デュラハンの忠誠心
私は力が欲しかった。今でも強き者を目指している。だから魔族で一番強い魔王様にできる限り近付きたいと考えていた。
魔王様がお金持ちではないのは知っていた。魔王軍の財政事情は厳しいからだ。――だが、魔王様は魔王城の食堂でフリーパスだし、寝坊しても怒られないし、自分の自室と玉座の間の2つを好き勝手に使えるし、お風呂も掛け湯なしで浸かるから……。
――ずっと魔王様が羨ましいと感じていた。
私の忠誠心は……いったいどこへ向かっていたというのだ――。
「これじゃアホキャラね」
「やーめーて! ちょっと今はそっとしておいて」
なんか、考えれば考えるほど泣きそうだから。お腹が空いている今の状況もすべては魔王様のせい。
私の忠誠心は――間違っていたのではなかろうか――。
「今更ぞよ」
「そうそう、最初っから分かっていると思ったのに」
「……」
涙と一緒に鼻水も垂れていた。首から上は無いのだが。
「デュラハンよ、余計なことを考えてはならない。魔王であれ女神であれ、組織の上に立つ者は、その下の者に考えさせる暇を与えないくらい重労働を与え、自分の至福を肥やすのだ」
「きゃ、さすが魔王様」
なにがさすがなのだ――ぜんぜん分からないぞ。
「重労働……でございますか」
「さよう。予は決して偉くはない。偉く見せるために四天王や大勢の魔族を手下とし、畑を耕かせたり家畜を飼育させたり魔王城を掃除させたり、自分がやりたくない重労働を他の者にさせているのだ」
「……」
「卿の忠誠心は、予のように玉座に座っているだけで自由に飲み食べでき、心配事もなく優雅に過ごせる身分のためであろう」
「……」
魔王様が羨ましいと……思っていたが、それが忠誠心だと。
「もし、予が窓拭きや魔王城の掃除や風呂掃除をしていれば、羨ましいとは思わぬであろう」
「たしかに」
今の私と同じでございます。
「さよう。だから四天王にはなりたくても、デュラハンのポジションは誰も狙ってはおらぬ」
「……」
誰も狙ってくれないポジション……最高の褒め言葉だぞ。シクシク。サラリとディスられている。
「安心するがよい。予はそんな、誰もやりたくないポジションの仕事を毎日笑顔でこなすデュラハンを誰よりも信頼しておる」
――!
「そうよ、魔王様だけじゃないわ。わたしにとっても、デュラハンが一番頼りになるのよ」
口を挟まないで。あなたのポジションは、度を過ぎたドジっ子で決まりですから――。
石像のオブジェですから――。むしろ邪魔。動き出すともっと邪魔。
「……。分かりました。たとえ魔王様が魔力を失っても、全財産を無くしたとしても、私を信頼してくださる限り、私の忠誠心は変わりません」
これまでも、これからも。どれほど失敗なさっても私の忠誠心は揺るぎません。社畜のように――。
――社畜はけなし言葉ではありません。最高の褒め言葉なのです――。
……でも、女神は別。
「女神は別って、酷くない? 今は普通のか弱い女の子なのよ」
首を少しだけ傾けても駄目だ。か弱い女の子には見えない。か弱い女の子は無限の魔力を持ち逃げしてホストクラブに通ったりはしない。
魔王様の妻、魔王妃だから仕方なく守る。このゴタゴタが片付いたらメデューサに頼んで、また石像になってもらおう。内緒だが……。
「……」
たぶんバレた。
迷いは消えた。だが、敵は無限の魔力を手にしている。さらには私には魔法は一切使えない。そして魔族の仲間には頼れない……いったいどうすればいいのだろうか。
私一人ならともかく、魔力ゼロの魔王様と女神を守りながら戦えるはずがない……。チラチラ魔王様と女神を見る。
「やだ、デュラハンったらわたしの胸元を見ているの」
「なに、デュラハンよ不埒だぞよ」
……。
「おやめください。その女の戯言でございます」
「その女って、酷おい!」
酷いの間に「お」を入れるな……。
「魔王様、人間から無限の魔力を取り返しに行くのには、このパーティーでは力不足です」
「なぜじゃ、騎士、魔王、女神、最強パーティーではないか」
聞こえはいい。強そうに聞こえる。
「しかし現実は、騎士、村人♂、村人♀、程度の力です。足手まといの村人を守りながら戦うなんて大変です……」
モンハンで卵持ちながらドラゴン討伐するようなものです――! ガギャン、卵が――!
「とにかく、城下町に入りましょう。ここは暑くて汗かいちゃう」
「そうぞよ。どこか涼しいところで冷コー飲んで一服するぞよ」
「……」
大丈夫か、このパーティーで。さらに、冷コーって……なんだ。冷や汗が出るぞ。
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