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2 スキル




 気がつくと、白い空間に居た。

 上も下も白い。

 ただ、白い。

 それは目を覚ましたとかそう言うことではなく、本当に気がついた時には立っていた。


 「……ここは」


 「やぁ」


 突如、声がかかる。

 それは声変わり前の少年のような、しかしどこか大人びた、落ち着いている声だった。


 声の方へ視線を向ける。

 すると、先程まではなかったはずの雪のように白い、RPGの王様が座るような椅子に腰を掛ける少年がいた。

 白髪で、白い軍服のような衣装に白いブーツ。

 ほとんど真っ白で、彼の鶯色の瞳が目立つ。


 「自己紹介をしよう。ボクは……まぁ、君たちの言う所の天使って感じかな。リダとでも呼んでくれ」


 天使を名乗る少年は、微笑みながら言葉を続ける。


 「あはは、ここは何処かって顔をしてるね。ここは君の心の中みたいな物だよ。現実の君は、まだ意識を失ってる」


 心の中。

 それを聞いた瞬間、白一色の何もなかった世界が、酷く濁ったような気がした。

 後ろには複雑に絡まり合った幾つもの糸が現れ、壁の様に視線を遮っている。


 「まぁ、状況説明はこのくらいにして。君は先駆者に選ばれた」


 先駆者?


 「先駆者には特典としてスキルが与えられることになっていてね。君のは〈解析〉〈記憶〉〈隠密〉の三つだよ」


 特典?

 スキル?


 「詳しい事は向こうで調べてね。〈表示〉って念じれば出てくるからさ。……それじゃあ、君達が無事にダンジョンをクリア出来る事を祈ってるよ」


 その言葉を聞いた瞬間、意識が遠のいて行く。

 待って!

 色々聞きたい事が———











 「んぅ……ここ、は?」


 目を開くと、視界一杯に制服が見えた。


 「うあっ、きゃっ」

 「え? あ」


 ドス。

 驚いた拍子に何かから転げ落ち、頭を打った。

 痛い……。


 「ってて……」

 「先輩、大丈夫ですか?」


 頭を押さえつつ、顔を上げる。

 すると、鈴音さんが私を心配そうに見つめつつ、手を出したり引っ込めたりしていた。

 多分、撫でようかな、でも一応先輩だからあんまりそう言うの良くないかな、みたいな事を思ってるんじゃないかな。


 「うん……大丈夫」


 と言うか、私は鈴音さんに膝枕をされていたらしい。

 落ちるところがそれくらいしかないから多分そう。

 今思い返せば柔らかかった気がするし。

 ……膝枕をしていたなら、撫でるくらい今更なんじゃない?


 「あ、柊さん起きたんだね、良かった」


 後ろから蓮弥君の声が掛かる。

 振り向けば、奥から彼が歩いてくる姿が見えた。


 「兄貴、どうだった?」

 「駄目だね。人も居ないし通路が分かれてるだけだった。奥は続いてるみたいだったけど」


 二人が話している間に、状況の確認をする。

 ここにいるのは、私、蓮弥君、鈴音さんの三人。

 他の人はいなさそう。


 周りは薄暗くて、仄かに赤く光る岩肌の通路。

 そこに、私達はいる。

 落ちて来たはずなのに天井に穴はないし、光源は見当たらないのに光ってるし。

 明らかに普通じゃない。


 自分の体を確認しても怪我はないみたいで、頭の痛みももうない。

 二人を見ても、怪我をしている様子は見られない。

 あの亀裂、結構深かったんだけどなー。

 あんな高さから落ちて無傷なのもおかしい。


 ———ダンジョン。

 あの時言われた言葉。

 ここが、そうなの?


 「そっか……どうしよう、救助とか来るのかな」

 「……厳しいんじゃないかな。ここがどこかもわからないし、電波も通じてないから」


 蓮弥君の言葉にハッとして、鞄から自分のスマホを取り出す。

 彼の言葉通り、電波が通じていない。

 時計を見ると、校舎を出た時から既に6時間が経過していた。

 ……そう言えば、持ち物も全く傷付いてないね。

 無くなってるものもなさそう。


 「柊さん」

 「あっ、な、何?」


 急に話しかけるのやめて!

 驚くから!

 心の中で抗議しつつ、どもりながら返事をする。


 「柊さんも夢……見た?」

 「……夢って、あの天使の?」


 そう聞き返すと、彼は首肯する。

 あの、スキルとかダンジョンとか言ってた夢。


 「それじゃあ見たみたいだね。同じ事を聞かされたと仮定して言うけど、僕が貰ったのは〈否定〉〈交換〉〈同期〉の三つ。柊さんは?」


 貰った、と言った蓮弥君は、それがある事を疑っていない様子だった。

 ……そもそも、口ぶりからして全員似たような夢を見たってこと?


 「私は〈解析〉、〈記憶〉、〈隠密〉の三つらしいけど……」


 一応、答えておく。


 「解析に……記憶、隠密、ね。ありがとう」

 「……もしかして、試してみたの?」


 私がそう言うと、蓮弥君は頷いた。


 「うん。……これ」


 そう言って蓮弥君はポケットから赤い石を取り出した。

 赤、と言っても鮮やかな色ではなく、どちらかと言えば血の色のような、そんな色の小さな小石。


 「それは?」

 「魔物が近くに居ると熱を帯びる石……らしいよ? 〈交換〉で手に入れた。だから、少なくともスキルってのは本当にある」


 明らかに異常事態なのに、蓮弥君は微笑みを崩さない。


 「兄貴にはもう言ったけど、私は〈剣心〉〈雷帝〉〈深奥〉の三つでした」


 言葉に詰まった私が何も言わないでいると、鈴音さんが口を開いた。

 ……鈴音さんだけよくわからない感じのスキル名ねー。

 効果が想像出来ないって意味なら蓮弥君の〈否定〉あたりもそうかもしれないけど。


 「あ、そうだ。表示」


 まだ試してなかったなと思いつつ、呟く。

 ……あれ?


 「……柊さん、それ念じるって言われなかった?」


 あ、そう言えばそうだったかも。

 てへ。

 苦笑いを浮かべる蓮弥君から目を逸らしつつ、念じる。


『名前:柊 魔華

 職業:無

 MP:2/2

 SP:0

 【ギフト】

 〈解析〉〈記憶〉〈隠密〉

 【スキル】

 〈精神攻撃耐性Lv1〉』


 目の前に、半透明の薄い板が現れる。

 その浮かんでいる板には、私の名前やスキルが書かれていた。

 ……でも無職じゃないよ!


 「あ、出せたかな? それ、見せようと思わなければ他の人には見えないから」


 蓮弥君の言葉に頷きつつ、内容に目を通す。

 名前と職業は置いておくとして。

 MP……も置いておこう。多分凄く弱いんだろうなー。


 ギフト?

 贈られたから、ギフト?

 じゃあ下のスキルは元々あったか自力で習得したってこと?


『ギフト:天使から贈られるスキル』


 そんな事を考えていると、新しい小さな板が現れた。

 表示の板をそのまま小さくしたような感じ。


 うーん?

 これって、ギフトの詳細だよね。

 なんで出たんだろ?

 ……単語の詳細を知りたいって思ったから?

 じゃあ、スキルは?


『スキル:各々が習得した技能を可視化したもの。但しシステム由来の物は基本的にダンジョン内部でしか効果を発揮しない』


 システム?

 ……よくわからないけど、どうやら詳しく見れるみたい。

 色々見ていこう。

 まずは職業。


『職業:システム内の職業。選択出来る範囲は普段の行いなどによって増減する。就けるなら就いた方が良い』


 就けるなら就いた方が良いって……。

 スキル的なメリットでもあるのかなー?

 そう言えば、RPGでありがちな筋力とかのステータスはないけど、やっぱり可視化は難しいのかな。

 選択は後回し。


『MP:マジックポイント。一部のスキルなどを行使する際に使用。時間経過で回復する』


 ゲームとかにありがちなそのままの感じ。

 魔法とか使えそうだね。


『SP:スキルポイント。一定条件達成で獲得。スキルの取得に使用』


 ……その条件が知りたいのになー。

 まぁ、スキルを増やせるのはわかった。

 次は解析。


『解析:上位スキルの一つ。〈鑑定〉〈分解〉を内包する。システム由来の物を分解・鑑定する事ができる。思考能力に極小の+補正』


 え、怖。

 私が言うのもなんだけど、思考いじられてるみたいでちょっとやだ。

 ……多分、この詳細を見るのが解析の中の鑑定の効果なんだと思う。

 便利ではあるけど……まぁ、諦めるしかないか。

 ちなみに、この板は分解出来なかった。


『記憶:物事を忘れにくくなる。また、記憶破壊などの記憶への外部的攻撃の完全無効化』


 んー、まぁ、嬉しいんだけど。

 これも怖い。

 記憶破壊とか……などってことは近いものが他にもあるんでしょ?

 怖いわー。


『隠密:行動時、音が立ちにくくなる』


 シンプル。

 でもこれ、特定の状況だとデメリットにもなりえるんじゃ……?

 救助の人に気付いてもらえなくなるみたいな。


『精神攻撃耐性:精神攻撃への耐性。あくまでシステム的な精神攻撃への耐性の為、暴言などには適応されない』


 名前通りではあるけど、名前通りじゃない。

 文面的に、あくまでシステムの一属性への耐性って感じなんだろうねー。 


 「……見終わった?」


 私が顔を上げると、蓮弥君に聞かれる。

 少し集中しすぎていたみたい。


 「えっと、後職業だけ」

 「あー、そこは僕らもまだ決めてない。一緒に決めようか」


 少しでも情報は多い方がいいし、否定する理由もない。


 「うん」






 情報共有しながら纏めた結果、それぞれ就けるのはこんな感じ

 ちなみに、これは職業右の『無』の部分をタッチすれば就職可能な職業の一覧が出てきて、更にその名前をもう一回押せば詳細が出てきた。


 私

・高校生:高校生。MP増加に極小+補正

・催眠術師:催眠など、精神を誘導することを得意とする職業。〈精神攻撃魔法Lv1〉〈精神攻撃耐性Lv1〉を得る。MP増加に微小+補正

・人形使い:人形を操る事を得意とする職業。〈魔力操作Lv1〉〈魔力付与Lv1〉を得る。MP増加に極小+補正、人型への攻撃時ダメージに極小+補正

・指揮者:指揮を取る者。〈統率Lv1〉〈視力強化Lv1〉を得る。周囲のスキル熟練度上昇に微小+補正

・指導者:周りを教え導く、カリスマ的存在。周囲のスキル熟練度上昇に微小+補正


 蓮弥君

・高校生

・修行者:修行者。〈苦痛耐性Lv1〉〈精神攻撃耐性Lv1〉を得る。スキル熟練度上昇に微小+補正

・愚者:愚者。愚かな罪人。〈業火〉を得る。スキル熟練度加算に特大−補正


 鈴音さん

・中学生:中学生。MP増加に極小+補正

・剣士:剣を使う前衛アタッカー。〈剣術Lv1〉〈回避Lv1〉を得る。剣術に関連するスキル熟練度上昇に小+補正

・剣術家:剣術の道を進む者。〈剣術Lv1〉〈集中Lv1〉を得る。剣術に関連するスキル熟練度上昇に小+補正

・雷魔法使い:雷属性専門の魔法使い。〈雷魔法Lv1〉〈魔力操作Lv1〉を得る。雷属性に関連するスキル熟練度上昇に微小+補正、魔法に関連するスキル熟練度上昇に極小+補正

・指導者

・アイドル:カリスマ的存在。人気者。〈歌唱Lv1〉〈付与Lv1〉を得る。周囲のスキル熟練度上昇に極小+補正



 まず私から。

 候補は5つだけど、まず人形使いか催眠術師のどちらかにすることに決めた。

 高校生は多分高校生なら誰でもなれるやつだと思うから除外。

 指揮者は私が指揮を取っても意味がほとんど無いと思うし、寧ろ足を引っ張りそうだから除外。

 指導者はもっと大人数の時に真価を発揮するタイプだと思ったから除外。


 で、結局選んだのは人形使い。

 理由は元々精神攻撃耐性を持ってるからってのが大きい。

 他にも理由はあるけど、まぁそれは良いでしょう。

 ……正直、皮肉られてるみたいで気分が悪い。


 蓮弥君は修行者にするみたい。

 まぁ、愚者とか明らかに見えてる地雷だしね……。


 問題は鈴音さん。

 中学生と指導者は除外して、残り4つから選ぶことになるんだけど、多分アイドルは選ばない。

 即除外しなかった理由は、多少珍しい職業の可能性があったから。

 指導者は私にもあったけど、アイドルは鈴音さんだけだ。


 「……スズ、剣術家と剣士だったらどっち?」

 「んー……今の状況を考えて剣士、かな」


 確かに、システムに前衛アタッカーと明記されている訳で、多少戦えることは窺い知れる。

 人形使いって多分後衛だよね?


 「雷魔法使いだと、前衛がいなくなるかも」


 修行者は戦闘職じゃないと思うんだよね。


 「それはまぁ、僕が前出るだけなので」

 「決めた! 私剣士にします! 兄貴に前は任せられませんから!」


 突然割り込んできた鈴音さんに、蓮弥君が苦笑いを浮かべている。


 「まぁ、後悔しないならいいよ」

 「しないよっ!」

 「……じゃあ、決まったし。選択しようか」


 蓮弥君の号令で、私は人形使いを選択する。


 「「……あれ?」」


 私と鈴音さんの声が重なる。


『就職条件を達成していません 職業機能解放まで01:11:34』


 ……出端を挫かれた気分だよ。




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