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お題「体調不良」

体調不良中の友人からいただいたお題



パタン



扉が閉まる音が聞こえた気がしてふと意識が浮上する。

痛みを伴う鈍く霞んだ頭で見慣れた天井を眺めていると「あ」と聞き慣れた声がした。



「すみません、起こしてしまいましたか?」



視線を向けると銀のフレームの向こうで、いつも冷静な瞳が今は灯に照らされ、どこか申し訳なさそうに揺れていた。



「どこか行ってたの?」

「何か食べられるものを、と。ちょっとそこまで。体調はどうです?」

「頭も身体も痛い…」



頭はズキズキ、身体はキシキシ。

異なる痛みに思わず弱音がこぼれた。


いつもは柔らかく感じるベッドサイドの灯りが酷く眩しく感じて瞼を閉じた。

するとそれに気付いてくれたかのように瞼の向こうで光源が落ち、馴染み深い手のひらが額を覆った。



「まだ熱も高いですね。明日になっても下がらなければ、もう一度病院へ行きましょう」

「……大丈夫。今日行ったばっかだし、ただの風邪だったし…」

「それでも、です。行きたくなければしっかり養生して、早く治すことです」



不満気な顔をすると「何を当然なことを」と言いたげなすまし顔が廊下から漏れる光に照らされていた。

この年上の恋人はいつも冷静で、私はたまにひどく自分が子供のように感じてしまう。


けれど、そうして甘えさせてくれてるのだと思うと嬉しくなってしまうのは、やはり惚れた弱みというやつだろうか。



そのときーー開いた扉の隙間から、なにか焦げたような匂いがした気がした。



「ん…?なんか、焦げ臭い?」

「……気のせいですよ」



なんだ今の間は



不思議に思って視線を向ければ、ソレを避けるように顔を背けられた。



「それより、いろいろ買ってきました。何か食べられそうなものはありますか?」

「あんたが作ったやつがいい」



ガサガサと袋を漁っていた手がぴたりと止まる。

こんなにわかりやすい彼を見るのも珍しい。


体調は最悪だけれど、なんだか楽しくなってきた。



「今から作れとでも?俺が料理をしないことは、あなたも知っているでしょう」

「今から作らなくてもいいよ。もう作ってくれてるやつで」



そう言うと、彼は綺麗な切れ長の瞳でギロリと睨みつけてきた。

滅多に見られない彼の動揺している姿につい口角が上がる。



「それしか食べられないなぁ〜。じゃないと薬も飲めないし。頭も身体も痛いのに〜。あー、痛い〜だるい〜しんどい〜」



本音も交えながら駄々を捏ねてみた。

すると彼は、肺の中の空気全てを出しているかのような大きな大きな溜め息を吐くものだから、思わず吹き出してしまう。



「全く…、あなたと言う人は。あんなもの食べたら、余計に体調を崩すから駄目です」

「えー」

「どうしてもというなら、今から作り直します」

「それも食べるし、今あるのも食べる」

「何を言ってるんですか」

「だって、私のために作ってくれたんでしょ?」



そう聞くと白磁の肌が仄かな灯に照らされた先で少しだけ赤らんだ。


そんな姿も珍しくてますます笑みが深くなってしまう。

それと同時に、胸に熱い想いが込み上げてきて、思わず涙腺が少しだけ緩んでしまった。



「あんたの愛情たっぷりのご飯食べたら、きっとすぐ良くなるよ」

「……ばか」



ため息と共に呟かれた言葉は、赤くなった肌を隠すように覆われた手の中で、小さな呟きとなって私の耳に届いた。








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