帰還
「無限の魔力は魔王様にお返ししますわ」
「その方が利口だ」
世のためにも、人のためにも、魔族のためにも……つまり、世界平和のために直ぐに返しなさい!
「必要になればまたいつでも貸すぞよ」
「――それだけは、絶対っにおやめください! ガチで!」
パーッと安っぽい光が女神から魔王様へと移ると、魔王様は再び魔力バリアーに包まれた。見えないけれど。
女神の翼がシュシュっと引っ込む姿に安堵する。服の背中に穴が開いているのは内緒だ。
「あーあ、見せブラだからいいのよ。気にしないで」
……黙ってて。
「なにはともあれ、これで元通りですね」
一時はどうなることかと思ったぞ。今回だけは……本当にヤバかった。最終回になるかと思った。
「心配をかけたな。デュラハンよ」
「御意」
「まあ、あんまり活躍してないけどな」
ずっと見ていた他の四天王が口を挟む。いたのかお前達。存在感がイケメン勇者よりも少なかったぞ、とは言わない。
「……ああ」
たしかにそうだ。私は活躍などしていない。最後に美味しいところをソーサラモナーに持っていかれた感は拭えない。でも、サイクロプトロールは何もしていない。サッキュバスも。
「ハッハッハ」
いや、笑って誤魔化すなと言いたいぞ。
「ハッハッハ」
「……フフフ」
釣られてみんな笑うんじゃない。なんか、笑われているみたいで恥ずかしいじゃないか。イケメン勇者も笑っている。
魔族と人間が共に笑い合う……世界には再び平和が戻ったのだ。
「それでは女勇者よ、色々と世話になった。ありがとう」
「……ううん。またね、デュラハン」
「ああ」
女勇者が袖で涙を拭き元気な顔をして見せる。
「たくさん女を泣かせて、罪な男ねデュラハン」
「たくさんって言うな――誤解を招くから――」
そんなに泣かせた覚えはない。
「そうかしら?」
「グヌヌヌヌ」
サッキュバスよ、それ以上は勘弁してくれ。私は魔王様一途なのだから――。
「では魔王城に帰るぞよ。瞬間移動――」
「アディオス!」
「……なぜにスペイン語」
人間の国王の城から、見慣れた魔王城玉座の間へと周りの風景が変わると、安心してどっと疲れが出た。大理石の床は座るとひんやり冷たくて気持ちいい。
今日は久しぶりに魔王城の男子風呂にゆっくり浸かろう……。
「あー、やっぱり魔王城が一番落ち着くぞよ」
旅行帰りの名言なのだが、あえて突っ込まない。こればっかりは魔王様とまったく同意見だ。
「ほんとねー」
……。
「あんたは石になっていただけなのだから、玉座の間はそんなに落ち着かないだろ」
女神だけ人間界に置き去りにすればよかったのです。そうしたら、大好きなホストクラブに入り浸れたでしょ。
「チッチッチ、無限の魔力が無かったら、わたし文無しよ」
「文無しって……」
つまり、無限の魔力でお金を偽造したのか……冷や汗が出る。お金の偽造は犯罪ですから――!
「済んだことだから、よいぞよ」
さすが魔王様、寛大ですね。
「前に魔王様もやらかしましたからね、無限の魔力で偽金作り」
「偽金って言わないで~」
皆にクスクスと笑われた。もっと笑ってやってください。魔警察に突き出してください。……二人共。
「そうそう、デュラハンがいないあいだ、男子浴場は誰も掃除していないから垢だらけだぞ」
「……それをいま、聞きたくはなかった」
風呂の底に土や泥が溜まっていそうで……嫌だなあ。たまにあるんだけれど、今回は桁違いだろうなあ。
風呂が沼になっていそうで怖い。箸が立つコッテリラーメンの汁のようになっていそうで怖い。
「さらには洗濯物の山よ」
「……」
まあ、想像はしていたのだが。
「魔王様、無限の魔力で風呂掃除や洗濯とかって、なんとか出来ないでしょうか」
女神は無限の魔力を使えば掃除洗濯思いのまま、チョチョイのチョイっスと言っておりました。
「それがあなたの仕事でしょ」
「……」
仁王立ちで指差してウインクするなっつーの。腹立つわー、最初から最後まで!
「明日くらいに、メデューサに魔王城へ来てもらうとしよう」
頼みたいことがあるから。
「いやーん、冗談よ冗談」
いやーんとか可愛く言っても……駄目だ!
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