長く苦難な道のり
「そろそろ冒険にも飽きてきたぞよ」
……御冗談を。
「飽きるのはやっ」
まだミツバチの巣を破壊して逃げただけですぞ。子供の夏休みでいえば、まだ夏休み前日の終業式の午後ですよ――。
まだ、魔王城が見える距離ですよ。裏山だから。
「さらには飽きるもなにも、無限の魔力を取り戻すまでは帰れないのですよ」
プチ旅行ではないのです。ガチなヤツですよ。
「あー、めんどいからデュラハン一人で取り戻してきて」
どうしよう。この体たらく……。
「それでは、無限の魔力は私の物になりますが、よろしいのですね」
「うん」
……うんって……ため息が出るぞ。
「どうせデュラハンが無限の魔力を手にしても、使える魔法はなかろう」
「……」
なんか、腹が立つのは気のせいだろうか。空腹のせいだろうか。
持って来た鯖缶の水煮を……隠れて一人で食ってやると誓った。
――中略――。
「ちょっと待って下さい魔王様」
ピタリと足が止まった。ここはどこだ。先程まで魔王城の裏山にいたのだが。
「どうしたデュラハンよ」
「中略って……よろしいのですか」
正々堂々と明記してよいのですか。
「よい。もう冒険も終盤ぞよ」
「――終盤!」
冷や汗が流れる。
これではどれほど私がこの無駄な冒険で大変な思いをしたのかが、ぜんぜん伝わらないではないか――!
「案ずるな、瞬間移動が使えなくてもこれならば目的地に想像以上に早く到着できるぞよ」
「しかし魔王様、それではこれまでの壮絶なバトルや危険な地を乗り越える感動的な場面が……無に帰します」
私の活躍シーンが、無に帰してしまいます――。大きなリュック担いで歩く姿とか……。
「おのおのの想像にほぼほぼ任せておけばよいのだ」
くだらなさそうな顔でそう呟く魔王様は、本当に魔王様だ……。
「おのおのとかほぼほぼとか、おやめください」
「おの」だけでも「ほぼ」だけでも十分に伝わりますから。
「そもそも、剣と魔法の世界といえども誰も剣や魔法を楽しみにしてはおらぬ」
「? どういうことでしょうか」
理解に苦しみます。
「露出の高い登場人物、イケメンのむっちり筋肉、ピュアな恋愛模様、下衆な敵倒してザマアを楽しみにしておるだけだ」
「……」
剣と魔法はそっちのけ?
「剣のクオリティーや魔法の凄さを楽しむのはせいぜい中学三年生くらいまでぞよ」
「おやめください」
冷や汗がでます。せめて魔中学三年生とおっしゃってください。
「ザコ敵を倒す地道な努力や剣や魔法の練習を繰り返す部分など……読む価値なし」
――読む価値なしとか言わないで――! 剣と魔法が出てくる部分こそを重宝して――! 剣と魔法の世界なのだから~!
「つまり、予とデュラハンが二人で冒険している姿など、一文の価値すらないぞよ」
「冷や汗が出ます」
男同士の剣と魔法の世界……友情や愛情が芽生えて素敵ではありませんか。
「このままだらだら二人で冒険シーンを続けてもPV下がり続けるばかりぞよ」
「PVとか言うのはおやめください。さらには冒険しているのに、冒険シーンを続けるってなんでしょうか」
私はその「シーン」のためだけに苦労させられているのでしょうか。大きい荷物を背負わされて……。
魔王様のパジャマなんて、持って来るんじゃなかった――! ナイトキャップなんて、持って来るんじゃなかった――!
目前に迫った人間共のお城に……ガッカリする。
最終目的地に着いた筈なのに、非常にガッカリする――!
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