12 ダンジョンクリア
『ダンジョンクリアおめでとう! 君たちが地球上で最初のダンジョンクリア者だよ!』
目が覚めた直後、目の前に映し出された映像に映るリダにそう言われる。
『あ、今は配信してないから安心してね、それと、そっちの声も聞こえるよ!』
「……なら、後にしてください」
先に、状況確認をしたい。
ダンジョンクリアというからにはルイナは倒せたんだとは思うけど、その後どうなったのかがわからないし。
私が覚えている最後の光景は、鈴音さん……鈴ちゃんがルイナにトドメを刺したところ。
久しぶりの能力行使で破魂は無理しすぎた。
今の私は、全盛期に比べるとだいぶ衰えてるからなー。
例えるなら、サッカー選手が足を骨折して、ろくなリハビリせずにいきなり全力でプレイする……みたいな感じなのかな。
周囲を見ると、巨大な水晶玉に、ルイナが持っていた血色の剣。
壁にもたれかかっている蓮弥君と、私とほぼ同時に起きたのか、目を擦っている鈴ちゃん。
「鈴ちゃん、大丈夫? 怪我とかない?」
私を守るために全力でルイナと戦ってくれていたわけだから、何かあったなら私に出来る範囲でなんとかしなきゃいけない。
「せんぱい、私は大丈夫ですよっ! せんぱいこそ大丈夫ですか?」
元気そうだし、傷もなさそう。
……それはそれでおかしい気がするけど。
「私は……まぁ、大丈夫」
破魂の代償で結構辛いけど、まぁ気付かれはしないでしょ。
具体的には、精神干渉を使った時に全身に激痛が走るのと、喀血することがあるのと、常に心臓の辺りが痛いくらい。
「……本当に、大丈夫ですか?」
少し言葉に詰まったせいで、疑われたかもしれない。
心配そうな表情で、上目遣いで覗き込んでくる。
「うん、本当に大丈夫だから、ね?」
逃げ道を探して、視線を彷徨わせる。
……そう言えば、蓮弥君が一番起きるの遅いなんて珍しい。
気絶無効と睡眠無効を持ってたし、すぐに起きてもおかしくないような?
「……あれ?」
よく見ると、全く動いていない様に見える。
寝てるからとかそう言うことではなくて、呼吸すらもしていないような……。
「お兄、ちゃん……?」
鈴ちゃんも蓮弥君の異変に気が付いたようで、駆け寄り手を取る。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
顔を青ざめ、蓮弥君に呼びかける。
……。
反対側の手を取ってみると、恐ろしく冷たかった。
思い返すのは、蓮弥君が剣を取りだした時の言葉。
「……全てを捧げる、ね」
それで君が死んだら意味ないじゃん。
「っ」
一応、精神干渉で調べてみたけど、死んだと言う事実を補強するだけだった。
『ねぇ』
「彼を生き返らせたくない?」
蓮弥君の冷たい手を包む私の手の甲に、真っ白な羽が落ちた。
伏せた目線を上げる。
「……リダ。どうにか出来るの?」
出来るのなら、したいに決まってるじゃない。
「うん、出来るよ。本当はボクも彼を殺すつもりはなかったんだけどね……流石に寿命全部を賭けるとは思わないじゃん?」
「……蓮弥君が交換スキルで使ってたの、やっぱり寿命だったの?」
あの時、聞きそびれてしまったこと。
「その通り。あとは、味覚だね」
「私に出来ることならなんでもするっ! だから、お兄ちゃんを!」
「あぁ、それは簡単だよ。彼の掌に、ルイナ撃破報酬の水晶玉を置くだけ。彼は担保みたいな感じで前借りしてたから、それで帰ってくるはずだ」
それを聞いた鈴ちゃんが、急いで水晶玉を拾いに行く。
「……ってことは、魔物を倒していけば蓮弥君の味覚とかも戻るかもしれないってこと?」
「そうだね」
ひとまずほっとする。
それなら、なんとかなりそうだ。
「お兄ちゃん、帰ってきて……!」
水晶玉を手の上に乗せると、淡い光と共に消え、蓮弥君の心臓が動き出す。
「一応魂は保護出来てるからこれで問題ないけど、せっかくのダンジョン攻略者だし、治療しておくね。〈再生〉」
みるみるうちに生気が戻り、ゆっくりと体が発熱してきた。
「……うん、大丈夫そうだ。彼が目覚めるまでは待ってるから、そばにいてあげるといい」
「っ……あ、れ? 死んだはずじゃ……」
「お兄ちゃん! よかった……本当に……」
それから数分で、蓮弥君は目覚めた。
混乱してる様子。
「蓮弥君、無茶しすぎだよ……」
「……大体把握したよ、僕なんか放っておいてくれてよかったんだけ」
「ばかお兄ちゃん! 私をおいていかないでよぉっ!」
蓮弥君が言い切る前に、鈴ちゃんが言葉を遮って泣きながら叫ぶ。
流石に悪いと思ったのか、蓮弥君は鈴ちゃんの頭を撫でながら、黙って言葉を受け入れていた。
「……さて、そろそろいいかな?」
一頻り泣いて落ち着いた鈴ちゃんを見て、リダがそう話しかけてくる。
「私は」
「僕も大丈夫」
「私も大丈夫です」
全員が頷いたことを確認し、リダが話だす。
「まず、ダンジョンクリアおめでとう。君たちは正真正銘、地球上初のダンジョン攻略者だ」
私は起きた時に聞いたけど、二人は聞いてないから少し驚いた様な表情を浮かべる。
「そして、そんな君たちには報酬がある。まず、SP1000。好きなスキルを取るといいよ。次に、称号先駆者。これは後で確認してね。」
SPは普通に嬉しい。
称号は効果とかあるんだろうけど、後で見ろって言われたからスキルを取る時に一緒に確認しようと思う。
「三つ目が、僕に対する質問権。一人一つね。称号の下に専用の欄を作っておいたから。最後に、レベルの解放」
質問……。
これは慎重にいきたいところ。
あと、レベルの解放ってどういうことだろ?
職業の上限レベルが上がるとか?
……あとで見ればわかるか。
「これが報酬なんだけど、ここからが相談。君たちのダンジョン攻略を動画化するにあたって、一応削って欲しい部分の要望を聞こうと思ってね」
「ボス戦」
「それはダメ」
蓮弥君の希望は、即却下された。
……私はボス戦以外、特に削って欲しいところはないかな?
「休憩中とか?」
「それは了解したよ。他にはある?」
鈴ちゃんの要望は無事通ったみたい。
配信されてて今更な気はするけど、確かに休憩中とかは見せないで欲しいかもしれない。
「私は大丈夫」
「僕もまぁ、大丈夫」
「私も大丈夫です」
「じゃあ、このくらいかな。そこの渦に乗れば出れるから、忘れ物がないようにね。それじゃ」
そう言い残すと、リダは数枚の舞い落ちる羽を残して消えた。
忘れ物……斧と剣くらいか。
「剣、誰が持つ?」
「私は血雷があるから」
「私はいいかな。蓮弥君が持てばいいと思うよ」
持ってても使いこなせる気がしないし。
「じゃあお言葉に甘えて」
そう言って、斧と一緒に回収する。
……他はないかな?
「大丈夫そう?」
「うん」
よし、じゃあ。
「帰ろう」
渦に乗ると、青い光に包まれる。
その光が消えたかと思うと、そこは校門前だった。
新聞記者や報道機関、警察、野次馬など、多くの人で囲まれている。
そのほとんどが唖然として動けていない。
「魔華ちゃん」
「あ、清水さん。お久しぶりです」
清水さんは、私が精神干渉を使いまくっていた時に知り合った女性警官。
最近は関わりがなかったけど、知ってる人がいてよかった。
「今はいいから、こっち」
清水さんの誘導に従って、黄色いテントの中に入る。
……さて、忙しくなりそうだね
これにて一章終了です。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
少し駆け足すぎた気もしますが、長くてもなぁと思ってもいるのでもしご意見・ご感想ありましたら、ぜひ遠慮せず感想にて教えていただけると嬉しいです。
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このあとは掲示板回・閑話を挟んでから二章に行きます。