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5/50

5 就職するよ



 『じゃあ、今から配信を始めるよー? みんな準備はいいかな!』


 また、あの天使の声が聞こえてきた。

 ただ、今回は映像はない。

 私達の頭上を、黒い小さな球体が浮いている。

 これがカメラなんだろう。


 『あ、音声は入らないから安心してね! それじゃ、スタート!』


 なんとか、配信が始まる前に鈴音さんが落ち着いてくれてよかったと思う。


 「……鈴音さん、そろそろ離れて貰えない?」

 「せんぱいっ! スズって呼んでくださいっ」


 ……その代わり、やけに懐かれてしまったけど。

 いや、不完全とは言え立ち直ってくれたのは嬉しいし、仲間との関係が良好なのはむしろ良いことではあるんだけどね?


 今の鈴音さんの状態はあまりよろしくない。

 現状落ち着いているけど、完全に立ち直ったわけじゃなくて、かなり不安定。

 だからこそ、私に依存気味でここまで懐いているわけなんだけど。

 だって、落ち着いてから開口一番が『ごめんなさいっ! 嫌いにならないでくださいっ!』だったし。

 涙目で、かなり切羽詰まってる……鬼気迫る様子だったもの。

 負担が大きすぎたんだろうなー。


 ちなみに、私達はわりと血塗れ。

 二人は返り血を浴びたし、私は鈴音さんを抱きしめた時についたんだよね。

 魔物の死体はいつの間にか消えていて、その場には小さい水晶の様な透明な球体と、角が残されていただけだった。

 魔物が消えるなら、血も消してくれれば良いのにと思ったのは私だけじゃ無いはず。


 「スズは戦えないだろうし、僕が前に出るよ。柊さんは後ろの警戒をお願い」

 「……わかったわ」


 蓮弥君は、鈴音さんがおかしい事に気が付いているけど、放置してる。

 でも、気にかけていないわけではない。

 危ない事はさせないし、状況は理解してるんだと思う。


 そして、鈴音さんは蓮弥君が鈴音さんの状況をあえて無視している事を理解してる。

 更に、その事に鈴音さんは引け目を感じてる。


 こうなる前は関係が良好なんだと思ってたけど、そうじゃなかったみたいだねー。

 何かがあったことはわかるけど、私は踏み込むつもりがない。

 ……どうしてもやらざるを得ないならやるけどね。

 鈴音さんのトラウマも、そこに関係してるんだろうな。


 「……それにしても、こうなって来ると白き蜘蛛さん様様だね」


 白き蜘蛛とは、7年前に現れ、5年前にいなくなったとされている正体不明の人物だ。

 行った内容は、連続殺人鬼などの凶悪犯罪者の精神崩壊、自殺誘導に始まり、政治家や権力者などの悪事の暴露や自白強要、精神強制。

 基本的に標的は世間一般で悪とされている様な事を行なっていた人物。

 それでも、殺人を行なっている事に変わりはない。


 白き蜘蛛と呼ばれている理由は、標的にあった人物で生きている人物——精神崩壊した人物、人が変わった人物の大きく分けて二通りあるのだが、その全員が『糸』と言う単語を口にするから。

 そこに、正義の執行者ということで白、糸といえば蜘蛛で白き蜘蛛と誰かが呼んだのが定着した。

 ちなみに余談だけど、白き蚕派も居た。


 この事件があってから、悪事を行うと制裁が降ると信じる人が急激に増え、事件前と比べて犯罪発生率は超大幅に減少した。

 やっぱり、目に見えるってことは大事なんだろうね。


 話を戻すけど、そんなわけで、私達の映像なんかが出回ってもそこまで酷い事にはならない……と思いたい。

 様様と言うのは、そう言う事だと思う。


 「……じゃあ、いこうか。僕が危ないと思ったら、僕の視界に入るように適当に何か投げてくれると助かるよ」


 多分、〈交換〉で位置を交換する条件に自分の視界に入っている、的なものがあるんだろうね。


 「了解」

 「スズは任せたよ」






 そこからは酷かった。

 怪我を(いと)わず、突撃する蓮弥君。

 それは体育の成績が平均レベルだったとは思えないほど強くて、何回か攻撃を受けたりはしていたけど、今まで出会った7体の魔物を全て単独で撃破してしまった。

 おかげで蓮弥君の見た目は血みどろで、殺気の籠った眼光に見た目を合わせて殺人鬼のよう。


 魔物は6本足の犬っぽいやつが最初の含めて4体、二又の尻尾を持った猫っぽいのが2体、白い兎っぽいのが1体、やたら尻尾が長い蜥蜴っぽいのが1体。

 蜥蜴のやつが一番強かった。

 大体の魔物がすれ違い様の一撃で足を切られて、体勢を崩しながらの攻撃も〈交換〉で攻撃を躱されて。

 地面に倒れた所で首を落とされる。


 でも、蜥蜴は動きが早くて、初撃を尻尾で防いでから守りに入った。

 尻尾の再生が早くて、その光景が若干……いえ、結構気持ち悪かったけど、尻尾で攻撃と防御と上手くこなしてた。

 結局は蓮弥君が尻尾を切った直後に〈交換〉で肉薄して、噛みつかれながら攻撃して倒したんだけど。


 「……ぁ。そういえば、職業選んでなかったね」


 鈴音さんと手を繋いで蓮弥君の後ろを歩いていると、ふと蓮弥君が声をかけてきた。

 確かに、もう1時間以上経った気がするけど忘れていた。


 「じゃあ、就職しましょう」

 「それなんだけどさ、柊さんは催眠術師の方を選んでくれない?」


 私が職業欄を開く前に、蓮弥君に提案される。


 「なんで?」

 「人形使いってさ、人形がないと戦えなさそうじゃない?」


 ……そっか。

 確かに。


 「わかった。じゃあ催眠術師の方にするね。……ん?」


 なれる職業が増えてる。

 なんでだろう。

 ダンジョンで行動すると反映されやすいとか……?

 ……今はいっか。


 「職業欄に選択肢が増えてる」

 「……本当だ。僕も増えてる」

 「私も増えてます!」


 これは、再考が必要かな?


 増えた職業をまとめるとこう。


 私

・詐欺師:人を騙す事に長けた職業。〈演技Lv1〉〈話術Lv1〉を得る。言葉を介するスキル熟練度上昇に極小+補正

・アイドル

・傍観者:何もせず、ただ見ている者。〈視覚能力上昇Lv1〉を得る


 蓮弥君

・狂戦士:狂い、ただ目の前の敵を滅ぼす事を目的とする戦士。〈狂化Lv1〉〈破壊攻撃Lv1〉を得る。殺傷行為に対する忌避感が薄れる

・ギャンブラー:賭博師。〈運気上昇Lv1〉〈予測Lv1〉を得る

・武具職人:魔物の素材から武器、防具を作り出す職人。〈武具作成Lv1〉〈解体Lv1〉を得る。作成・解体に関するスキル熟練度上昇に極小+補正


 鈴音さん

・傍観者

・狂信者:何かを狂気の程に信ずる者。〈信心Lv1〉〈忠誠Lv1〉を得る。信仰に関するスキル熟練度上昇に微小+補正



 見たところ、蓮弥君だけ再考の余地ありって感じかな。

 私と鈴音さんの増えた職業は、今役に立たなそうなものと他と比較するとあまり惹かれないもの。

 後いいイメージがない。


 逆に蓮弥君のものは戦闘職、特殊職っぽいもの、生産職でかなり幅が広がった。

 ただ、武具職人以外はデメリットがありそうで怖い。

 と言うか、狂戦士の効果に関してはメリットもあるけどデメリットでしょ。


 「どうするの?」

 「んー、……狂戦士、かな。現状武具職人に必要性を感じない。ギャンブラーはありだけど……効果がわかるか分からないのがね」


 確かに、現状蓮弥君も鈴音さんも武器を持ってる。

 私も盾を貰ったし、今すぐ欲しいものじゃないかもしれないね。


 「うん、狂戦士で行くよ」

 「わかった。私も催眠術師で行く」


 職業欄を開いて、催眠術師を選択。


『〈催眠術師〉を選択します。 YES / NO』


 Yes、と。


 ……特に何もない、かな?

 〈表示〉


『名前:柊 魔華

 職業:催眠術師 Lv1/20

 MP:2/7 (催眠術師:最大MP+5)

 SP:100  (初就職:SP+100)

 【ギフト】

 〈解析〉〈記憶〉〈隠密〉

 【スキル】

 〈精神攻撃魔法Lv1〉〈精神攻撃耐性Lv1〉』


 変わったのは、職業欄、MP、SP、スキル。

 新しくわかったことは、自分にはLvがなくても職業にはLvがあること。

 初めて職業に就くと、SPが貰えること。

 ログとかは出ないこと。


 そのくらいかな。

 催眠術師はMPの最大値を上げるボーナスがあるらしいね。

 気になるのは、精神攻撃耐性が被ってたわけだけど、効果があるのか否か。

 ないなら勿体無いけど……現状わからないかなぁ。

 解析でも出なかったしね。


 「あ、せんぱい! そう言えば結局見せそびれていたので、これ見てください!」


 そう言って、〈表示〉の板……ステータスでいっか。

 ステータスを見せてくれる。


『名前:風雪 鈴音

 職業:剣士

 MP:120/120

 SP:100

 【ギフト】

 〈剣心〉〈雷帝〉〈深奥〉

 【スキル】

 〈剣術Lv1〉〈魔力操作Lv1〉〈回避Lv1〉〈雷無効〉

 【称号】

 〈雷の支配者〉〈深奥の支配者〉』



 ……私とだいぶ違くない?




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