9 魔法って凄い
あの戦いのあと、流石にこのままだとまずいかもしれないってことで、戦い方の見直しをした。
そもそもの話、鈴音さんのスキルを考えれば、近接戦にこだわる必要はないかもしれないんだよね。
私は魔力操作がないから魔法は使えないし、蓮弥君は何故かMPが0だから使えないけど、鈴音さんは120。
十分に戦力になる可能性がある。
で、次に遭遇した魔物……犬と猫のセットだった。
その二体に使ってみたところ。
「……僕いらなかったんじゃないかな」
呟いた蓮弥君の気持ちもわかる。
鈴音さんが使った魔法は〈雷撃波〉。
一応私と蓮弥君は下がって見ていたけど、本当に良かったと思う。
鈴音さんが床に手をつけると、そこから白い波のようなものが前方に広がっていった。
雷撃や雷走と比べると若干地味な見た目だったんだけど、それに当たった魔物が死んだ。
痺れたとかじゃなくて、死んだ。
急に目の前で倒れて警戒したんだけど、死んでた。
……うん。
しかも、その一撃で倒せてた雷の波が4回出て、さらに魚雷みたいなのも出てたんだよね。
多分、跳んで避けた相手に追撃するための攻撃だとは思うんだけど、強すぎじゃない?
おかしいよねー。
味方でよかったよ、ほんと。
でもこれが雷帝と雷帝の守護者の影響ならいいんだけど、そうじゃなかったら……。
もし次、SP入手した時は魔力操作取ろう。
そう心に誓った。
私は傲慢の支配者持ってるし。
で、そこから私たちの攻略スピードは上がった。
ときどき近接戦もしてたけど、それ以外はほとんど鈴音さんに任せたのが大きい。
「そろそろ休もうか。だいぶ進んだしね」
なるべく電池を温存するために電源を落としているスマホを取り出し、時間を確認する。
表示された時刻を見ると、既に17時を回っていた。
「うん、そろそろ休憩しよう」
逃げ道を確保し、ある程度の安全を確認してから座り込む。
私は基本荷物を持って歩くだけだけど、それでも景色に代わり映えがなく、変化がほとんどないダンジョン内を進み続けるのは辛い。
救いは一人じゃないから雑談相手がいること。
一人だったと思うと……ゾッとするなー。
「そうだ、これ柊さんとスズにも渡しておくよ」
蓮弥君がそう言って、血色の石をくれる。
『魔血石:魔物の数と距離に反応して発熱する石』
……これ、魔血石って言うんだ。
血石って宝石みたいな装飾用の石にあったよね?
翡翠とか瑪瑙もあるのかな。
休憩中は特に何もなく、20分経ってからまた出発した。
MPが半分を切るまでは魔法で倒して、相手が犬2体とかの場合は近接戦で戦う。
そんな感じで進むこと1時間。
ボス部屋を発見した。
なんでボス部屋ってわかるかって?
……通路の突き当たりに大きい扉があって。
その扉の前に看板があるんだけど、そこに『この先ボス部屋』って書いてあるんだよねー。
雰囲気壊れる……いやまぁ、ありがたい忠告だけどさ……。
もうちょっとこう、ね?
石板に掘るとかさ、あったと思うわけですよ。
うん。
まぁ、いいや。
ちなみに、まだ入る気はない。
休憩とか諸々挟んで、準備をできるだけ整えてから行こうと思う。
……それにしても、思ったよりも小さくてよかった。
二層構造で、猪突猛進すればギリギリ1日でクリア出来そうなくらいの大きさ。
私たちは慎重に移動したり、休憩を挟みつつだったから時間かかっちゃったけど。
「……あ、狂戦士カンストしてる。……転職可能だってさ」
突然、そんなことを言われる。
『名前:風雪 蓮弥
職業:狂戦士 Lv15/15
MP:0/0
SP:700
【ギフト】
〈否定〉〈交換〉〈同期〉
【コアスキル】
〈節制〉〈怠惰〉〈寛容〉〈分別〉〈深淵〉〈勤勉※〉
【ハイスキル】
〈献身〉〈忍耐〉〈謙譲〉
【スキル】
〈暗黒魔法Lv5〉〈治癒魔法Lv5〉〈魔力操作Lv2〉〈破壊攻撃Lv2〉〈狂化Lv1〉〈闇無効〉〈苦痛耐性Lv5〉〈痛覚耐性Lv1〉〈精神攻撃耐性Lv5〉〈気絶無効〉〈睡眠無効〉〈状態異常耐性Lv1〉
【称号】
〈節制の使徒〉〈怠惰の支配者〉〈寛容の使徒〉〈分別の使徒〉〈深淵の支配者〉〈献身の使徒〉〈忍耐の使徒〉〈謙譲の使徒〉』
見せてもらったステータスを見ると、確かにレベルがカンストしてて、SPが増えてる。
あと、破壊攻撃のレベルも上がってる。
自分のステータスも確認してみたけど、私はまだレベル3だった。
スキルにも変化はなし。
「私はまだ3。鈴ちゃんは?」
「私は……レベル13ですっ! 剣術と魔力操作のレベルも一個ずつ上がってますね」
……やっぱり基本見てるだけだから、私のレベルの上がりは遅いんだろうねー。
逆に言えば、ほんの少しサポートするだけで一応経験値みたいなのは加算されると思っていい……のかな。
「ギャンブラー……かなぁ」
私が考え事をしていると、蓮弥君が転職先を決めていた。
特に選択肢は増えなかったみたいで、最初に就職した時迷ったギャンブラーにするっぽいね。
「……よし、オッケー。じゃあ、ボス戦の相談と準備しよう」
そうして、蓮弥君の初転職はあっさりと終わった。
まぁ感動も何もないし、仕方ないね。
「……まず、主戦力は鈴ちゃんの魔法だよね?」
「……うん、そうだね。相手次第ではあるけど、僕はあくまでサポート的な立ち回りになるかな」
「それなら、フレンドリーファイヤを避けるために雷属性の対策したいね」
「ちょっと探してみる」
対策は蓮弥君の〈交換〉に任せて、私は鈴音さんから魔法に関しての情報を聞く。
雷走だったら体力の消耗、雷撃波だったら発動中動けない、とかそう言うこと。
……今日は疲れてるだろうし、MP的にも挑むのは明日になるかな。