#新刊書き出しお題
ゆーくの新刊は『 私は頭がどうかしてしまったんだろうか。この男がどうしようもなく可愛く見える。 』から始まります。
#shindanmaker
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私は頭がどうかしてしまったんだろうか。
この男が、どうしようもなく可愛く見える。
「なぁに見てんだよ」
「クソうざい」
「口悪すぎんだろ」
ケラケラと笑いながら姿勢悪く書類を眺める男は相変わらず何もかもが軽薄だ。
バサバサと音を立てて書類を捲る手に本当に読んでいるのかと疑いたくなるがこれでしっかりと内容を把握できているのだから癪に障る。
飄々としていて軽薄さが服を着ているような男だが、仕事はできるし部下の信頼は厚く上司からの覚えも良い。
しかし、その態度と実績のギャップは同期たちの反感を呼ぶのもまた事実である。
何を隠そう私もその反感を持つうちの1人なのだが、
「西地区の警備はどうなってんだ?」
「問題ないわよ。私のとこと第三で対応できる」
「そう言って前に失態犯したのはどこのどいつだよ」
「人の失敗を掘り返すような男はモテないわよ」
「そりゃ俺には当て嵌まんねぇなぁ」
尊大に鼻を鳴らすこの男が癪に障って仕方なかったのに、昨夜目にした光景が頭にチラついて、どうも今日は腹も立たない。
『おまえまだウジウジしてんのかよ。らしくねぇなぁ』
『っせぇな!コッチは本気なんだよ!後先考えず突っ込めるか…っ』
『良い男風に気取ってっから、惚れた女になりふり構わず突っ込めなくなんだよ』
『気取ってねぇよ!!』
日付が変わる頃合いのなか、誰もいないはずの執務室で2人の男の声が耳に入ったのは昨夜のこと。
提出期限の日付に不安を覚え確認のために執務室に赴いたものの、誰も居ないと思っていたから心底驚いたものだ。
そして、内容柄話に入るのも悪い気がして咄嗟に気配を消して話が終わるのを待とうとしたのが悪かった。
開いた扉の隙間から覗いた室内には見知った男が2人。
常に鼻につく癪に障る男とその男の右腕と言われている男。
普段から嫌でも顔を合わせる2人にげっそりとした思いを抱えたのも一瞬だった。
『あいつが真面目すぎる男は息苦しいっつうから…っ』
『それで適度に不真面目にしてたら遊び人のレッテル貼られたんだろ?もう何遍聞いたと思ってんだよ。耳タコ』
『てめぇが気取ってるっつうからだろ!?』
『気取ってようがなかろうがお前が素人童貞には変わりねぇよ』
『っるせぇよ!!』
いつも人を馬鹿にしたような飄々とした態度しか見せなかった男がめちゃくちゃイジられてる。
灯りに照らされた顔は薄暗い中でもハッキリとわかるほど赤く染まっていた。
昨夜の衝撃的な姿を思い出しながら目の前の男をマジマジと眺めてみた。
着崩した軍服に襟足を遊ばせた長めの髪。
整えられてる眉を器用に上げて口角が僅かに上がる姿は、やはり軽薄さを如実に現している。
「…だから、何見てんだよ。おまえも俺に惚れたんか」
「……」
ニヤリと笑う自意識過剰な態度に普段なら腹も立つのだが…
「あんた、本命の女いるんだ」
「はっ!?」
余裕たっぷりに笑っていた顔が崩れた。
色素の薄い肌を真っ赤に染めて、言葉にならないかのように口をパクパクさせている間抜けな顔。
あぁ。
私はやっぱり頭がどうかしてしまったらしい。
この男、どうしようもなく可愛いじゃないか。




