最初の戦い
この物語は、前作「魔王様、なぜ封印を解こうとするの?」からのつづきになります。
「今のままでは無限の魔力を持つ女神には逆立ちしても勝てませんよ」
なんせ、女神というくらいなのだから禁呪文から回復魔法までレパートリー豊富でしょう。さらには召喚魔法や時間を操る魔法や満腹になる魔法なども無限に使えるのであれば……。
すなわち、無敵――。魔王様より絶対に賢い――。
「どさくさに紛れてディスり方が酷くない?」
「どさくさに紛れておりませぬ。正真正銘ディスってます」
勘違いしないでください。
魔王城の裏山を少し上ったところで夜を明かした。
キャンプ用に買った寝袋と小さなけテントが役に立った。毎日これを広げては仕舞う生活が続くのかと思うと朝日の清々しさなどどこ吹く風だ。もうすでにホームシックだ。
「冒険を続け女神から無限の魔力を取り戻すには、長旅の間に弱い敵から少しずつ倒し成長せねばならぬ」
少しずつ倒して成長ですと。
「おやめください! それではまるで、剣と魔法の世界で冒険しながら成長する……ハイファンタジーではございませぬか!」
「う、うん」
魔王様が照れながらコクリと頷く。
「無理無理無理無理! 急にそんな真面目にハイファンタジーしても……誰も見向きもしませんよ」
PV増えませんよ、冷や汗が出る。脇汗も滲む。
「いやいや、強大なる敵に立ち向かうため死闘を繰り広げる姿は感動ものぞよ。老若男女問わずに釘付けぞよ」
「いえいえ、最初からシリアスだったのなら通用するかもしれませんが、我々は散々のほほんまったりのんびりスローライプに甘んじてきたではありませぬか」
今更、誰が剣を持って戦う魔王様を見たがるのでしょうか――。
「剣を振るのはデュラハンぞよ」
「うううーん」
そういう意味ではございませぬ――。
誰も読者はそんな二人のやりとりなんか期待していないってことです。冷や汗が出るようなことを言わせないでください。
しかも、最初の敵は……ミツバチで、倒す目的は蜜を舐めるためですと?
小さなミツバチが巣を守って飛んでいる。
「せめてスズメバチとかクマ蜂とかならまだ戦いがいもあるでしょう」
スズメバチなら命がけともいえる。魔王様は生身だ、生身。無限の魔力を失ってしまい、魔力バリアーが無い状態なのだ。
「生身ってやめて。なんか凄く……エモい」
「……」
魔王様が考えていらっしゃることが分からないぞ。エモいって、どこがだと問い詰めたい。
「それよりも、早く蜂をやっつけるのだデュラハン。予は空腹ぞよ」
「黙って」
気が散るから。
カッと目を開いて白金の剣を抜いた――。
「究極奥義! デュラハン・ブレッドーー!」
9999のダメージを与えた。ミツバチの巣は木っ端微塵に吹き飛んだ。
「フッ、たわいもない」
「……ワザとやっておるだろう。蜂の巣を木っ端微塵にしてどないするのだ」
「いいえ、ご覧ください。一匹もミツバチを切らずに、蜜だけを白金の剣にベットリとタップリ回収できました」
巣は木っ端微塵ですが、蜜で剣がベトベトです。ゴエモンなら『またつまらぬ物を切っちまった』と決め台詞を口にしていることでしょう。
「それを、舐めるの」
「舐めないの?」
グルグルグルと腹の虫が鳴き声を上げる。
そーと魔王様が白金の剣に付いた蜂蜜を舐める。舌の色が悪い。魔王様色、どどめ色ともいう。
「これ、甘すぎるぞよ」
「……」
贅沢な。舐めた瞬間に剣をクイッっと引っ張ってやろうか~――。
魔王様の舐めた部分を念入りに舐めておいた。冷や汗が出る。ヤンデレだ。いや、そもそも私には顔が無かったのだった。
「そして次は、巣を壊されて怒ったミツバチから逃げるのです」
「え、マジで」
「マジです。私は全身金属製鎧ですからミツバチの攻撃など屁でもないですが、今の魔王様はミツバチの攻撃は効きます」
下手すりゃクリティカルヒットです。アナフィラキシーショックとも言う。
「走るのです! さあ早く!」
「朝から走ると血圧が上がるぞよ~」
ブーンと羽音を立てて追い掛けてくるミツバチの群れから魔王様が必死に逃げる姿が微笑ましい。
「追いつかれて刺されますよ! もっと早く走れ!」
「ひえー、デュラハンよ、覚えておくがいいぞよ! というか、助けて~」
あー楽しい。魔王様が走ると滅茶苦茶楽しいぞ――! 「魔王様は逃げ出した。しかし、回り込まれてしまった」だぞ――。
ミツバチに数回刺されたご様子だが、幸いにもアナフィラキシーショックにはならなかった。
「チッ、運のいい」
「……。デュラハン、怖いぞよ。ファンが減るぞよ」
魔王様がハアハアと肩で息をしていらっしゃる。
「減っても構いません。私は魔王様のために心を鬼にしているのです」
「……」
瞼の上が刺されて腫れあがっているのが……可愛くてキュンとしてしまう。
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