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8 私にだってやれることはあるよ




 「ん? 階段……?」


 鈴音さんが起きてから、大体5時間くらい。

 朝食として蓮弥君が出してくれたパンを食べて、振り返りがてら少し休んで準備運動してから探索を始めたから、移動を始めてからはまだ4時間経ったかどうかくらいかな。

 ちなみにアンパン。

 飲み物は麦茶。


 昨日の反省を生かして、私が全員分の荷物を持つことになった。

 蓮弥君は前で戦うし、鈴音さんもいざと言う時に動けるようにしたほうがいいから。

 ちょっと重いけど、負担は軽い方かな。

 あと、蓮弥君の戦い方は私たちの精神的に負担が掛かるから、少し考慮してくれることになった。

 正直戦闘任せておいて何言ってんだって感じではあるんだけどね……。


 敵との遭遇は少なくて、結構歩いたけど戦闘自体は4回。

 犬1猫2蜥蜴1だった。


 「……だね。下に降りてくってことは正解の道じゃない?」


 私の言葉に、蓮弥君が同意する。

 やっと現れた変化。

 結構急な階段で、ぱっと見50段くらい。


 私たちの現状の目的はダンジョンクリアなわけだから、進めていると考えて良さそう。

 脱出にはクリアするしかないって情報がなければ出るために上を目指して引き返していたかもしれないわけだから、怖いね。

 ちなみに、嘘をつかれている可能性は切った。

 理由としては、一つがこんなことが出来る相手が私たちを騙すなら別に言葉で騙す必要がないこと。

 もう一つが、指示に従えばある程度の保証はされているんじゃないかって考え。


 そもそも人じゃない可能性の方が高いし、そんな考えが通用するのかはわからないけど。


 「降りようか」


 慎重に、ゆっくりと階段を降っていく。

 罠とかがあってもどうしようもないから、下で敵が待っている可能性を考慮して。

 それでも、出来るだけ警戒するけどね。



 ただ階段を降りるにしてはかなりの時間をかけ、下の階に着いた。

 ただただ長い一本道の先に、分かれ道がある。


 それにしてもこのダンジョン、何層構造なんだろう。

 出来れば2、長くても4くらいだと助かるんだけどね……。


 「……ん?」

 「どうしたの?」


 蓮弥君が突然立ち止まり、石を取り出す。


 「……いつもより温度が高い気がする」

 「近いだけじゃないの?」


 魔物が近付くと熱を帯びるという性質上、一定の熱量までは距離で上下する。

 でも、一定以上の熱さにはならない。


 「……いや、今までで一番熱いから、多分違う」


 ……あ。

 通路の奥に視線を向ける。


 その先から姿を表したのは、蜥蜴。

 しかし、今までと違う点が二つ。


 一つが、二体いること。

 今までは全て単体での遭遇だった。


 もう一つが、片方の個体が明らかに大きいこと。

 通常の個体が尻尾を抜いて30cmくらいなんだけど、大きい方は150cmくらいある。

 鈴音さんの身長に少し届かないくらいの大きさ。

 尻尾は綺麗に巻かれていて、全長はわからない。

 二体は並んでいて、通路を塞いでる。


 「……流石に厳しいかも」


 蓮弥君が笑みを引き攣らせ、呟く。


 「私も戦う」

 「……危なくなったら即撤退」

 「わかった」


 蓮弥君は露骨に嫌がったが、条件付きで鈴音さんの協力を受け入れた。

 ……私は直接関与出来る事がないな。


 「〈潜伏〉」


 この潜伏、一応パッシブなんだけど、アクティブでもあるみたい。

 普段は誤差程度だけど、MPを消費することで効果を強く出来る。


 邪魔にならないように、たまに蓮弥君の〈交換〉回避をサポートするのが私の役目。


 「〈雷走〉」


 最初に動いたのは鈴音さん。

 鈴音さんの足元に電気が走り、その光と共に物凄いスピードで突撃する。


 下がれ

 走れ

 翔べ


 「〈交換〉」


 鈴音さんが横薙ぎに刀を振るう瞬間、蓮弥君が鈴音さんと小さい方の蜥蜴を入れ替える。

 突然の移動に、蜥蜴たちの動きが一瞬止まる。


 その一瞬が命取り。

 並列に居た蜥蜴と位置を交換したわけだから、既に鈴音さんの射程範囲内。


 加速と共に繰り出される刀に反応が遅れた巨大蜥蜴は、顔を切られながらも丸めた尻尾をバネがわりにすることで跳躍。

 その代償に、尻尾を根本から断ち切られた。


 「〈交換〉」


 攻撃後の鈴音さんと、蓮弥君が入れ替わる。

 そのまま慣れた動きで斧を振る蓮弥君の攻撃を、蜥蜴は血の吹き出る推進力をおそらく魔法の効果で強化する事で躱し、こちらに突撃してきた。

 小さい方の蜥蜴は蓮弥君の相手をするらしい。


 「っぁ、はっ」


 雷走はかなり消耗するようで、鈴音さんは肩で息をしつつ、刀を構える。

 でも、振るのは間に合わなさそう。


 ……左、噛みつけ


 石を蓮弥君の方に投げながら、盾を構えて鈴音さんの前に割り込む。

 盾を蜥蜴の攻撃に合わせてタイミングよく少し前に突き出し、噛みつこうと口を開いた血塗れの顔を強打する。


 「せんぱい!」

 「お、も!」


 勢いそのままに衝突したことで盾に叩きつけられた蜥蜴の重量を感じつつ、更に地面に叩きつける。

 そのまま横に跳んで、あとは任せる。


 「〈雷撃〉」


 稲光のように刀を振り下ろし、伸びた蜥蜴を真っ二つに叩き切る。

 切断面が焼けたおかげで、血はほとんど出てこなかった。


 蓮弥君の方を見ると、ちょうど蜥蜴の首を落とした瞬間だった。

 返り血は浴びてるけど、寝起きに見た時ほどじゃない。


 「せんぱいっ! 危ないですよっ! もう今みたいなことはやめてください!」


 私がほっとしていると、鈴音さんに抱きつかれる。


 「私だって守られるだけの存在じゃないんだよ? それに、私が何もしなかったせいで鈴ちゃんが傷付くのは嫌だから」


 多分、心配してくれてるんだと思う。

 嬉しいけど、年下の鈴音さんに守るべき存在だと認識されてるってことだよね。

 確かに鈴音さんの方が強いけど、複雑な気分……。


 「柊さん、スズを守ってくれてありがとうございます」


 そう言って、近付いてきた蓮弥君は頭を下げる。

 でも、蓮弥君は一応〈交換〉で自分と巨大蜥蜴の位置を交換する方法があったから、一応対処できなかったわけじゃないんだよね。

 ただ、動いた私を見て任せてくれただけで。


 「うん、私も少しは役に立たないとね」

 「もう十分役に立ってますよ」

 「そうですよせんぱい! せんぱいが居てくれて、凄く助かってます!」


 二人から食い気味に言われて、少し照れる。

 ……それでもまぁ、一応勝算はあったけど。

 こんなこと、出来ればしたくないね……。

 命がいくつあっても足りなさそう。




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