7 傲慢
「んぅ……。ふぁ、ぁ?」
「あ、起こしちゃったかな」
目を擦りながら起き上がる。
目の前には、血塗れの蓮弥君が。
……。
いや、怖。
一瞬思考停止したよ。
でも、声を出さなかった私、さすがっ!
何でこうなった?
……あー、思い出した。
いや、意識が鮮明になって来たって言った方がいいかな。
伸びをしながら見回すと、そこら中血まみれだった。
……え?
魔物10体分はあると思うんだけど、この量。
戦闘があったとしたら、私危機感なさすぎじゃない!?
ぐっすりだったんだけど。
逆に凄いな。
それだけ疲れてた……ってことなのかなぁ。
「あー、おはよう。どのくらい寝てた?」
「おはよう。大体7時間くらいだね」
「そんなに? ごめん、それとありがとう」
隣を見ると、鈴音さんが可愛らしい寝息を立てながら体を丸めて寝ている。
起きなかったのは私だけじゃなかったみたい。
……でもまぁ、鈴音さんの場合は見てわかるほど消耗してたし仕方ないかな。
……あ、そうだ。
なんとなく膝枕してみる。
昨日のお返しで。
「気にしないでいいよ、寝れる時に寝ておいた方がいい」
……会話が途切れた。
……んー、やれることがないなー。
鈴音さんは出来れば休ませてあげたいし、起こすつもりはない。
「あ、蓮弥君も寝たほうがいいんじゃない? 疲れてるよね?」
「僕はいいよ。睡眠無効のおかげか眠気はないしね。体調にも変化はないから」
「……そう? でも、無理はしないで」
そう言っても、蓮弥君は微笑むだけ。
睡眠無効って言うけど、睡眠は精神的にも重要だと思うんだけどな。
……そう言えば、SP。
触ってなかった。
折角だし、見てみようかな。
これ、どうすればいいんだろ?
SPのところ触れば良いのかな。
『残りSP:100
取得可能
〈魔力操作Lv1〉〈話術Lv1〉〈睡眠耐性Lv1〉〈速記Lv1〉〈苦痛耐性Lv1〉〈集中Lv1〉〈統率Lv1〉〈解体Lv1〉〈気絶耐性Lv1〉〈傲慢〉〈演技Lv1〉〈予測Lv1〉』
正解だったみたい。
出てきたのは、12個のスキル。
その中で、明らかに他のスキルと毛色違う、〈傲慢〉。
蓮弥君の持ってた〈怠惰〉と同列だと思われる、七大罪の一つ。
……悩む。
今のところ、取るなら傲慢か魔力操作の二択。
理由としては、システムの核となるスキルが弱いわけないって思考。
でも、七大罪の名を冠するスキルとか、デメリットとかがあってもおかしくなさそう。
厨二心はくすぐられる。
……そして、こんな私にお似合いだよね。
もう一つの魔力操作だけど、就職で貰った〈精神攻撃魔法〉がこれ単体だと意味ないんだよね。
『精神攻撃魔法:精神に対して攻撃する魔法。Lv1 空白』
この空白はかけた相手の思考に一瞬、ほんの一瞬の空白を作るって魔法。
精神攻撃耐性を持ってる相手には多分ほぼ効かないじゃないかなー?
Lv1だし。
で、これを使う為に必要なのが魔力操作だと思うんだよね。
だから、この二択。
話術は今いらないと思うし、速記も同じく。
解体は解析内の分解があるし、演技も今のところ必要性を感じない。
予測はよくわからないけど、そこまで惹かれなかった。
統率は統率するものがないし、集中も……相対的にあんまり。
耐性系はありっちゃありだけどねー。
……決めた。
〈傲慢〉。
「っ」
傲慢を選んだ瞬間、脳を直接揺らされるような不快感が襲ってきた。
歯を食いしばって耐えていると、その揺れは数秒で治っていく。
……〈表示〉
『名前:柊 魔華
職業:催眠術師 Lv1/20
MP:7/7
SP:0
【ギフト】
〈解析〉〈記憶〉〈隠密〉
【コアスキル】
〈傲慢〉
【スキル】
〈精神攻撃魔法Lv1〉〈精神攻撃無効〉
【称号】
〈傲慢の支配者〉』
……精神攻撃耐性が無効になってる。
でも、まずは解析。
蓮弥君のは無理だったけど、自分のスキルなら解析不能じゃないかも。
『傲慢:支配者スキル。大罪の一つ。他者からの鑑定を自動妨害。神へと至る資格を得る。自身のスキル熟練度上昇に極大+補正』
『傲慢の支配者:入手条件/〈傲慢〉の獲得 効果/システム由来の精神攻撃時、システム内サポートを得る。傲慢の支配領域を解放。システムの支配権を一部取得。〈精神攻撃無効〉を取得。魂魄領域を拡大』
…………。
よくわからないことが増えた。
神へと至る資格に、傲慢の支配領域。
解析はうんともすんとも言わないし、これ以上詳しくは調べられない。
一応、わかったこともある。
七大罪スキルは、鈴音さんの〈雷帝〉とかよりも上位のスキルらしいこと。
鈴音さんのは準支配者スキルだったけど、こちらは支配者スキル。
あと多分、七美徳も大罪と同格かな。
他には鑑定妨害が支配者スキルの仕業らしいこともわかったね。
解除は出来ないみたいだけど。
この辺は今のところ考えても無駄かなー。
情報が足りなそう。
私は解析があるから良いけど、他の人たちはどうしてるんだろうね?
食料とかも私たちは蓮弥君がいるからなんとかなってるけど、他の人たちはそうも行かなそうだけど。
「ん……んん……ぉぁよぉ……」
そんなことを考えていると、鈴音さんが起きた。
ひどく寝ぼけるらしく、呂律も回ってないけど。
天才って言われてて、会う機会もほとんどないから心の中でどこか避けてたけど、こうしてみればただの女の子だねー。
かわいい。
……あ、落ち着くまで視界塞がないと。
今の不安定な鈴音さんに、寝起きでこの光景はかなりキツいだろうし……。