表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

企画に沿って書いた童話

梅かおる、星ながる

作者: 瑞月風花

 

 赤のお守りは梅の花、白のお守りは星の絵柄。

 御利益があるらしく、好いた相手にお守りを渡せば、成就するという二つ一揃えのお守り。

 大鳴川(おおなるかわ)にいらっしゃる龍神様を祀る大鳴神社(おおなきじんじゃ)は、恋愛成就の神様を祀る神社として名高い。

 神社の境内には梅の木が、近くには大鳴川が流れている。梅の木が風に香れば心地よく、大鳴川のせせらぎを聞けば、安らげる。

 何度も橋が流されて、とうとう人柱を建て、怒りを治めることのできた龍神様だというにもかかわらず、その様子はかつて荒れ狂う龍の棲まう川であったとはとうてい思えまい。


 人柱にされた娘の名は「梅」という。

 梅は一日のうちで光を失う時間がかなりあり、よく転ぶ娘だった。だから、梅の足は擦り傷だらけ、手もあかぎれだらけ。仕事では叱られることも多い娘だった。

 そんな梅の楽しみは、お使いの途中にここにきて、疲れた足を大鳴川に浸し、その流れを感じ、川に棲まうという龍神様と語らうこと。

「龍さまはいつも穏やかでいらっしゃいます。だから、梅はこうしてここで川の音を楽しむことができるのです」

 暖かい日射しの中で、梅は目を伏せて自然な微笑みをその水面にこぼした。

 水面は光に輝き、龍は静かにそっと梅の足を清めてやるのだ。

 見えない相手にからかわれる梅と、理由なく畏れられる龍にとって、それは、二人だけの大切な時間だった。


 年頃になった梅が悲しそうにやってきた。

「龍さま、梅は明日、川向こうの庄屋さまのところに行くことになりました」

龍は優しい娘が口減らしのために売られるなんて露も思わない。だから、龍はその様子を不思議と思い、梅に声を掛けた。

「梅は、どうして泣いているのだ?」

「龍さまとお別れしたくありません」

「そうか……」

 龍も梅と別れたくなかった。


 次の日から、まるで滝のような雨が降り続き、橋を流すほどの激流が大鳴川に流れるようになった。

 橋が流されれば晴れ渡り、橋が架けられれば、雨が降り続く。

 梅は川を渡ることができず、梅の両親は途方に暮れた。

 何度も橋は架けられて、何度も流された。とうとうお城の殿様が人柱を建てることにうなずいた。

 人柱として名乗りを上げれば、金十両。

 目の見えない娘の食い扶持すら賄えない両親は、金十両のために梅を差し出した。


 梅を柱にした橋が完成したその日。

 それは寒い寒い冬の出来事だった。大鳴川の川面から白い龍が姿を現すようにして、風が水を噴き上げたという。その風は暴れ狂うようにして橋にぶつかり、砕け、町を通り抜けたあと、天へと昇った。

 晴れた夜空を見上げたひとりの(わらし)が母の袂をひっぱった。

「おっかぁ、空が泣いているよ」


 空には大量の星が流れていた。川は二度と荒れ狂わなかった。大鳴川に架けられた橋は二度と流れなくなった。


 ここには龍神様を祀る神社がある。

 赤のお守りは梅の花。白のお守りは龍の流した星の涙。

 結ばれなかった二人に代わり、二つのお守りは寄り添い続けることを望んでいる。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 美しい物語でした。 神と人。常識の違いが生み出す悲話。 胸が痛くなると同時に、救いも求めてしまいます。 龍の滝昇りならぬ星昇りは、龍の哀しみとも共に過ごせる喜びとも捉えられ、そこがまた美し…
[一言] 悲しいけれど、とても美しいお話だと思います。 それと、私もこまの様と同じように、梅の魂は龍神様に連れられて、天へ昇って行ったと思いたい、いや、そうに違いない、きっとそうだもん(涙)
[気になる点] 人柱にお金が、しかも10両という大金が! これは貧民がこぞって子供を差し出しそうです。 悲恋にくだらない感想をごめんなさい。 [一言] 魂は結ばれたかも知れませんね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ