では不思議なことに、三年のうちに年金の口座振替を申請する際に使える茶封筒と、実際に年金を納める目的で使える現金が支給される。もっとも、
「たしかにな」
「もうあの金でスロ行ったほうが良くね?」
そんなのは名目だけのモノである。
「言えてら~」
隣に座っているカルクと笑い合う。
しばらく待ってると俺らにも現金を持った先生が近づいてきた。
「ほら手ぇー置け」
そのままお金を渡すのかと思って出した手を、机に置けと言われる。なぜ。
「ちげーよこうやって置け」
先生に手の形を指示されるが意味がわからない。
カルクが「ほらこうやって」と俺の手の形を整えてくれる。手の甲を上にしながら、手を5本の指で立たせてるような状況。
そこに先生が自分の手の甲あたりに現金を置き、少し下に力を加えた。すると、綺麗に札束に何箇所かの隙間ができ、そのうちの一塊を先生が抜き取る。
「ほら、8万」
軽く会釈しながら無言で受け取る。今の手品に少し気を取られ言葉が出てこなかったことを誤魔化す行動。
隣のカルクも同じように受け取る。そして先生が離れていくのを見計らい会話を再開する。
「どう考えても年金に使わん方がええやろ。パチスロの方が期待値高くね?」
「さ~て、俺は次の授業の準備しよ~」
と言いながら鞄から財布を取り出すかるくを見て全てを察し、ゲラゲラ笑う。
「俺も俺も~」
現金の支給が終わり、授業が始まるという時に、前の席の女がこっちに体ごと向けた状態でじっと見ていることに気づいた。
「ん?どした~?」
「・・・・・・私も」
「え?」
「私もパチンコ行きたい」
思考停止。そして言葉を理解すると、
「アッハッハッハッハ!」
おかしくてつい笑ってしまった。隣のカルクも驚きながらニヤニヤしている。
それもそうだ。まさか割りと真面目系だと思ってた女が、笑いそうな顔を必死に抑えてるような真面目な顔で、ぜんっぜん真面目じゃないことを言うものだから、それが凄いちぐはぐでおかしくてたまらない。
「前から興味あったの。お爺ちゃんとかが持ってくる冊子とかで」
あの薄い仕様説明書のことだろうか。この発言も笑える。
「でもさ、俺ら行くのこっちじゃないよ?」
右手で何かを掴む形にしながら時計周りにクイックイッと回すフリをするが、どうも通じてなさそう。
「あぁほら、パチンコじゃないってこと。俺らがっつり行くつもりだからスロの流れになりそうなんよ」
女は「はぁ」みたいな反応をしている。ちょっと理解してなさそう。
「まぁパチンコするならするで全然合わせるけど」
と微妙な空気を回避したいため言葉を重ねる。
……少し出来た会話の間。あと話すことはーと思いながら周りを少し見渡した瞬間、あることに気づいてしまった。
「あーうん、そんな感じで行くとしてー」
女ははてなマークを顔に浮かべながら相変わらず見ている。
「とーりあえずー。前向いたほうがー良いんじゃないかなー」
はっとした顔と共に女は向きを正す。いつから見ていたのか先生はやっと俺らから目を離し、
「授業やるぞ~」
何事もなかったかのように日常に戻った。