4 初戦闘(ただし私は戦わない)
『魔鉄斧:魔鉄製の小型な斧。耐久性が高く、壊れにくい。無属性』
「これは特に命名みたいな事は書いてないみたい」
「武器だけが命名可能ってわけでもないんだね……」
血雷の解析結果を二人に話して、蓮弥君の斧も解析をお願いされた。
結果は私が貰った盾に近い感じ。
と言うか、無銘刀がイレギュラーだったんだと思う。
血雷の血液吸収やら、雷属性やらはどう言う効果なのかだけでも知りたかったけど、自分たちを切るわけにもいかなかったから一旦後回し。
本当は、使う前に調べるべきなんだけどね……。
如何せん、時間や余裕がないなー。
今のところ問題はないから、大丈夫……だと思いたい。
「そう言えば、先輩のスキルで武器とかが鑑定出来るなら私達のスキルとかも鑑定出来るんじゃないですか?」
「確かに! 全く気付かなかったよ……」
なんで気付かなかったんだろう。
普通なら考えついてもおかしくないのになー。
「じゃあ——」
「……敵来るかも、石が熱くなってきた」
「っ!」
鈴音さんの言葉を遮るように、静かに、しかし鋭い声が入る。
その声に反応して、鈴音さんがビクッっと体を跳ねさせ、通路の奥に視線を向ける。
「どっち?」
「……あくまで推測だけど、左」
「りょー、かい」
二人が武器を構え、臨戦態勢に入った。
左の方が分かれ道が近いから、左を警戒するのは正解だと思う。
……でも。
「右から来るよ」
現れたのは、六足歩行の犬のような魔物。
体が赤褐色で、頭には一本の角が生えている。
半開きの口から見える犬歯は鋭く、私の腕くらいなら貫通してきそうだ。
「……いざとなったら僕がなんとかする。スズは全力で行っていいよ」
「うん」
犬の魔物は私達に気がつくと、こちらに駆け出して来た。
鈴音さんが一歩前に出て、敵が近付くのを待つ。
……翔べ。
「……っ!ハッ!」
魔物が射程圏内に入るギリギリのタイミングで、鈴音さんが刀を水平に振る。
魔物は跳ぶことで回避を試みるが、避け切れない。
刀は魔物の足に吸い込まれ、見事に3本の足を切断することに成功した。
鳴き声と共に赤黒い血が吹き出し、体が滑るように地面に擦れる。
しかし、魔物の殺意は衰えるどころか勢いを増し、自身を傷付けた鈴音さんに吠えた。
「ひっ」
「〈交換〉」
瞬間、蓮弥君と鈴音さんの位置が入れ替わる。
そのまま蓮弥君が動けずにいる魔物の首に、斧を振り下ろした。
ドス。
魔物の生首が転がる。
「鈴音さん、大丈夫。落ち着いて」
私は動悸が激しくなってしまっている鈴音さんに駆け寄り、死体が見えない様に抱きしめて視界を塞ぐ。
「いっ。あ、ああっ」
「大丈夫、大丈夫だよ。鈴音さんは悪くないわ」
いくら天才だと言われても、日本人の女の子なのだ。
生き物を切る経験なんてほとんどないだろうし、生き物に本気の殺意を向けられたこともないと思う。
これが普通。
「あ……ぅ……」
「辛ければ吐いてもいいからね、大丈夫、私は味方だよ」
元々あった何かのトラウマに結びついてしまったようで、様子がおかしい。
……仕方ないか。
「……大丈夫だよ、スズ。スズは何も悪くない。スズは正しい事をしたんだよ」
「っ? あぅ……ごめ……さい……ごめん……なさい! わた、わたしの……せいで」
やっぱり、ちょっと騙してるみたいで気が引ける。
「いいんだよ、ほら、深呼吸して落ち着こう? 吸ってー、吐いてー」
私の声に合わせて、鈴音さんが深呼吸を始めた。
鈴音さんの頭を優しく撫でながら、後ろで死体を観察している蓮弥君を見る。
その様子は冷静そのものだし、生き物を殺すことになんの躊躇もなかった。
こんなに大量の血をみても、動揺の一つも無い。
「どこに……心臓? ……やってみるか。……ふッ!」
何かを呟いていたかと思うと、突然斧を持ち直し、解体を始めた。
解体自体は初めての様で綺麗なわけではない。
ないけど、普通知らない化け物に襲われて殺したから解体しようとはならないでしょう。
未だに不安定な鈴音さんに、この光景を見せるわけにはいかないなー。
鈴音さんの両耳もそっと塞いで、気がつけない様にする。
覆い被さるような体勢になってしまうけど、この際仕方ない。
……まだ、あれから30分経ってないよね?
戦闘自体は結構あっさり終わったけど、結構ダメージが大きい。
主に精神面の。
今の状態を配信されるのは、だいぶまずいと思うんだけど……。