後編
大きな牛は、ネズミをのせてすすみはじめました。ネズミは、ふかふかの毛の中に入っているので気もちよさそうです。
「ねえねえ、牛さんはゆっくりすすんでいるのはどうして?」
「はっはっは! ゆっくりすすめば、ネズミだってわしの体からおちないですむでしょ」
ネズミは、ウサギが作ってくれるおもちが早く食べたくてたまりません。頭の中で思いうかぶのは、ウサギたちがうすでおもちをついてくれるようすです。
おもちを食べるところへ目さしてあるきつづける大きな牛ですが、その前にはシマネコがまちかまえています。
「へっへっへ、この先へ行くんならだれがのっているのかたしかめてもらうぜ」
シマネコの声は、毛の中にかくれているネズミの耳に入ってきました。ネズミは、声を出さないようにじっとすることにしました。
「ど、どうしよう……」
ネズミがおびえる間、シマネコは大きな牛のまわりを回ってはにおいをかいでいます。すると、ネズミのいる近くの牛の毛の前で立ち止まりました。
「どうもへんだなあ。牛のにおいとは明らかにちがうにおいをかんじるぞ」
シマネコは、ネズミが牛の毛の中にかくれているのではとうたがっています。もし、シマネコに見つかったらネズミはすぐに食べられてしまいます。
そんな時、大きな牛はネズミをまもろうといきなりはやく走り出しました。
「うわっ! わわわっ!」
「ネズミ、わしの体からおちないようにつかまっておくんだぞ」
今までのんびりしていたのとはちがって、大きな牛はものすごいはやさですすんでいます。おこったシマネコもその後をおいかけようと走っていきますが、ネズミをのせた大きな牛はいつの間にか遠くへ行ってしまいました。
「せっかくのえものが……。く、く、くやしい~っ!」
シマネコは、せっかくのごちそうであるネズミがいなくなってとてもくやしそうです。
大きな牛のすばやい走りに、ネズミはなんどもふりおとされそうになります。それでも、ウサギが作るおもちを早く食べたいという思いはかわることがありません。
「あともうちょっとだから、ふりおとされるんじゃないぞ」
ネズミが大きな牛の言うことに耳をかたむけていると、小高いおかのてっぺんにたどりつきました。大きな牛からおりたネズミが目にしたのは、うすでおもちをついているウサギたちのすがたです。
「わあ~っ! おもちだ! おもちだ!」
ウサギたちは、ネズミのために小さなおもちをまるめています。これなら、口が小さいネズミでも食べることができます。
「ぼくたちが作ったおもちはおいしいかな?」
「あんこが入ってとってもおいしいよ! 牛さんもいっしょに食べようよ」
「それじゃあ、わしもおもちを食べるとするかな」
こうして、ネズミと大きな牛はおもちをおいしそうに食べています。ウサギたちも、おいしいということばを聞いてとてもうれしそうです。
すっかりくらくなった夜空には、大きな月がおもちを食べるネズミたちのいる小高いおかをてらしています。