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復讐編18.5話 幕間「イブの視点」

18.5話と19話の投稿順を間違えてしまったため、2022/6/2に入れ替えを行いました。

18.5話は幕間話なのでどちらから読んでも不都合はありませんが、ブクマ位置が変わってしまっているかもしれません。

ご不便お掛けして申し訳ありません。

「イブリン・プロヴェニア様、書状をお届けにあがりました」

「うむ、ご苦労だったな」


 正午過ぎごろ。

 ニクスオット家から使者がやってきて、一つの書簡を私に手渡した。

 手紙の内容は、なんとなくわかっている。

 カンナが計画し、スルガ様に実行させているというパーティの話だろう。


「ほら、カンナ。お前が持っておけ」

「ん」


 カンナは私から手紙を受け取ると、ソファに腰掛けながら封を切り、中身を読んでいた。

 きっと想像通りの内容だったのだろう、(ほど)なくして彼女は席を立って支度(したく)を始めた。


 事前に用意していた水色のマタニティ・ドレス。

 ワンピースタイプで、体形が目立ちにくいデザインのものだ。

 カンナは腹の部分にに何やら詰め物をして、そのドレスを身に(まと)っていた。


「これで妊婦に見えるっしょ」

「確かに見えるが、腹に詰めたのは何だ。天幕のように見えたが」

「へへ、これが無いと死んじゃうんですよ。私の計画だとね」 


 なんだかよくわからないが、秘密兵器ということなのだろう。


 続いてカンナは念入りに化粧を始めた。

 化粧の必要もないほどに整った顔をしているので、普段はすっぴんだそうだ。

 ──自慢かな、嫌味かな。いや、彼女の場合は無自覚だろうな。


 カンナの化粧はどちらかと言うと、変装の意味合いが強いように思われた。

 私の顔を参考にしながら、だんだんと“イブリン・プロヴェニア”っぽく仕上げていく。

 より彫りが深い顔に見えるよう、影となる部分に色を乗せていく。

 普段化粧をしないと言う割には手慣れた様子である。

 彼女にとって、変装自体は日常的なものなのかもしれない。


「うむ、これでよし」

「お。終わったのかカンナ」


 カンナは化粧が終わると姿見で念入りに自分の姿を確認していた。

 事前に金に近くなるよう染めておいた髪は、しかし私のものとは少し色味が違って見える。

 やはり元の白銀の髪の印象が強く出てしまっているのだろう。


 まあ、仮面舞踏会の会場には私と直接対面したことがある者はほとんどいまい。

 仮面をしてしまえば正体を悟られることも無いだろう。


「イブ先輩、そこのサングラスとってください」

「これか? あまり色味が強くないようだが大丈夫か」


 私はカンナにダークブラウンの色ガラスがはめ込まれたサングラスを手渡した。

 濃い色合いとはいえ完全なる黒ではないから、僅かばかり瞳が見えている。

 カンナは頭頂眼こそ私と同じ紅色だが、左右の眼は黄金色だ。

 瞳が見えるのはまずいのではないだろうか。


「完全に目元が隠れていると、逆に“本人確認のために外せ”って言われるかもしれない。だからあえて目元が見えるようにしておくのですよ。実際、色はわからなくなったでしょ」

「なるほど、策士だな」


 カンナは親指を立てて見せた。

 私にはそれが何を意味するジェスチャーなのかよくわからない。


「カラコンがあったらベストなんだけどなー。それはさすがに無理か」

「からこん……?」


 カンナは時折、よくわからない名詞を使う癖があった。

 どこか異国の言葉を引用しているのか、あるいは自ら作った造語なのかは不明だ。


「やっぱり、(そで)は少し余るな」

「仕方ないだろう。金属魔法で背丈は延長できても、腕までは伸ばすことはできないからな」

「自由に動かせる義手とかないですか」

「あるわけないだろう、そんなもの」


 手を動かす必要が無いのであれば義手を用いることもできただろうが、パーティーの場においてはそうもいかないだろう。

 故に腕部だけは小細工無しで行かなければなるまい。


 しばらくあーでもない、こーでもないと衣装を微調整しながら数分が経過する。

 やがて身支度(みじたく)が済むと、カンナは自分の両頬をぺしゃりとはたいた。


「気を引き締めろ、今の私は、私じゃない。帝国派の新入りとしての役を演じ切らないと」

「……」


 私としてはバレないか心配で心配で仕方ないのだが。

 なにせ、途中で正体が露見してしまえば私の身も危ない。

 私への招待状を使い、私に変装した者がいたとなれば、共犯を疑われて当然の立場となるからだ。


 カンナはマイコ様に会うことが目的だと言っていたが、それはきっと違う。

 最終的にはニクスオット家を破滅に追い込む腹づもりでいるはずだ。


「気を付けろよ、カンナ」

「ああ。行ってくきます、イブ先輩」


 彼女は陽光の中へと一歩踏み出した。

 それは彼女にとって、人生を賭けた大勝負への第一歩であり、同時に引き返すことのできない境界線を超えた証でもあった。


 私は薄く開いたドアの隙間から、カンナが見えなくなるまで見送った。

 彼女の後ろ姿を、目に焼き付けるのだ。

 ロキの見ることができなかった、戦うカンナの姿を。


「──さて。私も準備をしないと、だな」


 私は手提げ鞄にまとめておいた荷物を持った。

 たったこれだけだ。私の私物など、これだけ。

 ──ふ、と私は自嘲気味に笑った。


 壁に立てかけてある剣を見る。

 これは、私のものではない。

 フェニコールの騎士に任じられたときに、ジャンに手渡されたものだ。

 いずれはフェニコールに返すべきもの。

 それを、裏切り者の私は未だに持ち歩いていた。


 子を産んだら、返しに行こう。

 今はどこにいるかもわからない、主君の娘にして我が友人の元に。

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