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グッドモーニング?


 コッケコッコー。宿屋の窓から遠くで鳴く鶏の声が聞こえ目覚めた。

 チュンチュン雀の鳴き声で起きるよりも清々しい。胸のあたりをポリポリとかく。


「魔王様は、夜の方が魔王様だったわ」

「昼も夜も魔王様は魔王様です」

 なにを言い出すのだ女神のアホ! 宿屋の一階で朝食を食べていた。せっかくの朝食ビュッフェなのに、寝不足のせいで食欲が湧かない。何食べているのか分からない。あ、これゼリーだ。


「それよりも~、女勇者ちゃんはどうだった」

 ブッとゼリーを吹き出しそうになったが辛うじてこらえた。首から上は無かったので吹出さずにすんだ。

 女神が目玉焼きをパンの上に乗せ、それにかぶりつきながら顔を覗き込んでくる。女神のくせに……魔王妃のくせに距離感が近い。行儀も悪い。

「私が興味があるのは女勇者ではなく、女勇者が身に付けている『女子用鎧、胸小さめ』だけだ」

 上手く誤魔化して顔を逸らした。

「でも、それを脱がしたんでしょ。上から? 後ろから?」

「おやめください」

 私は紳士の騎士なのです。

「きつかった?」

「なにが!」

「鎧よ。鎧がきつかったのかなーって」

 クスクス笑いながら言わないで。恐らく今、……大勢の破廉恥な妄想をしている人の誤解を招いたから。


 女子用鎧を脱いだ女勇者そっちのけで……脱いだ鎧に抱き着いて……滅茶苦茶怒らせてしまったのは内緒だ。

「デュラハンったら、『触ってもいいか』っていうから、覚悟決めて頷いたのに、そっち―みたいな。もーほんとに最悪」

 ベラベラと喋るんじゃない。パンはちぎって食べなさいと言いたいが、言えない。

「……魔族と人間は共存できないのだ」

 誰しも少し考えたら分かることではないか。

「違うぞよ」

「……?」

 魔王様がお口を挟む。どうでもいいが首筋の赤い跡は……なんとか誤魔化せなかったのだろうか。頭が痛いぞ。

「魔族と人間は共存できるのだ。ただ、それ以上の関りは持てぬ。種族が違うとはそういうことぞよ」

「そうね、たしかに人間と魔族は、共存はできるわ」

 争わずに共に暮らしていける……。

「でも、それ以上の関りは……持てない」

「……」


 魔王様が今回初めてまともなことをおっしゃった……首筋にキスマーク付けてるくせに。


 お互いが平和に暮らすことは出来ても。結婚したり赤ちゃんを産んだり育てたりって……物理的に不可能だ。顔が無い全身金属製鎧のモンスターと人間との間の子供など……物理的に不可能なのだ。


 どんなに愛があっても無理なものは無理なのだ――。


「無限の魔力があれば、どうにかなるわよ」

「おやめください。いや、おやめなさい!」

 禁断の魔力です。

「よーし、じゃあ、早く取り戻しましょう!」

 女勇者よ、やる気満々にならないで。



 お城への入り口は女勇者のおかげで顔パスだった。

「首から上が無いのに顔パスって……わら」

「黙るのだ」

 「わら」とか「くさ」とか「w」とか、数年後には通用しないだろうから。


 城の一階の大広間には国王が一人で噴水の金魚に餌を与えていた。おふを細かく砕いたものだ。

「国王様、お久しぶりです」

 こんなところで何をやっているのかと問い詰めたりしない。

「お、おお、女勇者と……その一行ではないか。ちょうどよかった」

 ……女勇者パーティーになっているぞ、俺達……。顔の無い私のことや命を助けてくれた魔王様のことを覚えていないのか……。

 まあ、年も年だから致し方なしか。

「なにか困ったことでもあったのか、国王よ」

「若いくせに偉そうだなあ。だが、そうなのだ、困ったもなにも……」

 おふを口に入れてムシャムシャ食べ始める。大丈夫なのだろうか、口の中が渇くぞ。

「無限の魔力を手に入れたから国王の座を譲れ! と金髪のイケメン勇者が急にやってきて、わしを押しのけて玉座を奪いおったのじゃ」

「――酷い!」

 そいつで間違いないな。無限の魔力を奪ったことで気がでかくなったのだろう……浅はかな。もっとバレないように少しずつ少しずつ国王の座を奪えばよいものを。女神がクスクス笑っている。

「それで、いじけてノコノコ逃げだし、金魚に餌をやる始末か」

 赤と黒の出目金は物凄く太っている。餌やり過ぎだ。

「情けないとは思わないのか、年老いているとはいえお前は人間界の国王なのだろ」

「うむ。だが、金魚に罪はない」

「……う、うん」

 正論とは違うよね。なんか、話が食い違っているよね。国王は80歳を過ぎたくらいの老人なのだが……。

「衛兵たちはどうしたのだ。誰も国王の味方をしてくれなかったのか」

「最近、みんな若者が年寄りに冷たくてなあ……」

 うんうん。なんか……聞いていて心に響くものがあります。

「下の世話も露骨に嫌がるし……」

 モジモジ照れながらそう呟く国王。

「おやめください」

 剣と魔法の世界に老後と介護のリアルな話をねじ込まないでください。世界観が崩れますから。

「わたしも嫌だなあ」

「予も嫌ぞよ」

「お二人は黙ってください。魔王様も長寿とはいえ、いずれはこうなります。誰かにお世話してもらわなくてはならないのですよ」

 無限の魔力を取り戻せなければ、五〇~六〇年後にはこうなるのです。

「ですが、ご安心ください。魔王様であれば私が必ずや介護を成し遂げて差し上げます」

 これが忠誠心でございます。「その代わり」はございません。

「うむ、頼りにしているぞデュラハン」

「わたしもよろしくね」

「女神は別料金。ぼったくり高目設定」

「金取るの~――! デュラハンの……商人(アキンド)!」

「冗談ですよ」

 私より長生きしなさいとだけ言っておこう。


 国王におふを貰って食べたが、決して美味しくはなかった……。



 城の最上階にある広間の玉座にイケメン勇者は逃げることなく座っていた。


「やはりお前か」

「何者だ!」

 ……いや、城内に入った時点で誰か知らせてあげてよ。顔の無い金属製鎧のモンスターが城内をうろついとるんよ。

「魔王軍四天王の一人、宵闇のデュラハンと」

「魔王ぞよ」

「女神です」

「女勇者よ」

 簡潔に自己紹介すな。

「お、お前達は、見覚えあるぞ。っていうか……おまえは女神だったのか、酒癖の悪い性悪女のくせに」

「あ、酷―い!」

 その点だけは共感できる。今は味方だから言わないけれど。


「無限の魔力を返してもらいに来た」

「フハハハハ、馬鹿め一度手放した力がそう易々と戻ってくると思ったら、大間違いだぞ」

「なにい!」

 その言葉、もっと魔王様に言ってやって――。私だけがこんなに苦労しているのだから――。

「貴様がどれだけ強大な無限の魔力を持ったとしても、このデュラハンに掛かれば赤子も同然。宝の持ち腐れよ」

 ゆっくり白金の剣を抜いた。勇者の名を語るのであれば、正々堂々と剣で勝負しろ。

「だから貴様は顔無しなのだ」

 イケメン勇者は玉座から立ちあがろうともしない。

「なんだと!」

 能無しならいざ知らず、か、か、顔無しだと――! 人が気にしていることをずけずけと~!

「こんにゃろ、もういっぺん言ってみやがれ!」

 めっちゃ頭にきたぞ! っていうか、国王もよくこんな勇者を生かしておいたと感心してしまう。前に、国王の命を奪おうとした重大犯罪者なのだぞ。極刑はなくとも、禁錮二〇年くらいの刑にしておけと言いたいぞ――。キイイイイー!

「怒るでないデュラハンよ、敵の罠だぞよ」

「――!」

 罠ですと! ……危なかった。挑発に乗ってしまい怒りで我を忘れるところでした、私としたことが。

「そうよ、怒っちゃだめよ、プププ」

 ……プププって、この女神から先に切り付けてやりたいぞ。

「その怒りを敵にぶつけるのよ」

「女勇者よ、ナイスアドバイス。ナイスフォローぞよ」

「任せといて」

 ……なにをどう任せるというのだ。なんか腹立つぞ……。


「無限の魔力で回復魔法を使い続ければ、レベルの低い勇者とて無敵になるのだ」

「うはあ……自分で自分の作戦を戦う前に言ってるぞよ」

 魔王様が手を拳にして口に当て怖がられていらっしゃる。

「よほどの自信か、ただの馬鹿ね」

 掌を上にして女神と女勇者も呆れ顔を見せる。

「黙れ! 回復量は少なくても、唱え続ければ無敵なのだ」

 ……。

 あれ、どこかで聞いたことがあるぞ。無限の魔力で唱え続ければ、その効果も無限説……。

それって、魔王様じゃないか――! 石化の呪いを一瞬だけ解除する魔法を唱え続けようとしてド失態をさらした魔王様じゃないか――!

「テヘペロ」

「テヘペロではございません。やっていることがイケメン勇者と同レベルなのですから、恥ずかしがってください」

 ちゃんと反省してください。

「だが勇者よ、一撃必殺で倒されることを考えていないのか」

 私の白金の剣ならば、貴様が気付く前に心の蔵を一突きできるのだぞ。

「ほら、ダメージ受けた瞬間って、一瞬だけ点滅して無敵になったりするだろ。その間に唱えればいいのだ。さらには、メニュー画面を開いて瀕死でも生き延びるとか、抜け道はたくさんあるのだ」

「……」

 なんだその裏設定のような話は! ここはRPGじゃないのだぞ。剣と魔法の世界なのだぞ。冷や汗が出る。


 勇者はようやく玉座から立ち上がると派手な赤いマントをバサッと外し、几帳面に畳んで玉座に置いた。

「口で言っても分からぬようだな」

「うるさい。無限の魔力の力、己の体で思い知るがいい」


 カキ―ン!

 剣と剣が交差したのだが……。

「やばいぞ、これだと本当に一突きで終わってしまうぞ」

 イケメン勇者、やはり弱過ぎる。女勇者でも倒せるだろう。

「……」

「逆に問う。なぜお前は力を欲して国王になろうとするのか」

 剣と剣で鍔迫り合いしながら問いかける。

「ググググ……簡単なことだ、勇者が国王になるのは、あるべき道筋なのだ」

 あるべき道筋だと。

「平社員が社長を目指すようなものだ」

 なるほど、そういうことだったのか。とても分かりやすいぞ。


 剣を思い切り大きく降り、勇者を剣圧で壁まで吹き飛ばした。

「ぐおっ、っく、この馬鹿力め……」


 バカはどっちだ、そっちだ。


読んでいただきありがとうございます!


ブクマ、お星様ポチっと、いいね、などよろしくお願いしま~す!

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