表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

最後の手段


「お前が欲しいのは無限の魔力ではない。お前のために仕える者たちだろう」

 力を手にして強大な敵と戦うのではなく、力を見せびらかせて他人を操るのが目的なのだろう。

「……ああ、そうだとも! 無限の魔力目当てにたくさんの馬鹿な人間が寄ってくる。俺に忠誠を誓う」

「それはお前の魅力ではなく、無限の魔力を奪うためだぞ」

 忠誠を誓うなど、ちゃんちゃらおかしいぞ。

「……」

「無限の魔力が簡単に奪えると分かれば、24時間、365日、貴様は安眠などできぬ」

「フッ、そのときは護衛を強化すればよいのだ。さらにそのために俺は、これから毎日魔法の勉強をする。何度もノートに書き写して必死に覚えるさ」

 ノートに書き写したら魔法って覚えられるのか……良いことを聞いたぞ。明日、魔コンビニでルーズリーフを買ってこよう。

「いくら護衛を強化しても、デュラハンが24時間、365日、お前を背後から狙い続けるのだぞよ」

「「――!」」

 魔王様、今なんとおっしゃいましたか。

「聞いてないですよ。そんな重労働」

 重労働というより、超絶くだらない仕事……労働基準監督署を呼びますよ。

「シー。無限の魔力を取り戻すまでの話ぞよ」

「……」

 イケメン勇者は苦虫を噛み潰したような顔を見せる。そんなに俺のことが嫌いなのか……好都合だ。

「クックック、ヘーッケッケケ。私の白金の剣は血に飢えているよーん。貴様が何歳まで生きるかは知らぬが、死ぬまで貴様に気を抜ける時間は訪れないだろう」

 もう一度白金の剣を抜いた。これはパフォーマンスだ。ファンサービスともいう。形勢が悪くなったのか、勇者はキョロキョロあたりを見渡すと女勇者に声をかけた。

「おい女勇者よ、俺に協力しないか。そうすればこの城に住まわせてやるぞ。さらには金銀財宝も思いのままだぞ」

「……」

「宿屋よりも朝食も夕食も豪華だぞ」

「ゴクリ」

 ゴクリって言わないで――。

「さらには、国王の妻として城に迎え入れてもよい」

 チラッと女勇者の表情を伺う。昨夜……女勇者を失望させてしまったばかりだ。人間は魔族とではなく、人間との友好関係こそ築いていかなくてはならない。


 そもそも、魔族の危機を人間に頼るなど、それ自体都合が良すぎたのに……自己嫌悪だ。


「そんな物、いらない。わたしはあなたみたいなニセ勇者じゃない。勇者は、他人から奪った力で強くなるような愚か者ではない。周りから慕って認められ勇者になるのよ」

「……女勇者よ」

 目頭が熱くなった。首から上は無いのだが……。

 女勇者も剣を抜いた。名もない安い剣だがその姿は美しい。

「くそ―、無限の魔力があるのになぜ思い通りにいかないのだ!」

 他人から奪った力や権力だけでは、誰もついて着たりしないのさ。人も、魔族も。


「まさか逃げないといけなくなるとは誤算だったぜ」

「なに? ――まさか」

瞬間移動(テレポーテーション)か!」

 ここで逃げられると厄介だ。

「そうだ、昼間は畑を村人と耕し、夜はホストクラブで必死に働き、高い金を払って魔法参考書を買い、自力で覚えたのだ!」

「……」

 見た目と違い、わりと努力家だったのか……。

 瞬間移動(テレポーテーション)の魔法を使われては、どこへ移動したか分からない。追い掛けるどころか見つけるのすら一苦労だ。冒険のやり直しになるから、また話が……伸びる。冷や汗が床に落ちる。


「さらばだ魔王ども、ハッハッハ―、瞬間移動(テレポーテーション)――!」

「逃がすものか!」

 勇者へ向かって走り寄るが、間に合うのか――。

「もう遅いもんねー、ハッハッハ―」


 ガシッ!

「……」

「……」

 勇者は……いっこうにこの場所から消えなかったので……男勇者をガッチリと捕まえた。羽交い締めにした。間に合った。間に合い過ぎてお釣りがくるくらいだ。


「え、なんで? もしかして、失敗?」

 勇者の目が点になっている。黒い点だ。

「グヌヌヌヌ、貴様……ちゃんと練習したのか」

 試してみたのかと聞いている。

「あ、ああ。何度も練習して確認したのに……おかしいなあ。瞬間移動(テレポーテーション)!」

 しかし、なにも起こらなかった。パーッと光ったりもしない。

「練習し過ぎて魔力が足りなくなったとか」

「いや、今日は一回も使っていない。それに、今の俺には無限の魔力があるのだぞ」

「……」

「……」

 なんか、分が悪いなあ……。シーンと沈黙が訪れる。


「ハッハッハ。それはそうさ」


 沈黙を破ったのはここにはいない者の声だった。

「その声は!」

 広間の入り口から声が聞こえてきた。ローブを着た姿がシルエットで浮かび上がる。

「お前の魔法はすべて封印されているのさ。俺様の魔法、『魔法ド忘れ昨日の夕食ド忘れと同じ』でな」

 要するに魔法が使えなくなる魔法なのだろうが、酷いネーミングだ。昨日の夕食は……エビフライとハンバーグだったぞ。たぶん。

「ネーミングは酷いが禁呪文でもなんでもない安心安全の呪文なんだぜ」

「その声は!」

「声だけでは分からないぞよ」

 いや、分かろうよ魔王様。

「……出番が少ないとはいえ、味方の声をお忘れにならないでください。魔王様」

「ソーサラモナー!」


 魔王様が振り返るとそこには魔王軍四天王、ソーサラモナーとサイクロプトロールとサッキュバスが横一列に並んで立っていた――。


「お、お前達! どうしてここに!」

「どうしてって、魔王様がピンチの時に四天王が駆け付けなくてどうするんだ」

 格好いい台詞だ――! 頭の寝癖がなかったらもっと格好いいのに。

「ベタといえば、ベタな展開ね」

 ガクッとなるぞ。

「……ベタとか言わないでください」

 ――そもそもこんな面倒なことになった元凶は、すべて女神(あなた)の仕業なのですから――。


「無限の魔力を持っていても、魔法を知らなければ恐るに足りない。とくに、魔法使いにとってはな」

 ソーサラモナーに掛かればレベルの低い勇者の魔法など赤子同然。足元にも及ばないという訳か。

「そうそう、でも、俺達四天王にも相談してくれよな」

「仲間なんだから」

「すまなんだ。みんな」

 魔王様が頭を下げる。最初からそうしておけばよかったとつくづく後悔している。そうすれば、ここまでの長旅も必要なかったのだし、大きなリュックを背負う必要もなかった。

「でもお、宿屋でのイチャイチャもできなかったわよ」

 ――ウインクして言わないで女神様。声も大きい~。

「お黙ってください。イチャイチャしていませんから。あなた達のように、とは言わない。言えない」

「言ってるし―! キャハハ」

 この女神に緊迫感ってあるのだろうか……。それとも、さすがは女神様と感服するべきなのだろうか。開いた口が塞がらないぞ。

 さらには、ウインクって今時、している人すら見かけないと……教えてあげた方がいいのだろうか。


読んでいただきありがとうございます!


ブクマ、お星様ポチっと、いいね、などよろしくお願いしま~す!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よろしければ魔王様シリーズを読んでみてください!
『魔王様シリーズ』
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ